ギルドマスター


一通り説明が終わったタイミングでエリーゼとリナをほかの女性職員が呼びに来た。

「エリー、リナ、ギルドマスターが呼んでいるからここは私に任せて早く行ってちょうだい」

暫く待たなくてはならないと思った聖たちのもとには初老の男性職員が近づいてきてルヴァンと名乗った。

そのルヴァンからエリーゼとリナが戻ってきたらギルドマスターと会うことになるのでしばらく待っていてほしいと伝えられた。

そう言われて待機することになった雅たちは空いているテーブル席に各々、腰をかけた。

暇を覚えた龍がのんびりと依頼票を吟味しているゲイル達に近づき話しかけた。

「よお、ゲイルつったよな。あんたらは何年冒険者やってんだ?」

「んぁ? 俺たちか、俺たちはこの街生まれでよ。成人する前の14から始めてっから9年くらいだな」

「今は金二級になって暮らしもそれなりに楽になってきたけどそれまではホントにキツかったわね。何度も二人で辞めようかと話し合ったものね、ゲイル」

これまでの苦労を思い出したのかシャルロッテが苦々しい表情を浮かべてゲイルにしなだれかかった。

「冒険者業ってのはそんなに大変なのか? 確かにエリーゼの話だと下積み期間が長えし面倒くせえなって思ったけどよ」

「その下積み期間が大変だったのよ。二人とも揃って頭の出来が悪いからかしらね。覚えるのが大変だったし不器用だからなかなか基準値を超える薬を作るのができなかったのよ」

「そんときゃよ、一日にどんぐれえ稼いでたんだ?」

「最低保証給金があってな。一人一日8,000ルプ貰えんだけどよ。カッツカツだぜ?」

「アタシらは実家からだからまだいいわよ。他所から来たたいていの人たちは宿に泊まって2食ってのをやると足が出るのよ。おまけに薬品の材料費はギルドから差し引かれるしね」

「材料は取りに行けば手に入んだろうが?」

「龍、お前さん下積み冒険者がこの街に何人いると思ってんだ? 軽く5千はいるんだぜ。そんなやつらが薬草やら材料取り続けてみろ。それこそ根こそぎって感じだ。ガキの頃、沢山生えてた薬草ポルネの群生地も今じゃ禿げ上がってんだぜ。なかなか上がれねぇのも無理ねえだろ?」

「でもよ、それじゃ冒険者になりてえやつなんて出てこなくなるんじゃねえのか」

「そうね。他の支部じゃ年に一人もいないって事も普通にあるって話を聞くわ」

「だがこのギルドの登録者は魔の森が近くにあるからかなりの数がいると聞いたぞ」

シャルロッテが話終わると同時に雅が加わった。

「そうだな。魔物の量が他に比べりゃ多いし危ねえけど少し奥に行きゃポルネの群生地もわんさかあるしな」

雅も龍もギルドの姿勢はとにかく慎重すぎなのではと指摘した。

「ギルドとしては冒険者にゃ簡単に死んでほしくないのでしょうね。でもやっぱり魔物討伐の解禁資格が厳しすぎんじゃないかって頭の悪いアタシでも思うわ」

突然、バンと大きな音がしてギルドの扉が開いた。

AI達に殴られパンパンに顔を腫らせたゲイル率いるグループだ。

その彼らがいそいそと入ってきて近づこうとしたがシラユキがこれ以上近寄るなと叫ぶ。

「あんた達、臭いからこっちに来ないでちょうだい!」 

ゲイルから魔導車と白ワインと赤ワインの樽を買ってきたとの報告をを受けてソフィアが事務的に返答する。

「後はこっちでやっておくから駄犬は巣にお帰りなさい。言われたとおりにしないとまたぶちのめすわよ!」

「わかりやした! 姐さんたち、何かありやしたら呼んでくだせえ。何が何でも駆けつけやすから!」

相当、ひどく打ちのめされたのかそそくさと立ち去っていったのを眺めていたゲイルがふと感嘆とも呆れとも思えるようにぼそっと呟いた。

「可愛い顔してすげえ姉ちゃんたちだな…」

「あん? あいつらちょっと普通じゃねえからよ。舐めてかかると痛い目見んぜ」

シャルロッテは女性陣のシミ一つない綺麗な肌を見て美容法が気になるのだろう、龍の隣に立ったミユキに話しかける。

「ねえ、アタシ気になってたんだけどあの娘達本当に肌が綺麗よね。一体どんなお手入れしてるのかしら」

ミユキは一言、礼をいうも特に何も気を付けていることはないと返答した。

「なあ龍、さっきの話だけどよ。お前さんら魔導車、本当にいらねえのか?」

龍はゲイルの問いに即答で不要だと答える。

「あんたらの好きにしな。俺らは使わねえしよ。ゲイル、あんたもいらなきゃ売っぱらっちまってもいいぞ」

「シャル、ここは貰っておこうぜ。こいつを売れば借金も楽になるしな」

ここまでシラユキやアサヒと話していたラーシュだけでなくリアムも嬉しそうに話しの輪に加わってきた。

「なんだ君ら借金あるのぉ? なんなら僕らと稼がない?」

「お前ら、登録しに来たばかりじゃねえかよ。どこにそんな稼ぎ口があんだよ?」

ゲイルが呆れ顔で言い放つとリアムがどや顔で返した。

「金を稼ぐのは魔物倒すだけじゃないんだよ。金を産む卵を見つけるのさ」

「かねを産むたまごだぁ? そんなのあるわけねえだろがよ!」

「卵を見つけるんじゃねえよ、ゲイル。卵を産む鳥を捕まえるってわけだ」

「それにシャルちゃんはさぁ、美容に興味あるんだよねぇ。質のいい化粧品なんかがあったらどう思うのぉ?」

ラーシュから質問されたシャルロッテは女性なら誰でも欲しがると即答した。

さらにリアムが禿げ上がった土地を利用するかは別として薬草を栽培して卸せばいいと提案するとゲイルは得心したようだ。

「まあ、そういうわけだ。悪い話じゃないだろ? 少し俺たちに付き合ってみないか?」

「なんなら晩飯食いにに来いよ。そん時に細けえ話しようぜ」

「な、ですって! 街で一番の高級宿じゃないの! あなた達何者なのよ!? ほんとに行ってしまっていいの?! ゲイル、あとで絶対に行くわよ!」

そこに落ち着いたのであろうエリーゼがイリスたち三人を連れ雅たちを迎えにきた。

「皆さん、ギルドマスターからお話がありますので2階へご案内します。イリス様たちはリナが案内しますので奥の職員室でお待ちください」

「ゲイルとシャルロッテはどうする?」

「二人には後ほどお話があるそうなのでまずは皆さんからご案内しますね。ごめんなさい、ゲイルさんとシャルはしばらく待っていてほしいの」

「ああ、俺たちは構わねえ。なあ、シャル」

「ええ。急ぐ用事は特にないしね」

先を歩くエリーゼの後をついていき一行は四階の執務室と思しき部屋の扉の前に辿り着くと室内から涼し気な声が聞こえた。

「どうぞ」

「マスター、雅さんたちをお連れしました」

「ご苦労さまエリーゼ、話が済み次第呼びますから今は下がってくれて結構よ」

「はい。失礼します」

エリーゼは深いお辞儀をして部屋をあとにしたところでギルドマスターが自己紹介をはじめた。

「ようこそおいでくださいました。はじめまして同郷の神々の御加護を授かった方々と部下のお嬢様方、別異界の方々。私が当ギルドのマスター、レヴィアタンです。レヴィと呼んでくださって結構よ」

挨拶をしたレヴィアタンと名乗った女性から受けた印象は年齢は60歳ほど、上品で人当たりの良さそうな風貌と共に相対した者を畏怖させる荘厳な風格を持つ女傑というものだった。

「お祖母ちゃん、お久しぶり〜」

ユキとシラユキが満面の笑みでレヴィアタンに抱きついた。

「おい! ユキ、シラユキ、お祖母ちゃんてなんだ? いやレヴィアタンって言やぁあれだろ? 失礼、あの二人といい貴方の名といい、もしやあの神獣レヴィアタンですか?」

龍その問いに首肯すると二人に向かって祝福の言葉をかけた。

「おめでとう、二人とも。とても素敵な名前をを頂いたのですね」

レヴィアタンは雅たち一行が来ることも一行全員のことも事前に知っていたようで龍とラーシュに向かって二人の名付けの礼を言いソファへ座るよう促し一同が座ったところで彼女が説明をし始める。

結界守護の役目を負っている麒麟や四霊獣は実体は地球の神界にありそのための能力だけを擁した別御霊わけみたまにすぎず抗うための力が不足していたことで封印されてしまったのだと改めて説明を受けた。

レヴィアタンは自身の存在を、現人もとびとの成長を見守りかつ導き、またみだりに聖域が侵食されぬよう流人ながれびとを含むすべての人々を監視し諸問題が発生した場合には実力行使ができるような別御霊わけみたまとして派遣されており適切な判断や行動するために立場として国家の制約を受けない冒険者ギルドの長の立場を選んだと語った。

そのような立場にある神獣はレヴィアタンのほかにファイランド王国にあるギルド総本部で総本部総長を務めるベヘモート、東端のイレラ王国マイスタートラス支部長にルティーヤー、北端のユナシュ大公国オラウガウス支部長にジズ、西端のシェイゴス連合王国スワノール支部長にガルーダ、南端のブリッジ共和国ペイケッサ支部長にシムルグと要所に配置されているとのことだ。

ガルーダにいたっては、日本では一般に金翅鳥こんじちょうと呼ばれ仏教の守護神として八部衆、後には二十八部衆の一員となった伽楼羅天の前身となるインド神話の半人半鳥の霊鳥である。

「巨大鯨に巨大魚、巨大鳥って神獣とも聖獣とも言われる方ばかりじゃないですか」

「そうですが、それが何か問題でも?」

「そうだよ雅。僕らも託宣を受けてこの世界に降り立ったんだから今更じゃん」

じっと黙って聞いていたリアムが割って入った。

またユキとシラユキとの関係も血縁の関係はないが神竜へと成長する素養を見込んで持つ身寄りのない二人の育ての親であると明かしてくれた。

「さて雅さん、麒麟様からフレイグロシア島の話は伺っておりますよ。ありがとうございます」

「はい、島を丸ごと接収後、魔の森に転移させています。魔の森にあった我が国の艦船も掌握し、配下としています」

「この先の予定を聞いてもいいかしら?」

「まずは東西南北の四霊獣方の封印を解いて魔の森に戻り応龍様と黄龍様の封印を解けと麒麟様より命を受けていますので我々はその様に動こうかと」

それが果たされたら結界が再構築され異界からの転移被害者がなくなるという手筈だ。

「そうですか。それで私からのお願いはそこから先にあるのです。それは魔の森を禁足地、つまり不可侵の領域にしてしまいユキやシラユキとともにあなた方に守っていただきたいのです」

静かに聞いていたシラユキが少し不満げな面持ちで呟いた。

「ねえ、それってアタシとお姉ちゃんだけだと頼りないってこと?」

「それにファイランド王国は手を出せずにいるのだし当面は特に余程のことがない限りは…って僕は思うんですけど」

シラユキに続いたリアムのその疑問にレヴィアタンは即、その理由を説明し始めた。

「あの島や魔の森は決してあなた方が選び関わる人々以外を…特に異界人を近づけてはなりません。存在を知られ施設を悪用されたり世界樹が枯れでもすればこの世界そのものが崩れてしまいます」

レヴィアタンは続けて科学技術の発展が遅いこの世界の現人もとびとでも科学の代わりに魔素や魔術が存在し技術利用し成長しており、まだ少数であるが現人もとびとの中から優れた身体能力を持つものが現れはじめている。それでも現人もとびとはたとえ元から魔術を使え成長しているとしても巨人種のように巨大な身体を得たとしても通常の進化を経ていない劣化複製種族であり流人ながれびとよりも弱く脆いと言った。

「俺らみてえなヤツらの身体能力が現人もとびとよりもたけえってのは最初の転移の時と同じ状況だな」

「魔力の有る無しに関係ないとなると重力の差が一番に考えられるよね。あの時は確か…地球の半分くらいの重力だったよね」

龍の呟きを受けてリアムが過去を思い出したのだろう懐かしげにラーシュに話しかけた。

「ああ、あの時も調べたんだったよねぇ。この星ってさぁ僕たちが最後にいた地球の重力の5%しかないんだったよねぇ」

ここでレヴィアタンはミーナ達3名に答えを求めた。

「ミーナさんたち別異界のお三人も感じましたよね?」

「はい。転移した直後に妙に身体が軽いと感じました。そしてもうひとつが魔力の質の向上です。こちらで魔術をはじめて使った時に確信しました」

ローラもハルロも実体験した身なので感じたのでしきりに頷いている。

「この星の重力以外に流人ながれびとそのものの資質にも差がある…か」

流人ながれびとの流入は現人もとびとの成長や発展に寄与すと同時に脅威にもなり得る。

現人もとびとがこのまま成長することが理想的ではあるがいずれは魔の森と力を付けた人々の世の均衡は崩れるだろうと付け加えた。

「雅さんたちにお願いしたのは決してユキやシラユキが力不足というわけではないのよ」

ユキは自身で解決できたような表情をしているがシラユキは得心していないようだ。

「それじゃ何が問題なの?」

「我ら…私たちだけではいずれ限界が来るということぞ…よ」

「そうね…の力が脅威になるといったほうがいいわね。人種はでは小さく弱いものだけど集まればその力はいくらでも大きくなる可能性があるのよ。いくら貴方達に力があっても何度も大挙されたら対処が難しくなるわよね?」

「なるほどね、お姉ちゃんが先にわかっちゃったのはちょっと悔しいけど納得できたわ」

暫く思案に耽っていた雅がクローンについてレヴィアタンに質問した。

「先ほど通常進化を経ていない劣化・複製種族クローンとおっしゃいましたがそれはどのような意味でしょうか」

「あなた方の虫垂はまだ残っているかしら?」

アテナが魔力生成器官として注目している虫垂の話になった。

地球では不要な器官であり虫垂炎の危険性を除外するという理由から誕生後、即時消滅させるケースがほとんどだ。

「幸か不幸か俺たち四人は残ったままです」

「だから魔力を使うことができるのですよ。この世界に辿り着いて帰還の手段を失った原初の流人ながれびとは、みな器官を失っていたのです。それに気づいて再生させても最後まで魔素に適応することができなかったの。それを危惧した人々は自分たちの遺伝子を媒体として魔素に適応した複製種族クローンを作り上げたのが現人もとびとの生い立ちですね。ただ、魔素に適応したのはいいのですが代償として体力や魔力などの基礎能力、資質が低下してしまったんです」

虫垂を再生しても魔術が使えなかったという話を聞いたAI達はがっかりした表情を浮かべた。その中でも特にアテナは失望したらしく独り言のようにつぶやいた。

「せっかく使えるようになると思ったのにショックだわ…」

譫言うわごとのようにつぶやき続けるアテナを見かねたソフィアがレヴィアタンに質問した。

「私達が虫垂を復元しても魔素に適応できず魔術を使うことはできないということですか?」

「落ち着いて。暫くしたらあなた方は使うことができるはずですよ」

「え、使えるんですか? でもなぜでしょうか?」

ソフィアは鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をしてレヴィアタンに聞いた。

「あなた方とあなた方の主はとても仲が良いのですね。過度に主の皆さんから体液を提供されてますよね? うふふ」

リアムやラーシュは軽口を叩こうとしたが藪蛇をつくような真似だと思い開きかけた口を噤んだ。

「えっと、それは…その…はい。ここにいるAI全員そうだと思います…」

四人はそれぞれ耳まで真っ赤にして顔を見合わせモジモジしていた。

「魔力を含んだ体液を過度に摂取しているのです。それはあなた方の身体に馴染みつつありますよ。うふふ。とても愛されているのね。羨ましい限りよ」

四人は同時に嬉しそうに本当ですかと発声した。

「それにもう一つ。雅さんの受けている御加護とは別に御仏の御加護を受けているわよ?」

雅と龍は思い当たる節があるので頷いているが他の者たちはきょとんとした表情を浮かべた。

「雅も龍もわかっているみたいだけどどういう事? 僕の場合はオリンポス十二神だけじゃないって事?」

「ああ、それはな…」

一行は、東西南北に別れ行動することになる。それにあわせてソフィアには増長天が、東へ向かう龍には降三世明王、ミユキには持国天の加護を、西へ向かうリアムには大威徳明王、アテナには広目天の加護を、北へと向かうラーシュには金剛夜叉明王、烏枢沙摩明王の加護、ソフィアには毘沙門天またの名を多聞天の加護を転移時に受けているので法力もいずれは使えるようになるだろうと雅が太鼓判をおした。

「でもよ、とりあえずは冒険者登録を済まさねえとな」

「そうですね。その後、封印を解きあの森をあなた方の手中におさめ人々から守ってください」

そう言ってレヴィアタンは深く頭を下げた。

「頭をお上げください。登録が済次第、俺たちは王都に行きクラン本部を設けます。そこで転移者を募り帰還希望者を転移直後もしくは対策を施して転移の瞬間に帰還させようと思っています。それと同時進行であの森の所有権を得てしまうという作戦でよろしいでしょうか?」

「はい。方法はあなた方におまかせします。事は少しでも早いほうがいいので職権乱用と思われても仕方ありませんが私の裁量であなた方の等級を決めてしまいます。本部長たちも了承済みですから問題ありませんしね」

「しかし4人とも魔術や法術が使えることがよっぽど嬉しいんだねぇ、AIとは思えないはしゃぎぶりだよなぁ」

4体のAI達が喜びはしゃいでいるのを見てラーシュがふと溢したのをシラユキがあきれ顔でラーシュを諭した。

「バカなの? 鈍感なの? 彼氏って。みんな口には出してないけど愛されているって事もわかって嬉しいのよ」

如来や菩薩、明王は性別を超えた存在なので、恋愛、結婚といったことはしない。しかし神は神でも、天部の神々はそうではなく、欲のある輪廻の世界の一員だ。まだまだ、欲があり、恋愛や結婚も行う。だから加護を受けたAI達は急速に人間味を増したのだろうと雅は得心した。

「ねえ、お祖母ちゃん、この資質の向上って私達にもおんなじような事が起こる?」

「貴方たちも愛されているわね。ちゃんとその力は育っているわよ」

「でもまだ赤ちゃんはダメよ?」

「うん。まだ若いしそこは考えているわ。ね、お姉ちゃん」

「わ…私は別に龍との子…赤ちゃんならいつでもいいぞ…わよ?」

「俺がよくねえ! 俺だってまだ遊びてえんだよ!」

「うふふ、話が違う方向に行ってしまいましたね。エリーゼと彼らを呼びますから少し待っていてくださいね」

レヴィアタンは執務室からエリーゼを呼び出すとゲイルとシャルロッテを連れてすぐにやってきた。

「エリーゼ、この方の等級は私独自の判断で決定します。良いですね」

「ギルドマスター、悪例を作らないためにも他の冒険者志望の方と同等の手順を踏むべきかと私は思います。飛び級はその人のためにもなりませんし、他の冒険者と軋轢を産む要因になってしまいます」

エリーゼは臆することなく正直に持論をレヴィアタンに語った。

「それでもです。エリーゼ、何もただ上位等級を与えるとは言ってませんよ。そうでうね…賞金首を持ってきた件があるので既に奉仕活動は達成とし二日間の日程で登録試験を行います」

提示された内容は次の通りだ。

一日目は午前中に講習を受講し午後から技能能力試験を兼ねた討伐と採集。

各自、薬草ポルネ解毒薬草ノービルを各100、上位薬草ポポルネを50、魔力回復用の薬草ルポルネを30、を採集。

採集後ギルドに戻り、解毒薬10と治療薬、体力強化薬、魔力強化薬、魔力回復薬を最低位の銅級から銀・金・白金・金剛級それぞれ10ずつを各自作成。品質鑑定を受ける。

翌日に筆記試験を受けた後、回収素材の解体講習・買取をして最終的な等級を決定するというのものだった。

「皆さん、よろしいですか?」

「こちらとしては願ったり叶ったりです。よろしくお願いします」

一日仕事だが時間短縮は必要だし延々と行軍するよりも遥かに容易い。

雅達は提示内容を了承しドローンに周辺の群生地の探査を指示した。

「ゲイルとシャルロッテには採集と薬品製造の監督を、エリーゼには講師と品質鑑定、筆記試験の監督をしてもらいます。助監督はリナを指名してあげなさい。あなた独り占めは駄目ですよ?」

レヴィアタンはいたずらをした少女のような顔をしてエリーゼに釘を刺した。

「えっと、ギルドマスターなにをおっしゃってるんです。私がそんなこと考えるわけないじゃないですかアハハ。お人が悪いんですから」

「ゲイル、貴方達にも頼めるかしら? 報酬はちゃんと出すわよ。1日1人3万ルプでどうかしら?」

「そんなに貰えるんなら文句どころか喜んでやりますぜ! な、シャル」

「寧ろ、貰いすぎよ。大丈夫なんですか?」

危険の少ない場所での薬草採集、製造の監督をするだけで1日3万は確かに高額なのかもしれない。

「問題ないわ。特別審査枠で行うものですからね。そういうわけで雅さん、明日1日はエリーゼとゲイル、シャルロッテ、ここにはいないけどリナが1日同伴します。そうね…朝7時ね、執務室に集まってくださいね」

「わかりました、明朝0700にこちらに伺います」

そう言って立ち上がろうとする雅たちにレヴィアタンが狙いすましたように声をかけた。

「もう、お昼を過ぎちゃったわね。雅さん、一緒に昼食なんていかがかしら?」

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