ゴースティンの街
雅たちは盗品を全て回収し収納後、4名いたという護衛依頼を受けていた冒険者が所有していたギルド発行のカード型登録証明書を回収した。
そして盗賊たちの首を全て凍結し回収を終えた。
首無しの亡骸だけになった元アジトを超高熱洗浄し全てを灰にした後、補修用硬化ジェルを流し込み二度と使えないように封鎖した。
「さて、どうやって移動するかだな・・・」
ミルデの魔導車はすでに売り払われたのかなくなっている。
アジト周辺を探索しても、馬車や荷車の類も見つからず女性陣を眠らせたままで移動できる手段がなかったため、リアムが移動手段の提供を提案した。
「歩いて移動するのも面倒くさいし時間かかるよね。エアストライカーとエアラヴ2台ずつ出そうか?」
エアストライカーはゼネラル・ダイナ連邦陸軍用にミクス・グランド・システムズ社が製造した水素ガスタービンエンジン搭載でマニュアル運転時、運転乗員2名に他最大で9名輸送可能な装甲浮遊車である。
そしてエアラヴは、エア・ライトアーマー・ヴィークル、いわゆる軽装甲浮遊車だ。直列4気筒水素ガスエンジンを搭載し、マニュアル運転時は運転手含め四名搭乗できる。
「とんでもない収納技能をお持ちですね! それにこの宙に浮く魔導車がなんとも素晴らしい! 是非とも欲しい! おいくらなんです?!」
「さすがに売り物じゃないんで・・・それはちょっとね」
「街の近くに着いたら降りて収納すればいいし、街まで行っちゃおうよぉ」
「雅とソフィアに令嬢は任せるとして、龍達の組み合わせと、ラーシュ達でエアラブラブだね。僕らは、ミルデさん達二人乗せた別のエアストライカーでいいよ」
そう言って勝手に着座位置を決めた。
「リアム、お前は令嬢に興味があって見に行ったんじゃないのか? はあ・・・まあいい。それじゃゴースティンの街までドライブと洒落込むか」
ミルデと運転手のイムル、眠ったままの女性陣をエアストライカーに乗せて雅たちはゴースティンの街まで約50㎞ほどドライブし、結局隠しもせずに門前まで乗り付けた。
「あんたら、
「おたく、門番やってる人?」
「そうだ。オレは衛兵やってるケインって言うんだ。ようこそゴースティンの街へ。と言いたいところだが検分だけはさせてくれ。それにしてもすげえ美人が何人もいて羨ましいねぇ」
停止している車両を覗き込んだケインがAIたちを見て鼻の下を伸ばしている。
「悪いが人を先に下ろしていいか? ミルデ商会のミルデさんと運転手のイムルさん。それと三人の女性だ。ミルデさん達と一緒に盗賊団に捕まっていた。今は眠ってるから、なんか運ぶものないか?」
「あ、ミルデさん! ご無事でしたか?! なかなか戻らないので皆さん心配されてましたよ! おい、あんた! 運ぶもの持ってくるからちょっと待っててくれ! 三人と言ったな!?」
暫くして応援の衛兵を連れたケインが引っ張ってきたのは、タンカのようなものではなく、鼻が曲がるような臭い匂いを放つ汚らしい荷車だった。
「なんだよそのくそ汚え荷車!? しかもくせえ!!」
「こんな汚いのに載せるのは、さすがに可愛そうだよ。誰か背負って運んであげて! つかタンカ出すから!」
アンヴァルド伯爵の長女で間違いないと判断された女性に関わりたくないリアムは、全力で誰かに運ばせようと三人分のタンカを出し衛兵に運ばせた。
「あのタンカもういらないや・・・はあ・・・車しまお」
「なんだよ、リアム。お前、『僕のドS級素人令嬢』とか言ってたじゃないか。いいのか? なかなかのおっぱいちゃんだったぞ。くるぶしは全く俺のタイプじゃなかったけどな」
龍とリアムは巨乳好きで、ラーシュは尻フェチ、雅は足と黒ストッキングに拘りを持っている。
「やめてよ! 貴族なんかと関わったら、ろくな目にあわないよ! 僕は貴族じゃない令嬢がいいんだよ!」
「声がでけえぞ、リアム! どんな野郎が聞いてるかわからねえんだからよ。おい衛兵さん、盗賊どもの首とってきたんだけどよ。どうすりゃいいんだ?」
「盗賊の首かい? 何人分あるんだ?」
「100ちょっとだったよな、確か」
「正確には106人でした」
そう報告してきたソフィアを見て顔を赤らめ衛兵がかたまった。
「おい、あんた! どうすりゃいいんだって聞いてんじゃねえか?!」
「ああ、すまん。世の中にゃこんな美人がいるもんなんだな。こっちの・・・そうそこらへんの人目につかないところに並べてくれないか。検分するから」
この衛兵が呆けてしまうのも仕方がない。
AIたちは、それぞれが好みで外見が整えられている。
そのアバターのどれもが理想が詰まった最高傑作のようなものだから。
それに加え天然の二人だ。
この姉妹も人目を惹きつける魅力をこれでもかと放っている。
見慣れていない者からしたらとんでもない宝物を見つけたようなものだ。
「旦那様! よくぞご無事でお戻りくださいました! もう少しでギルドに依頼をする所でした!」
「ダルタン君、私は無事だよ。コントウカイとかいう連中に捕らえられていた所を、この方々に救い出してもらったんだよ。魔導車はやられたが積み荷は全て無事だ」
「旦那様! 命あってのなんとやらですよ! 本当にご無事で何よりです! でもよく逃げてこられましたね」
「全ては、この方々のおかげだよ。ウチの川辺の森の上階、四部屋に宿泊してもらいなさい。料金はもちろんこちら持ちでね」
「お話中申し訳ないですが身分証明書の手続きの仕方を教えてもらえませんか?」
「ああ、それは私も話を聞かれるでしょうし検分や証明登録の終わりまであなた方とおります。諸々済みましたら、あらためて宿までご案内しますので」
ミルデの話によれば現地人の能力及び技能の鑑定限界値を超えた範囲の異界人が多いため詳細まではわからないように施し鑑定限界値を超えた場合の色で判別しているようだ。
まず、青が【並】で鑑定限界値を上回っていることを示す。
その上の段階が黃の【並上】、赤の【上】、銀の【上特】、金の【特二級】、黒が【特一級】という判別がされているとのことだった。
ただし判別だけで序列による優遇はなくもれなく保護対象になるということだった。
ちなみにソエジマ(添島)は赤である【上】止まりだったと説明を受けた。
「ということは一人ひとり鑑定するってことですか?」
「鑑定自体は5ギもかかりませんよ。鑑定器もこの街には10はあるはずですから。さほどかからないかと思いますよ」
(5ギ? ああ5分か。単位変換がうまくできていなかったんだな)
「身分証証明書も30分もあれば完成しますよ」
雅はふと疑問を感じ質問をした。
それはユキとシラユキがこの世界で生きる者であり、また人種とは違う種族であることを思い出した。
「現地人が鑑定限界値を超えたら、やはりその鑑定器をあらためて使うんですか? それともう一つ。流人は人種以外にも転移・・・いや流れてくることはありますか?」
「一つ目のご質問ですが、現人が鑑定限界値を超えた場合はそのようになります。二つ目のご質問ですが、現人と同じような種族も流れてきているようです」
だがこの国の国王から流人に種族は関係なく等しく同じ扱いにするよう直々のお達しがあったという。
この国の方針は同盟国や友好国が賛成しほぼどの国でも多少の差はあれど変わらないとのことだ。ミルデは丁寧に回答してくれたが一部の国は反対したようですが・・・と最後のほうは歯切れが悪かった。
そうこうしているうちに準備が整ったようで雅はそれ以上聞くことを控え、鑑定器のほうへと向った。
鑑定の結果はミーナ、ローラ、ハルロの異界三人組が金の【特二級】。
それ以外の者はユキやシラユキ含め、黒の【特一級】だった。
「皆、金以上なんて前代未聞だ・・・すげえなこりゃ!
まあ、黙っているようにと決められているから安心してくれ。身分証は30分くらいでできるから、そのまま待っててくれりゃいいさ」
そう言って鑑定士の男は、詰所の奥へと歩いていった。
「戻られましたか。そういえば・・・ラーシュさんとおっしゃいましたか。売りたい物が山ほどあると。何を売却する予定ですか?」
「それは・・・」
全てを出すのは得策ではないだろう。
評判がいいと言っても一都市の商会にすぎない。
せいぜい全ての銀と金の一部、ダイヤモンドの原石は50カラットも出せば多いかもしれない。
量は敢えて言わず種類だけを答えるに留めた。
「銀と金、それに金剛石の原石ですね」
「銀はさほどの額にはなりませんが、金と金剛石はお売りいただけたら頑張りますよ。とはいえ私どもも、個人から買取る場合には買取限界額が法律で決められていますがね。それ以上、お持ちということならば商人ギルドに全て持込んで査定を依頼する事をお勧めしますね」
「なるほど。買取の査定額は商会とギルドでは差がありそうですね。ギルドから商会に流れるんでしょう?」
「差がないとは言い切れません。ですが、ギルドでは適正価格の買取。買い叩きはありません。寧ろ質が良いものであれば、資金力がありますからね。それなりに高い査定が出るでしょう。それに、かなりの量を引き受けてくれます。そうしてギルドが集めた品を、我々商会の人間は必要な分だけ買取り、そのまま売ったり加工して売っていくんです。商品の保管などはギルドに任せたほうが格段に安全ですからね」
商人ギルドの立ち位置は問屋業や総合商社に近いのだなと雅は考えた。
「そう言われましたが、魔物そのものも商人ギルドでも扱っているんですか?」
「魔物に関しては冒険者ギルド、商人ギルドどちらでも取り扱っています。ただこちらは、ほぼ冒険者ギルドで済みますね。持ち込む者たちとギルドで直接、やり取りが可能ですし、一箇所で済みますから」
冒険者たちのモチベーションを維持する必要性からであろう。
両ギルドが買取った物はそのまま販売できる日用品や高級嗜好品の類いに保管料や手数料などが上乗せされて商会へと流れる。
材料となる物は、ほとんどが職人ギルドに流れ保管料と手数料が上乗せされて各職人へと流れる素材や商品を保管、流通させる拠点という役割をギルドは持っていると言うことだ。
「そうなるとギルドから商会や武具店に流れてきたものは、自然と高い金額になってしまうんじゃないですか?」
「そこはギルドの間で決められているんです。我々の手許に来る際にその品が最後にあった場所で保管料、手数料、運送手数料が上乗せされる寸法です。なのでギルドでは相互監査も行っていますよ」
不正防止は意外にも意識しているようだ。
だがいつでも国に歯向かう力を持つ組織だとも考えた。
「そこまで資金力があれば、国に敵対しようと考える輩も出そうな気がするんですが・・・」
「国家不可侵という前提はありますが、不正や叛乱防止のためにギルドは本部だけではなくすべての支部に、月に一度、国の監査を受ける義務があります。監査を担当するのは領主だけではなく、国から騎士二人と何人かの監査官が月替りで派遣されるんですよ」
癒着による汚職防止も考えられているようだった。
詰所の奥から鑑定士が出てきて出来上がった身分証明書を渡された。
ユキやシラユキは待たされている間、つまらないようで龍やラーシュたちに文句をずっと言っていた。
「俺らは詰所にもう一度行くからソフィア、雅、商談よろしくな」
龍達三人組は、盗賊の首の事で詰所に向かっていった。
リアムとアテナはソフィアを残して宿へと向かっていった。
雅とソフィア、ミルデの三人は査定を頼むため、商人ギルドへ移動し応接室を借りて相談を始めた。
相談した結果、回収した積荷の所有権は放棄し全てミルデ側へ返却。
ダイヤモンドの原石の極一部と、金と銀を源泉徴収税額差引後の計算で個人からの買取上限額1千万ルプとして商談が成立した。
また、ミルデから謝礼金という形で1千万ルプと護衛料として一人当たり危険手当含め、8万5先ルプの提示を受けた。
雅たちは提示額が妥当かどうかわからなかったが、危険手当が5万、洞窟から1時間弱の移動、事後処理含め日当3万5千というのは悪くはない額だと考えることにし、これらを受け取った。
ちなみにこちらの通貨単位は1ルプ硬貨が1円に同等。
10ルプ硬貨、100ルプ硬貨と低額硬貨は3種類である。
1,000ルプ、10,000ルプと100,000ルプになると紙幣の3種類となることがわかった。
信用取引はなく、現金決済もしくは身分証での決済になるということらしい。
現金の保管場所は、国家不可侵であり規定及び罰則が統一されている各ギルドが保管管理を行っているということだ。
そのため各ギルドの支部がある街は、最低でも1万人規模である。数千人という規模の街に支部が置かれることは、かなり珍しいケースだという。
また、国家間の為替相場は固定制であり、10ルプが銅貨1枚、100ルプで大銅貨1枚、1,000ルプが銀貨1枚、10,000ルプが銀貨1枚、100,000ルプが大銀貨1枚、1,000,000ルプが金貨1枚、10,000,000ルプが白金貨1枚で大白金貨1枚は1億ルプ相当になるということだ。
また、各ギルドの窓口に身分証を提出するだけで全てのギルド登録をすることができるという。
現金もギルドの窓口で入出金ができるということだった。ミルデから、冒険者ギルドだけは別口で登録すべきと提案されたので雅とソフィアは言われる通りに登録完了させた。
商人ギルドについては等級に該当するものはなく、皆一律だという事だった。
商人ギルドが査定したダイヤモンドの原石や金などの鉱物資源の額は王国源泉徴収税15%を伯爵領源泉徴収税5%を差引後347億9千20万となった。
源泉徴収税率は個人、商人問わず一律であることをギルドから教えてもらった。
ミルデに立ち会ってもらったが、妥当というよりもかなり高額の査定結果だという。
ただし、オズの隠していた大型の原石二つは高額になると予測できるため、オークションに出すべきとのミルデの判断によりここでは売却しなかった。
その結果、金や銀、ダイヤモンドの一部原石の売却額316億5千618万ルプを、雅は身分証に受け取り、残り20億ルプをソフィアの身分証に預けた。
途中、挨拶に来た支部長は売り先のことを心配しているであろう造り笑顔を張り付けていた。
ギルドから出ると辺りはすでに暗くなり始めていた。
「時間も時間ですし、このまま宿に向かい休まれるのがよろしいかと思います。当宿の食堂は、今夜は貸切ということにしておりますので他のお客様もおりません。会食というのはいかがでしょう?」
ミルデから提案を受けたので冒険者ギルドでの登録を翌日にまわし宿へとミルデを迎えに来た馬車で川辺の森へと向かった。
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