市場めぐり


「ひどい目にあったよ…なんで僕とハルロを置いて行っちゃったのさ…」

雅の部屋でドローンが撮影したこの街の市場や主要の大通、ソエジマビルの映像データを見ながら話をしていたところにロビーに取り残されたリアムがげんなりした表情をして入ってくるなり疲れたように愚痴を溢した。

そのリアムの後にはやはりげんなりしたハルロが立っていた。

「まあ落ち着きなよぉ、リアム。いい異世界交流だったと思えばいいんだよぉ。実際に街歩きしてみて感じたんだけどさぁ、生活環境は劣悪って報告があったけどこの街は浄化消臭魔術のおかげか綺麗だよねぇ。通りにゴミも落ちてないしぃ」

ラーシュが諭すように煽り街が思いのほか綺麗だったことに感心している。

「他の街や国はまた別かもしれねえけどな。俺としては中央市場がやっぱり気になるな。見たところ、あらかたの食材は手に入りそうだな」

「一度、一通り買い込んで聞いていくのが一番手っ取り早いかもねぇ。僕は乳製品やソースに使える材料とか気になるしねぇ」

「俺は乳製品も気になるが果物が気になるな。組み合わせてどんな味になるか、糖度がどれだけあるかとかな。それに一番気になるのはやはり卵だ。どこを見ても鶏の卵がない」

特定の素材や食材、現象などであれば知識の泉から引っ張り出せばいいが週類が増えれば手数も増える。

メンバー全員、面倒くさい事が嫌いなのでAIに振ろうとしているのだ。

「それじゃ僕は野菜と酒を主に見てくるよ。ついでに買い物中の様子を撮影して魔の森の2人にシェアしようよ」

リアムの提案どおりにそれぞれの買い物中の一部始終をオンラインでシェアしていくことにした。

魔の森の2名にも一行が送ったデータの保存、名称や特徴などのリスト作成を命じた。

「中途半端な時間だがブロックごとに別れて買い込めばなんとか夕食の時間に間に合いそうだな」

「リアム、詫びにお嬢様をデートに誘ってやれば機嫌も直るんじゃねえか?  ハルロもメラニ嬢に買い物がなんとか言われていなかったか?」

「いやだよ! 全然、気が進まないよ!」

「ええ、メラニ様に言われておりましたが、些か気が引けますな…」

薬品の成分を分析していた女性陣から、そのままにしておくよりは今後の関係を考えると連れて行くべきだろうという意見がありイリス達三人を誘った。出掛けに宿の受付にゲイル達が訪ねてくるので二人の部屋を用意するように言い街の中心部にある中央市場に向かった。

「かなり大きな市場ね。これは行きたい場所を決めて見て回らないと大変そうね…」

宿の最寄りの入口にある案内図を見てミーナが言った。

今いる入口は東の入口でこの区画は食料品を扱う店が並ぶ。対して西は魔道具や武具店や魔導車店、家具店などの大型の製品も扱う店が多いようだ。南には飲食店街があり女性陣の行きたい衣類や靴、宝石店などは北にあり日用品を加えて安いものから高級なものまで幅広く扱っているようだった。

「食料品だけじゃなく酒もあるし服に靴、宝石店に武具店に飲食店、魔導車屋なんてのもあるなんて、まるでショッピングモールだね」

「ただ今回は食料品に絞って買っていくつもりだからな。服や靴、主に宝石店には用はないから近づかないぞ。今は16時を少し回ったところだ19時にこの市場の中央に集合しよう」

雅は少しだけ意地悪く女性陣に言ってみたところ案の定、ブーイングが湧いた。

「わかったわかった。品質や縫製があまり良くなさそうなものが多そうなのにそんなに見てみたいのか」

「雅、それでもよ。服や靴は現物をスキャンしてこちらの素材で復元すればいいんだもの。それにあなたが好きそうな素敵な下着もあるかもしれないし。もちろん宝石はプレゼントしてくれるんでしょ? ね、あなた」

ソフィアは雅を上目遣いで瞳を潤ませて強請ったのをきっかけにソフィアにならってほかのAI達も自分の上官にねだり始めた。

ユキやシラユキ、ミーナやローラはわかるがなぜかメラニも加わりハルロに期待した視線を送っている。

「はあ…調子が狂うな。じゃあ食料品を集めたら各々、北の用品店を見て回っていてくれ。インプラント通信で位置把握しつつ合流すればいいだろ? それじゃ解散」

三々五々、メンバー全員は食料品の買い出しを始めた。

すれ違っていくスリの類は子供の場合は避け、大人の場合は接敵と同時に手の骨を握りつぶしてやりすごしていく。

それ以外に絡んでくるものはおらず一店舗ずつ並べられた品を片っ端から景気よく買っていき名前や調理方法を聞いていくのだが、お目にかかれないような美人を連れていることもあって店主達は顔を赤らめたり、見惚れ呆けたりしながらも快く値引いてもくれた。

その逆もまた然りで女店主の店でも同様のことが起きたが、女性陣は若干不機嫌になる。その際たる例がユキだった。

「あの店の女将、龍に色眼を使っておったぞ。ミユキ、貴様も気づいとっただろう?なかなかに色気のある美人でもあった。忌々しい! どうしてくれようぞ!」

「ユキ、言葉遣いが戻ってますよ。可愛くなると言っていたじゃない。このお店を出たら服と下着を見に行きますからね。そして二人して龍を悩殺してあげるんです。ユキ、行きますよ!」

「うん、そしたら龍はメロメロぞ…よね。それにわ…私達が龍のモノっていう証も買ってもらわねば…もらわなきゃぞ…よね」

「アホなこと言ってねえで、もう行くぞ。店であんまり長居すんなよ?」

「ほえ〜、お前さん収納持ちだったんだねぇ。若いのにやるもんだね。どうだい、ウチの娘まだ貰い手がいねえんだ。貰ってやってくんねえか?」

二人して結構と店主に嚙みついた。

「この娘さんたち、兄さんにぞっこんだね。羨ましいねえ、こんな美人二人も連れててよ。たくさん買い込んでくれてありがとよ。また来てくんな。安くすっからよ」

「まあな。買ったものの名前もわかんねえんじゃ困っから勉強になったぜ。こちらこそありがとうよ。またよろしくな」

そんなやり取りを繰り返して北側の若干高級そうな衣類と下着を扱う店に到着したところ分散して行動していたメンバー全員が集まっていた。

「AIの考えることはやっぱり同じみたいだよねぇ。アサヒはまだしもシラユキが不貞腐れまくってさぁ」

「こっちも似たようなもんだよ…ミーナとローラが下着って言いだしたら今度はアイナ嬢が鼻息荒くしちゃってさ。なんなんなの!?」

「皆様、このハルロ、些か疲れました。つきましては先に戻らせていただきたいのですが…」

「ハルロさま、そのちょっとご相談が…なのでご一緒してください」

ハルロはメラニに引っ張られ店内へと消えていった。

「それでみんなどうだった? 名前と調理、保存方法も聞いたけど名前と見た目が違うだけで地球と同じような味の野菜が多かったよ。山葵はやっぱどこにもないね…大根と白菜もなかったよ」

大葉はやはり解毒薬としての認識が強く店頭に並んでいない。

次にじゃがいもはあったのだが人が食べると中毒を起こすという理由から家畜の餌にしている。リアムはおそらく芽を取ってないだけじゃないのかと思うと続けた。

それに加えカカオ豆とコーヒーの豆を見つけたがこちらでは下味用に使うか眠気覚まし扱いである。

また肝心の香辛料は胡椒ぐらいしか目ぼしいがなくその胡椒は安く入手できるが逆に塩が高価だである。

海岸も遠く塩湖もないとなれば岩塩を採掘する手段しかないのだろう。

となれば採掘手数料が嵩むのは明らかだ。

また酒類も見てまわったが赤、白、ロゼのワインは全てぶどう酒と呼ばれている。

スパークリングワインもあるのだが産地で消費して市場に出回ることが皆無。

ビールはなくエールをよく冷やした状態で楽しむのが主流。

ドワーフたちの作る火酒もあり試飲した感想はウイスキーに近いということ。

あとは蜂蜜酒に柑橘類の果実酒などがあったとのこと。

この国では稲作は盛んだが日本酒のような米の酒や米酢に加え麦、蕎麦、芋の各焼酎もなかったと話した。

また一部の人がやっているのは話に聞くがカクテルを提供する店は聞いたことがないとのことだった。

乳製品を見て回っていたラーシュの話ではバフローオークスの乳から製造されるものがほとんどでありミルクはそのまま、チーズがチカリ、ヨーグルトはヤグー、バターはオクサーと呼称されている。

菜種油やごま油はあったがオリーブオイルは一般にはでまわることが少ない高級品だという。

パン屋に聞いた製造方法はイースト菌を認識してないようで重曹を使って焼いており高級なパンはヤグーを使い焼いている。

主に魚介を見てきた龍は内陸部のせいか淡水系の魚介が安く海水系の魚介は運搬コストのせいか高い。

高価である海水魚のほうはシータイと呼ばれるマグロに似た魚とゴビと呼ばれている真鯛のほか、サテと呼ばれる鰯に鯵その物を入手した。

手長海老みたいな海老がほとんどでロブスターや伊勢海老にちかい海老、大型サイズのシャコ、甘海老の類は高級な扱いを受けている。

蟹と雲丹や牡蠣、栄螺さざえは悪魔の手下とか言われてて食さない。

はまぐりっぽい貝や鮑に浅蜊などは湖で養殖しているらしいとのことだ。しじみはボナーの餌だとも付け加えた。

「穴子と鰻を見かけなかったのが残念だぜ」

「それじゃ土用の丑の日はストック物を使うかだね。最悪、養殖してどうにかするしかないね」

「ない魚介類の養殖はこれからの計画に織り込むとしてぇ。代わりになる食材を探す価値はあるねぇ」

果物について見て回った雅からは地球で食されている果物はほとんどあり名称もあまり差がないとのことだった。ただ柑橘類についてはオレンジとレモン、グレープフルーツにキームと呼ばれる金柑がある程度でそれ以外を見つけることはできなかったと語った。

しかしどの果実も驚くほど甘くて旨く、こちらで出回っているもののほうが断然クオリティやポテンシャルは高いと語った。

また桜や梅、桃の苗木のほかにミントやレモングラス等のハーブの苗も売られていたが庭のアクセントや観葉植物代わりの扱いだったということだった。

料理に使うと言ったら驚かれたらしいのでこの世界の料理が単調なのもわかったと話した。

肉類はボナーにバフローオークスの肉のほかに草竜の肉が主に取り扱われており、出物としてサーバという大蛇の肉や渡り鳥のコーム肉が高級品として随分高価だったと語った。

「マジで問題は卵だぞ。どこにもないんだからな。サブスペースにストックがなかったら卵かけご飯も食えなくなるところだったぞ」

地球出身者にとっては卵は外せない存在だ。生食のほかにオムレツ、目玉焼き、フライや天ぷらといった主菜のほかケーキ等のデザートにも使う。しかも草竜の卵よりも格段に味がいい。

「やっぱり鶏を探すのが一番だよねぇ。ウズラとかもいるといいんだけど。魔獣でもいいから片っ端から鳥みたいなのを生け捕りにしてみようか?」

「いいんじゃね。そんでもってよ試験場にぶち込んで飼育してみようぜ」

「こっちの生態系が壊れかねないからねぇ。慎重にやってかないとマズいよねぇ」

当面は魔の森で厳重に飼育管理すればいいのではないかという結論に達したところで釣り好きな龍が同じく釣り好きの雅を釣りに誘った。

「そうそう! 宿の横の川にはブラウントラウトのパチモンと虹鱒みてえなヤツの20インチオーバーがたんまりいるって話だ。今度釣り行かねえか?」

「赤道直下なのにその話マジかよ! 時間作って行こうぜ! それならこの世界の釣り道具も一応は見ておきたいよな」

話が脱線しはじめた4人のもとに衣類店から女性陣が出てきた。

「すいません、遅くなりました。でも今夜は楽しみにしていてくださいね。皆で一番似合うものを相談して決めてきましたから」

女性陣メンバーを代表してミユキがそんなことを言ってきた。

時刻を確認すると既に予定の19時を過ぎており自分たちが下着店で長く時間を費やしたため反論できず約束していた宝石店は後日に、ということで話はおさまった。

宿にゲイルたちが来ているはずなので食事にしようと急いで戻ろうと移動していると龍やリアムは立ち止まり、客引きの娼婦を凝視している。

「あの姉ちゃんなかなかのMと見たな。楽しめそうだ。リアム、お前の求めている踏んでくれそうなのがあそこにいるよな」

「お、いるねぇ。しかもなかなかのおっぱいちゃんだ。いいね、あとで行こうよ龍」

「私たちを差し置いてどこに行こうと言うんですか、龍。そんなに私達じゃ満足できないんですか? 言ってください? さあ!」

「リアム、どういうことかしら? あなたが泣いて喜ぶまで毎日罵って踏み倒してるのに! 私達じゃ不満なのか言ってごらんなさいよこの雄豚!」

「わかったよ…僕たちの負けです…」

「そうだな…帰って飯食って寝るか…」

一行は急ぎ、宿へと戻るとゲイルとシャルロッテは食堂でエールを飲みながら待っていたようですぐに雅達に気がつき声をかけた。

そこには満面の笑みを浮かべたエリーゼとリナの姿もあった。

わりい。遅くなっちまったな」

「よう、おせえから一杯やり始めたところだ。市場へ行ってたみてえだな。でもよ遠慮なく押しかけちまったけど問題ねえのか?」

「そうよ。来たら部屋まで案内されて。ここ高いから心配たったのよ」

自分が用意させたから今夜はゆっくりしていけと雅が二人に伝えた。

「こんばんは、雅さん、えへへ来ちゃいました。」

「ああ、エリーゼちゃんにリナちゃん、こんばんは」

「こんばんは、皆さん。お姉さま方。やーん、やっぱり綺麗すぎるわ! 大好き!」

「こんばんは、ちょっとリナちゃん近い近い!」

どう見てもエリーゼは雅一択でリナはアテナを始めとした女性陣だけを見ているようだった。

「それであなた達、北のあのお店には連れて行ってもらえたの?」

シャルロッテが衣類店と宝石店のことを教えたようで女性陣に聞いた。

「シャルロッテ、勿論よ。あの衣類店は素敵なものがたくさんあったわ」

余程楽しかったのかミユキが珍しく饒舌になっている。

「でもね、私達が衣類店で時間かけすぎちゃってね宝石店には連れて行ってもらえなかったわ。でも今度、王都の高級店に連れて行ってくれるみたいだから気にしていないわ。うふふ。」

ソフィアが暗に高級宝石店へ連れて行けと云わんばかりのセリフを男性陣に伝わるようにさらっと言っていた。

各々テーブル席に座り、自然と食事会とあいなった。

宿から提供されたこの日の夕食は手長海老に似たテュールの素揚げにテーツで煮たブラウントラウト似の鱒のオクサー添えにトーメというじゃがいものような味のするマッシュトーメが添えられた一皿とペマというパプリカに似た野菜とレタスとキャベツの中間の野菜という感じのギャレスのヤグードレッシングのサラダという内容だった。

ユキやシラユキ、ゲイルが肉も食べたいと言い始めたので追加でコーム肉のローストにキームソースをかけた料理を人数分追加したがオレンジソースを使った鴨肉のローストと同等以上、いや鴨肉よりも柔らかくソースも酸味と仄かな甘みが抜群にマッチし好評だった。

サーブしてくれたウェイターに聞けばコーム肉は市場で確認したように高級肉として取り扱われており、ここ最近の収穫量は例年の半分ほどに留まっており値上がりが激しいとのことだった。

領内にあるチョル湖という湖がコームの集団繁殖地であるのだが、最近サーバナーガと呼ばれる大蛇が住みついたという噂話を聞いたとイリスから聞かされた。

エリーゼが付け加えた情報は、現状では噂話という事で信憑性が低くギルドからは調査依頼や討伐依頼はまだ出されていないとの事だった。

ひとしきり食べ終えたところでエリーゼとリナから明日の段取りと各生産薬品の品質の基準の再説明とゲイルたちから薬草の群生地の場所を聞かされた。

「とまあ、こんなところでいいか?」

薬草ポルネの群生地ならここまで移動しなくても目星はつけてあるから大丈夫だ」

「本当なの? 資料見ただけじゃない。まさか一度見ただけで覚えるなんてことないわよね? それも全員とか…」

「いや、皆覚えてるよ。薬品の作り方も完璧に覚えたね」

「おいおい、嘘つくなやリアム。いくらなんでも1刻も経ってないうちに全部習得できるなんてあり得ねえよ」

「そのまさかよ。ここにいる今日登録した人達は覚えちゃったのよ。私も覚えたしそこにいるローラやハルロもね」

なんてことはない。

ミーナたち三人に薬草の種類など知識付与を施し各薬品の品質基準ごとの作成手順などはラーシュが全員にスキル付与したからだ。

まだ少量だが魔力生成ができるまでになったAIにもスキル付与は可能だった。

「やっぱり黒級とか金級の流人ながれびとの人達って違うのかしら…。今まで見たことも聞いたこともないですよ」

「んふぅ、お姉さま方やっぱりすごいんですね。妹になる身として鼻が高いです。大好き!」

「ちょっとリナちゃん、あなたずっとおかしいわよ?!」

「ねえ、エリーゼちゃん、リナちゃんってビアンなの?」

「何ですビアンって? それはリナちゃんは美人って言われますけど…。美人のことではないんですか?」

「ああ、同性愛者なのかって聞きたかったんだよ」

レズビアンという言葉はなかったらしいがどうやら図星のようだった。

「はい、私、男性が苦手でして…。あ、受付とかで応対する分には特に問題なくできるんですけどね。個人的な…その恋愛となるとちょっと…男の人って怖くて…。それにきれいな女の人がやっぱり好きなんです…」

「それは悪いことしちゃったねぇ。ごめんねぇ」

ラーシュから素直に謝られるとは思っていなかったリナは少し驚きながらもホッと安堵の表情を見せた。

「でも、僕はリナちゃんはとても可愛いと思うし好きだよぉ。ただ、僕らの女性陣は期待薄かな。みんな、好きな相手いるしねぇ」

サラッとラーシュから言われてほんの少し顔を赤らめたが後半部分を聴いた途端にしょんぼりとした。

「まあ、これも何かの縁よ。これから仲良くしていきましょうねリナちゃん」

アテナが間髪入れずにフォローに入った。

明日は全員朝から忙しくなることをわかっているので早めに解散となった。

リナは女性だけで宿泊しているイリス達に招かれ恐縮しながらもそれが一番安心するということで四人で出ていった。

残った者たちもそれぞれ部屋へと戻ったのだがエリーゼからあらためて話があると言われて雅とソフィアの泊まる部屋に3人でむかった。

部屋のソファに雅とソフィアがそれぞれ腰かけるとエリーゼは二人の対面に腰かけおもむろに口を開いた。

「あの、雅さんからの求婚のお話なんですが喜んでお受けします。ソフィアさん、よろしいですよね?」

エリーゼが話した内容に二人とも困惑した。

「ちょっと待ってくれ! 昼間もそんなこと言われた気がするけどなぜ俺が求婚した事になっているんだい?」

「私もちょっと驚いたわよ。でもなぜ急に?」

昼間、雅がエリーゼたちに渡したダイヤモンドの原石をそっと大事そうにテーブルに置いた。

「こちらです。これは求婚の証ですよね?」

エリーゼは真面目な顔をして雅に問い詰めた。

「え? これは迷惑をかけた詫びにとね?」

「じゃあ、違うんですか?もし、そうなら…私…わだじ…ばがみだい…」

エリーゼは目に涙をたっぷり浮かべて泣きそうになるのを堪え言葉をひねり出した。

ソフィアはあちゃあ、やっちゃったという呆れ顔を雅にしながら説教を始めた。

「閣下。そのつもりがなくてもあなたは渡したんです。そして責任を取るのが男の努めだと私は思いますよ。それに私、増えることは誇らしいって言いましたよね? まあ、限度というものはありますけど。それでどうするんです? まさか追い返すとかしませんよね? こんな良い娘なかなかいないと思いますよ!」

「しかしだな…」

ソフィアはしかしも何もないと雅に言い放つとエリーゼに向きなおり確認をした。

「エリーゼちゃんは閣下と、いえ雅と一緒になりたいのよね? 勿論、私は大歓迎よ」

「なりだいでず…雅さんのお嫁さんになりたいです…」

雅が暫くの間、目を閉じ腕組みしたまま思案した。

二人とも雅の返答を黙って待っている。

静寂が思い空気を作り始めた時、雅はゆっくりと目を開け一度深呼吸をした。

姿勢を正してゆっくりとエリーゼに向かって返答した。

「ああ…俺はこんな調子だから君を悩ませるかもしれない。それでも俺といることを選ぶなら君を全力で愛す。いいかいエリーゼ?」

「はい、喜んでお受けします。雅さん」

先ほどまで目に涙を溜め口をへの字にしていた表情が一転し満面の笑みと嬉し涙が一筋流れた。

「これで一件落着ね。さあ、明日は忙しいんだからさっさとベッドに行きましょ、勿論エリーもね」

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