登録審査

 大陸共通歴3512年7月6日/水曜日


 翌朝、一行はレヴィアタンの裁量で決定した講習と等級審査試験を受けるため7時前には執務室に集合していた。

 午前中は講習だが前日に決定していたその内容は登録希望者が受ける講習だけでなく金一級が受ける内容までもが含まれており、エリーゼはいくら何でも詰めすぎだと判断しボリュームを減らすようにレヴィアタンに上申したが却下されたと前置きした。

 都合3時間の講習が終了するとなかなかのボリュームだったと話し始め、冒険者としてとるべき行動だけでなく、その講習内容そのものの詳細について改善点もあったなど口々に発している。

 人種ではない竜種であるユキとシラユキでさえ、金一級クラスの講習内容の理解しづらい部分の改善点を論じているほどだ。

「教本読んだだけでここまで理解できるもんなのかよ…すげえな…どの講習でも受けた時は何度聞いても、チンプンカンプンだったのによ…」

「ホントよね…。私たちとは頭の出来が全然違うのよ…」

 ゲイルとシャルロッテは一行が論じているさまを見て小声で感想を漏らし自身を嘆いている。

 ちょっとした問答があったので30分押しで8時に開始、現在11時を回ったところで一旦、昼食休憩にしようということになったのだが、雅は一同を見回してエリーゼに全員が内容を把握し理解しているから確認テストを始めてくれてもいいと伝えた。

 さすがにそうもいかないと言ったエリーゼだが、先に確認テストを実施し採点後、一定の成果が出たら白金級向けの講習を盛り込めばいいと判断したレヴィアタンの鶴の一声で確認テストから実施ということになった。制限時間は2時間だったのだが一同90分経ったところで全問回答し終えた。

 当初の予定ではこの後、一旦ギルドを出て移動中に食事をしつつ講習内容である実践研修と技能能力試験をを兼ねた薬草の採集及び討伐を終えたら再度ギルドへ戻り、次は各種薬品づくりをして最後に筆記試験を受けるという段取りだ。

「移動中のランチって落ち着かないよね…。ストックしてるヤツで済ませちゃわない?」

「そうだよねぇ。またストックから選ぼっかぁ」

 ラーシュのその言葉にまたバーガーとコーラがいいとユキが食いついた。

 それならとリアムが取り出したのは三度の転生で過ごした日本では数えられるほどしか期間限定ショップが展開されていなかったカルフォニアを中心としたアメリカの西海岸エリアにしか進出していないアウト・アンド・イン・バーガーのダブルダブルというふっくらしたバンズにパティが2枚、チーズ、レタス、トマト、オニオンスライスが挟まれたバーガーとフレンチフライだった。

「リアムがそう来るなら僕も出すよぉ、バーガー単品だけどこれはオススメだからさぁ」

 そう言って取り出したのはアメリカ国内でファストフード・チェーン人気をアウト・アンド・イン・バーガーと二分するが日本での展開がなかった炭火焼きに拘りを持つザ・ホビットバーガー・グリルの炭火焼テリヤキバーガーだ。

「どっちも美味うめえんだよな。ラーシュ、フライドポテトはどうしたよ?」

「僕さぁ、ポテトはアウト・アンド・イン・バーガーのほうがジャガイモの味がしっかりするし軽いから好きなんだよねぇ」

 食べたそうにしているゲイルを見かねたリアムが手招きする。

「君らの分もちゃんとあるから安心しなよ」

「すまねえ。におい嗅いだら強烈に食ってみたくなってよ」

「それなら私の分も大丈夫よね、リアムさん、ラーシュさん」

 いつの間にか食事の輪にレヴィアタンが加わっていたたため彼女の分も用意した。

「こっちのテリヤキっつうのには焼いたパインも挟まってんだな」

「その甘さがメチャクチャ合うんだぜ? とりあえず食ってみろや」

 バンズの外側は炭火で焼き目が付けられてサックリしているが中身はふんわりと柔らかくテリヤキソースとマヨネーズの相性は抜群でグリルされた玉ねぎと焼かれたジューシーなパインの甘さがこれまた旨さを倍増させているのだ。

 ゲイルがかぶりつきその甘じょっぱいソースと炭火で焼かれたパティの味に旨いを連呼している。

 ラーシュがオプションでチーズも挟めると一言付け加えたらそちらもと全員がせがんだ。

 竜種3人以外の女性陣は味付けが濃くなく噛めば噛むほどパティから肉の旨味がにじみ出て上品に感じるダブルダブルがいいと言っている。

「このハンバーガーっていうの生れてはじめて食べたけど本当に美味しいわね」

「シャル、こういうの毎日食べられるお店があったら通ってしまいそうよね」

 シャルロッテ達、流人ながれびとの女性陣達もバーガーの虜になってしまったようだ。

「皆さん、ご馳走様でした。押しかけてしまってごめんなさいね。この後も頑張ってくださいね」

 レヴィアタンも満足したようで満面の笑みで執務室へと戻っていった。

 早々に昼食を終え、ギルドの外へ出ると魔導車が用意されていた。

「アテナ、預かっているゲイル達に譲る魔導車を一度見てみようよ」

 アテナが預かっていたらしくサブスペースから取り出すと地球でいうところのリムジンタイプのゴールド一色でメッキされた魔導車が姿を現した。

 昨夜の時点で貰う理由がないと固辞していたゲイル達に譲る約束をしたのだがその二人も笑顔から一転、表情を曇らせた。

「なんというか…無駄にデケえな…」

「悪趣味で色合いも下品ね…」

 元は高級車なのだろうがシャコタンと呼べるほど車高ダンパ^れ、車体が大きすぎてその場にいる誰もが使い勝手が悪いと思った。

「ゲイル…こりゃ売っ払っちまっていいんじゃねえか…」

「そうだな…」

 魔導車の足回りに興味を覚えたラーシュがタイヤをまじまじと見ている。

「こっちではさぁ車輪ってどういう風に作ってんのぉ?」

 木そのものがゴム質で幹を輪切りにするとドーナッツ状になるバオーブという木が使われているという。ただブロックパターンは樹皮に左右されるため、地球のタイヤと同じようにはいかないらしい。

 ただタイヤの説明をしたことでゲイルは少し気が紛れたようだ。

 とりあえず、売却時まで預かることとしギルドが用意した魔導車に分乗し一行の行先である先刻イリスから話のあったチョル湖へと魔導車は走り出した。

「意外にも乗り心地は抜群だな」

 魔導車のサスペンションは地球で用いられているエアサスペンションや油圧式ダンパーとコイルバネの組合せではなく魔素を利用したダンパーが使われているらしく大きな段差でも吸収し車体がブレず振動を感じない。

 技術的には時速100ルル程度で走行可能ではあるが国家間で取り決められた基幹街道での法廷速度は50ルルに制限されており車窓から見える景色はゆっくりと流れている。ちなみに1ルルは時速1キロとほぼ変わらない速度である。

「しかしよ、50ルルしか出せねえって…おせえな…」

「法定速度があるなら仕方ないですけど従うべきですよ」

龍の愚痴を聞いたミユキが諫めるも確かに時間がもったいないと続けた。

 予め調べていた群生地とは違う場所になってしまったがチョル湖への道中にドローンを先行させ群生地を発見、難なく規定量をメンバー全員一つの間違いもなく採集を終えチョル湖に到着した。

 到着と同時にパーティーごとに別れ湖の周囲をそれぞれ監督者が随伴して調査を行う予定だったのだがコームの集団繁殖地という格好の餌場と判断し魔の森を抜け降りて来たのだろう10体のサーバナーガを先行させていたドローンが事前に発見していたので雅は討伐の意図をエリーゼに伝える。

「エリーゼ、10体の大蛇が湖に分散して姿を隠している。倒してしまっても構わないよな?」

このサーバナーガは体長14mほどあり毒を出す牙で相手に噛みつくかその巨大な体躯で締め上げて殺す方法を多用する。当然、現人もとびとには強敵になるためエリーゼは確認するだけに留めようとしたのだが、やり過ごす必要もないため接敵した場合躊躇なく排除するよう雅はメンバー全員に指示を与えてこれを押し切った。

雅組にはエリーゼ、龍組にはシャルロッテ、リアム組にゲイル、ラーシュ組にリナが随伴し監督することで決まり、サーバナーガが姿を隠している場所に分散する。

「そりゃ卵も見当たらねえわけだよな。飛来する期間が決まってんだからよ」

龍からのインプラント通信にリアムが笑いながら答える。

「空を飛んでいる映像見た時に笑っちゃったけど、鶏が空飛んでるって思うとなんか笑えんだよね」

「あれさぁ、多分ちょっとした遺伝子操作で簡単に鶏にできると思うから討伐ついでに数羽捕まえてケージに入れておこうよぉ」

「ラーシュ、それがいいな。できればつがいで一パーティー4羽ずつほど確保したいところだな」

ラーシュの提案に雅が乗り各パーティにコーム確保の指示を出したところで通信を終えた。

「了解、通信終わり」

「リアム、独り言にしちゃでけえ声出して会話しているように聞こえたけどよ。ありゃなんなんだよ? お前、気でも触れたか?」

「ああ、あれ? 気にしない気にしない」

「それによ呑気にコームなんて生け捕りにできるほど余裕ねえぞ? サーバナーガが見たところここには3体もいるんだぜ?」

ああ、大丈夫とゲイルに返し、ミーナにコームの動きを止める役を、ローラとハルロでコームのつがい2組の確保を指示するとゲイルにこの場で立会うよう伝える。矢次早にアテナに右の1体の処理を指示し、自身は左と後方の2体を処理すると言って飛び出していく。

 リアムは左手に村正レプリカ、右手にラーシュがふざけて作ったマグナムと名付けたガンソードを持ち左手前にいたサーバナーガの首を一薙で斬り落とすと同時にリボルバーから魔力弾を発射し後方にいたもう一体の頭部を吹き飛ばした。

右手にいた一体の処理を任されたアテナも大蛇の首をハルバードの一閃で落としてしまった。コームのつがいはすでに2組ケージに入れられている。

「マジかよ…コームだけじゃなくてサーバナーガまであっという間に終わらせやがった…。あ、サーバナーガの血は錬金術の高級媒介だからよ。血を別に集めるか止血して保存したほうが良いぞ」

ゲイルから指示を受けてミーナを呼んで火属性魔術で止血を施しサブスペースへと納めた。

「こちらの世界でも錬金術って用いられているのね。素材を集めて何ができるか興味は尽きないわ」

「あんたらの世界でも錬金術ってあんのか。でもよ、サーバナーガは金三級で討伐解禁なんだけどよ単独討伐は禁止されている対象なんだぜ。それをいとも簡単に…信じられねえ…」

二体同時に討伐しているのを目の前で見ているのに信じられないを連発しつつも、素材としては一流で脱皮した皮や鱗、牙は武具に。血液以外にも目玉や内蔵は錬金術の媒介になるとゲイルは解説した。

ただ肉はあまり出回らないためマイナーな部類であり白身で脂が乗ってはいるのだが単に焼くと固くなってしまうため蒸し焼きなど工夫をしないと柔らかくならない。しかも淡白な味なのでそれほど人気がない肉であり、サーバナーガの小型種でサーバと呼ばれる蛇は白身でやはり脂のノリがいいしよく出回るが小骨が多く食べる部分が少ないので本当に好きな者が好んで食べるぐらいだという。

 リアムとゲイルがそんな話をしている間に分散して調査をしていた各メンバーから順調に討伐を済ませコームも確保したとの通信が入り長居も無用なのでゴースティンへと戻った。

 一行がギルドへ戻ると確認テストの結果が伝えられた。難解な部類に入る理論問題の回答も含め、全員が満点回答という結果だった。

 休憩もそこそこに各薬品づくりを始めた全員は30分ほどで規定量を並列作業で作り終え検品に回した。

提出された全ての薬品各種の効能は各基準値を遥かに超えており1段階上の級に該当する結果となったほか金剛級体力回復薬に至ってはエリクシールと呼ばれる最上級治療薬に匹敵する効能が確認されたものも数本だがあった。

 雅たちは休憩を挟まなくていいと言い、時間を前倒して最終筆記試験を行ったがこれもまた全員満点という信じられない成績を収めたことが翌日判明する。

「皆さん、今日はこれですべての予定が終了しました。お疲れ様でした」

「雅さん皆さん、お疲れ様でした。明日も1日あるのでよろしくお願いしますね、監督の4人は執務室に一緒に来てくださいね」

 全ての予定を終わらせたメンバーは口では疲れたを連発しているがさほど疲れていない様子で冒険者ギルドを後にした。

 レヴィアタンは執務室に一緒に戻ったエリーゼ、リナ、ゲイル、シャルロッテから各人のチョル湖での行動を報告を聞いた。

 ゲイルからはリアムたちの行動を報告するとともにミーナが行動阻害魔術によりコームの足止めをした瞬間にローラとハルロが既にコームを2羽ずつ確保しケージに収めたと思ったらアテナとリアムの2名だけでサーバナーガ3体を瞬時に処理したことに驚いたと報告した。また討伐後、暇を持て余したリアムが面白がってミーナに湖全体を異界の魔術だろう瞬間凍結を施させ、暫く時間をおいて瞬間解凍をすることを繰り返させたが解凍後の湖では止まっていた小魚が泳いでおり、魔術を使用する際も無詠唱で行ったと締め括った。

 龍たちを監督していたシャルロッテからも信じられないとの報告を受けた。

その内容はコームの足止めもせず少し目を話したらミユキとユキが2羽ずつ捕まえてケージに入れておりサーバナーガ2体との戦闘になったのだが一体を龍がいつの間にか頭部へ飛び乗り手をそっと置いただけで頭蓋だけを砕いて絶命させ、残る一体をミユキが目視できない速さで薙刀を一凪しサーバナーガを真っ二つにしたと報告した。また、龍たちとラーシュたちとのちょうど中間あたりで魔の森のほうから斜面を駆け下り湖に近づいてこようとしたブラックハウンドが30頭ほどいたのだがユキが手を払っただけで半数が爆散、シラユキが残りの半数を凍結死させたのも見たと語った。

 ラーシュは滑車のついた弓で放つと矢が勝手に曲がりサーバナーガの急所である顎から頭部へと貫通させて絶命させ、アサヒが槍とハルバード二本を同時に使い槍を眉間に突き刺したまでは見たがハルバードで首を切り落とした場面は見えなかったのに首が切り落とされており、こちらも戦闘が終わってケージを見たらコームが4羽入っていたとラーシュたちを監督していたリナが報告した。

 最後にエリーゼが雅組の行動を報告した。

「お二人と一緒に歩いていたのですがソフィアさんは私が湖畔に近寄り振り返ったらコームを一人で4羽ケージに入れていました。その後、彼らはサーバナーガ3体に接敵しましたがソフィアさんは脇差と呼んでいた細剣とは違う反りのある二振りの剣を使っていました。目視できない速さで近づき一閃で二体の首を斬り落としています。雅さんは真言と言っていましたが呪文のようなものを唱えて両手で何かを九回形作って彼が腕を突き出したらサーバナーガの頭部が爆散しました。この間、彼は一歩も動くことがなかったです。正直申し上げますと金一級では釣り合わないと思ったくらいです」

「エリーゼの言うとおりだ。あいつら金や白金で収まるタマじゃねえ」

「私たちが寄ってたかって苦労して退治できるような大物をあんな涼しい顔して一撃で倒しているやつなんて見たことないわ…」

「あれじゃ、どっちがバケモンだかわかんねえ…。これだけの実力差を見せつけられると自分がイヤになっちまうよ…」

「あんなに綺麗で強いなんて…憧れちゃいます! ああ…なんて素敵なお姉さまたちなのかしら…」

「そうですか。みなさんと報告ありがとうございます。等級決定は明日の買取と解体研修を終えた時点で再考慮します。今日は疲れたでしょう。あなた方も今日は上がってください。ゲイルとシャルロッテも申し訳ないけど明日もお願いしますね」

「了解です。では失礼します」

 残ってレヴィアタンに報告をした4人も執務室を後にした。

「ちょっと想像以上の結果ね。さて…どうしたものかしら…でも何かまたあっちのお料理、食べたいわね、次はお寿司ではなくて等…きっとあれね。うふふ」

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