馴染みある文化


「話し込んでしまってブリーフィングの時間を、とっくに過ぎてしまっている。片付けながらでいい。これからのことをあらためて話そう・・・というかまずは金策だ」

雅は予定を詰めていこうとした。

どの世界も世知辛いものだ。

先立つものがなければ活動もままならない。

下世話な話題だが、まずは金策に走る。

「ソフィア、採掘はサンプルが金と銀、それにダイヤモンドの原石と石のような魔素の塊はおそらく魔石だろうが・・・今朝、採取されたと言っていたな」

「はい。すでにそれぞれ、サンプルが採取された地点を中心に採掘作業に取り掛かっています。現状、金が約500㎏、銀が約300㎏、ダイヤモンドの原石が約1トンという量が報告されています。原石は八面体が7割、十二面体が2割、マクルとトライコンがあるものが、残り1割を同量で形成と、報告を受けています。魔素の塊は、現在採掘中止としています」

「石のような魔素の塊か・・・それは魔石に違いないな。ソフィア、我に見せてみよ」

ファフニールが話を遮り、ソフィアに魔石を見せるよう促した。

「ファフニール、これが採取したものよ」

「ふむ。やはり魔石だな。これはな、売れば大層な額になるはずだがの。人種やドワーフどもの作る魔道具の燃料でもあるからな。昨日、貴様らに世界樹が魔素を中和しているからこそ人種が生きているの言っただろう? 空気だけではなく、地からも吸い取っておる訳ぞ。この世界を思うならば世界樹の養分たる魔石は捨て置け」

ファフニールから魔石の話を聞かされた全員は、乱獲防止策をとらねばという結論に到る。

「それなら話は別だ。魔石埋蔵量の多い箇所に関しては、侵入者を常に監視できるよう、遮蔽したボット及びドローンを常駐させる。ファフニール、金と銀、ダイヤモンドは大丈夫だよな?」

「そちらは問題ないぞ。好きに致せ。そういえば・・・ミスリル鉱もあるぞ」

「できることなら早く行ってほしかったねぇ。そうしたら、こちらの素材と合わせて色んな武器を作れたのにぃ!」

「そんなもの、貴様の足元にも埋まっとるぞ」

「マジかよ!? なんで早く言わねえんだよ、クソババア!」

「ミユキぃ〜、また龍が我に酷いことを言うぞ!」

「大佐、いい加減やめてあげてください。ファフニールは、ここでは貴重な協力者なんですよ」

ミユキの背後にまわり、隠れるようにしていたファフニールはしてやったりと、舌を出している。

「はぁ・・・わかったわかった。魔物や盗賊はどうなんだよ?」

「この森の南東端の洞窟に、アジトを作っているようです。規模は120人程、頭領のオズ、副頭領のヤジスに賞金がかかっています。また魔物は、観測が無意味なくらいにひしめいていますが、ドローンの30ミリブラスタで対処可能な魔物が大半です。ほかにも全長20mから40mある、かなり大型の魔物も徘徊しておりこちらは一撃では撃破できていないデータが上がっています」

「冒険者ギルドは存在しているんだったな・・・。支部のある、最寄りの街を教えてくれ。それと有力な商会も、できれば報告を頼むよ」

「冒険者ギルド本部は、ファイランド王国王都です。最寄りの支部は、ここから東の丘を超えたアンヴァルド辺境伯領ゴースティンの街にあります。また、ミルデ商会という中規模商会が同じ街にあり、比較的、評判は良いようです」

「魔物を狩るのは一向に構わんが、地竜だけは生かしてやってくれ。あれは、この地の入口を塞ぐために我が向かわせた地竜だからの」

「なんだ、お前は来ねぇのかよ?」

「貴様らに着いて行きたいのは山々だがの。こう見えても、この地の守護者を仰せつかているしの。余程のことがない限り、我は動かん。今更、この世界の街を見てもつまらんしの。それに、今夜、貴様の子を孕んだら養生せねばならんだろ?」

恍惚とした表情を浮かべながらドレスの上から下腹部をさすっているファフニールに間髪入れず龍が言い放つ。

「しねぇっつってんだろ!」

「龍がイヤなら僕が踏んでもらうからおいでよドSの森へ、さあ! ファフニール!」

「絶対に嫌ぞ! 変態リアム! なぜ我が貴様を踏まねばならんのだ! どえすとはなんぞ、寒気がする響きぞ! ミユキぃ〜」

定番の風景となりつつあるやり取りを眺め、溜息をつきながら雅は支持を出す。

「はぁ・・・ともかくだ。採掘量が金銀各1トンまで採掘を進め、ダイヤモンドの原石はどうするかだな」

「ダイヤモンドの方はさぁ、あまり量があっても怪しまれそうだよねぇ。一旦、採掘中止してもいいんじゃないなぁ」

ラーシュからの提案を受け、ダイヤモンドの採掘を中止し

「そうするか。グランダッドリーとグランマルニエルは、各開拓現場と都市再生事業及び再生エネルギー設備配置の監督にあたってくれ。区画計画データと配置予定データは受け取っているな? 割振りは二人の裁量に一任する。周辺警戒をボットとドローンに任せているが、そちらの監督も頼むよ。問題が発生した場合は、誰宛でもいい、即時報告してくれ」

「ミーナ、ローラ、ハルロの三人はどうしよっか?」

「私達は、リアムについて行くと決めているもの。それ以外の選択肢はないわ」

「魔物の狩りについては、討伐部位証明が不明なため、外傷を極力なくしたい。なので今回に限っては、ブラスタによるショック死を優先する。だが不可能な場合、斬撃等適切な武器使用を許可する。昼食休憩を挟み、周辺の掃討に当たろう。時間は・・・もう無駄だな。麒麟様に報告したら、昼飯まで街を見てみないか?」

そういって、四人は麒麟のいるであろう世界樹の祠へ向かったが全員ついてきた。

「麒麟様、我々は近々、ここを一度離れようと思います。部下のAIグランマルニエルとグランダッドリー二名と艦。それと彼女、ファフニールも残りますのでなにかあれば、彼らに伝えてください」

すると、ふわりと麒麟が舞い降りてきた。

「みなさん、神饌の用意に祝詞の奏上、読経など感謝いたします。ですが私に『様』も神饌も不要ですからね。私は神徒と同様、結界のために神々から思念体を遣わせれているにすぎませんから・・・。あなた方の仲間のようなものと捉えてください。ファフニール、後ほどお話させてくださいね。この地と地球の安寧のためにみなさん、どうぞよろしくお願いしますね」

そう言いながら姿を消した。

「それじゃ、ちょっと街をふらつきますかね。まだなんにも動いてないけどね」

「データ以外はこの目で全く見ていないからな。やはり現物を見たのと見ていないのでは思う事も違ってくるだろうしな」

メインストリートと思わしき大通を目指し歩いていく。

公園やマンションなどありふれた光景が目に飛び込んでくる。連邦、帝国問わず、展開していたコンビニエンスストアやメガマーケット、衣類量販店などが当たり前のようにならんでいるが、地球で生活していた頃の四人からして見たら700年も未来のものなのだからもはや老舗企業といってもいいのだろう。

「衣類量販店はあるけれど、高級ブティックはないのかしら」

「ジュエリーなんかのお店も、見てみたいものですよね」

女性陣は、やはりそういった類の店が気になるらしい。

「ねぇ、アテナ姉。この女性の顔の絵、いえ写真・・・といったわね。その下にある口紅のような写真は商品なのかしら」

「化粧品のポスター・・・広告よ、ミーナ」

「お化粧! 試してみたいですね! お嬢様! これでもっともっと綺麗になってそして・・・! はあ・・・」

ローラは、胸の前で両手を握りしめ、妄想し始めた。

ハルロは、時計コーナーのショーウインドウに釘付けになっている。

「どうした? 時計がそんなに気になるのか? 魔道具にも時計があったじゃないか」

尤も、雅たちは意識さえすれば、視界の一部に時刻が表示されるよう、インプラントされていてこれが常識だ。

惑星連邦では、腕時計や壁掛け時計は単なるアクセサリーやインテリアの装飾品といった、嗜好性の高い物になっていた。

「これが時計ですか。確かに、魔道具に時計の類はありましたが、こんなに小さな物は目にしたことがありません。それに鎖がついていませんが・・・。革製のベルトのようなものがついたものもありますね」

「ああ、これは手首に巻くようにできているんだよ」

「腕輪のような時計ですか! ほう・・・盤面が小さいですが、とても見易いですね。しかも動いているものまであるとは。これも魔石を使ったものなのですか?」

ソーラー蓄電とスウィングジェネレーター式の比較的安いレベルの高級腕時計を見て唸っている。

「いや、魔石は使っていない。今も差し込んでいる光だけだよ」

「光を集めて動いているんですか。まるでヤコウダケのような代物ですね」

欲しい!といったような顔をして腕時計をじっと見つめているハルロの向こう側から大きな声がした。

「ここ、ベガワールドあるじゃん! それにワールドボールにビッグコーラス! なになに・・・サバゲースペース、バッティングセンターまであるみたい! ここ、いいじゃん! 早いとこ稼働させたいよねぇ。グレイブロシアミドルタウン? 島の名前だったのかな?」

リアムが見つけたのは複合娯楽施設だった。

その向かいにあるのはユナミスポーツクラブ。

通常のジムスペースにプール、乗馬スペース、トレッキングやボルダリングスペース、フットサルスペースにテニスコート、極めつけはミニサーキットまで完備していると看板の印刷されたメニューには表示されていた。

「ジムか。ってミニサーキットまであんじゃねぇか! サーキットとダートコースはほしいんだよ! 鈴鹿とニュルブルクリンクをくっつけて両方走れるようにしたやつをよ!」

龍は、乗り物に乗れればそれでいいのだが趣味全開でグランダッドリーとグランマルニエルの二人の大尉に周遊コースを作らせようと詰め寄る。

「ん、このエスカレーターと階段、地下へ行けますよね? 看板文字は帝国語・・・。ミドルタウンストリート駅? メトロマグレブまで走ってたんですか、この島! 地下へ行ってみませんか?」

「言わなかったが、かなりの本数の路線が走っているぞ。東京並みだ。多少の運行はさせようとは思ってはいるけど全ては、必要ないだろうな」

島内には、地上のマグレブライナーだけでなく、すべての地区を網羅するかのようにメトロマグレブの線路が、張り巡らせられていたことがスキャンの結果わかった。

地下に降りていくと、構内にありがちなキヲスクに改札があり、その向こうにマグレブが五両編成で佇んでいた。

「すごいぞ! 地下にまで貴様らは街を拵えてしまうのか! あれがマブグレか?! 乗ってみたいぞ! あれすぐに動かせんか、おい!」

「マグネット・レビテーション。略してマグレブだ、ファフニール。あれは、電気が通ってないから動かすことはできないぞ」

「ややこしい名前ぞ! 電気っていうやつがおれば動くのか? 電気っていうやつはどこにおるんだ?」

「生き物じゃないよぉ。雷、知ってるよねぇ? 雷が発生させてるのが電気なんだよねぇ。でもさぁ、あれじゃ強すぎて壊れちゃうけどねぇ」

「雷なら出せるから乗れると思ったのだがな。無理か。つまらんぞ、なんとかしろ龍! それと変態!」

「ええ、僕は無理。それに僕は変態じゃないよ、マゾだからね!」

「俺も無理だ。つかなぜ俺に振んだよ。賢者のラーシュに聞けよ!」

「ラーシュ、貴様早くなんとかしろ! 上手く行った暁には、我の妹を呼んでやるぞ」

「このあとやることもあるんだから追々にねぇ。妹さんて人種?」

「アホめ、人種であるわけなかろうが。我には劣るが見目麗しき竜ぞ。派手好きだがな」

「遠慮しとくよぉ」

「なぜこやつらは、竜種を嫌がり我を蔑むのだ。ミユキぃ!」

「もう少し可愛らしい話し方をしたら、もしかして・・・」

ミユキも返答に困って何を言っていいかわからず歯切れ悪く誤魔化した。

「そうなのか?」

「なわけあるか、ボケナス!」

「ミユキぃ〜! 我、わたしもう泣きそうぞ…よ?」

「可愛そうですよ、大佐。もっと優しくしてあげてください!」

「わかったわかった。悪かったなファフニール。お前、他の男なら、ほっとかないくらい本当に美人だぞ」

「なぜ、【ほかの】をつけるんですか? 大佐、火に油を注ぐようなものですよ』

「うっせえな・・・照れくせえんだよ!」

(ひひ。やった。我はついにやったぞ!!)

ミユキの胸に顔を埋めて、泣いているフリをしていたファフニールはニヤリとほくそ笑んだ。

「とりあえず再生エネルギー設備じゃ賄いきれないからさぁ、水素エネルギー発電しよっかぁ。川の水量も多いしねぇ」

「ラーシュ、ありがと。我…わたしすぐに妹を呼び出して、こっちに来るように言うからね」

泣いていたのが嘘だと誰にでもわかるような、とんでもなくキラキラした笑顔でファフニールはラーシュに言った。

「いやぁ、そんな目的じゃないからお構いなく」

「もう呼んだぞ。強くていい男がいると言ったら、すぐに来ると言っとったぞ」

「詰んだな、ラーシュ。おめでとう。くく」

雅にポンと肩を叩かれたラーシュは棒立ちになって固まっていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る