朝のお勤め


大陸共通歴3512年7月3日/曜日

ソフィア艦長日誌補足


俺・・・いや私は起床後、朝勤行あさごんぎょうを今日も行うがあらためて流れを記しておこうと思う。


まず合掌礼拝し、開経偈を唱える。

無上甚深微妙法むじょうじんじんみみょうほう

(無上甚深微妙の法は)

百千万劫難遭遇ひゃくせんまんごうなんそうぐう

(百千万劫にも遭いうことかたし)

我今見聞得受持がこんけんもんとくじゅじ

(われいま見聞し受持することを得たり)

願解如来真実義がんげにょらいしんじつぎ

(願わくは如来の真実義を解したてまつらん)


次に般若心経を唱える。

般若心経は仏教の精要密蔵の肝心なり

このゆえに誦持講供すれば

苦を抜き楽を与え

修習思惟すれば

道を得通を起こす

まことにこれ世間の闇を照らす明燈にして

生死の海を渡す船筏なり

深く鑽仰し至心に読誦したてまつる

仏説摩訶般若波羅蜜多心経ぶつせつ・まか・はんにゃ・はらみたしんぎょう

観自在菩薩かんじざいぼさ行深般若波羅蜜多時ぎょうじん・はらみたじ

照見五蘊皆空度一切苦厄しょうけんごうんかいどいっさいくやく

舎利子しゃりし

色不異空しきふいくう空不異色くうふいしき色即是空しきそくぜくう空即是色くうそくぜしき

受想行識じゅそうぎょうしき亦復如是やくぶにょぜ

舎利子・是諸法空相しゃりし・ぜしょほうくうそう

不生不滅ふしょうふめつ不垢不浄ふくふじょう不増不減ふぞうふげん

是故空中無色無受想行識ぜこくうちゅうむしきむじゅそうぎょうしき

無眼耳鼻舌身意むげんにびぜっしんに無色声香味触法むしきしょうこうみそくほう

無眼界・乃至無意識界ないしむいしきかい

無無明むむみょう亦無無明尽やくむむみょうじん

乃至無老死ないしむろうし亦無老死尽やくむむみょうじん

無苦集滅道むくしゅうめつどう無智亦無得むちやくむとく

以無所得故いむしょとっこ菩提薩埵ぼだいさった

依般若波羅蜜多故えはんにゃはらみったこ

心無罣礙しんむけげ無罣礙故むけげこ

無有恐怖むうくふ遠離一切顛倒夢想おんりいっさいてんどうむそう

究竟涅槃くぎょうねはん三世諸仏さんぜしょぶつ

依般若波羅蜜多故

得阿耨多羅三藐三菩提とくあのくたらさんみゃくさんぼだい

故知こち般若波羅蜜多

是大神咒ぜだいじんしゅ是大明咒是無上咒ぜだいみょうしゅぜむじょうしゅ

是無等等咒ぜむとうじょうしゅ

能除一切苦のうじょいっさいく真実不虚しんじつふこ

故説般若波羅蜜多咒即説咒日こせつはんにゃはらみたしゅうそくぜしゅわつ

羯諦ぎゃてい羯諦きゃてい波羅羯諦はらぎゃてい波羅僧羯諦はらそうぎゃてい菩提薩婆訶ぼじそわか

般若心経


そして懺悔を三度繰り返す。

我昔所造諸悪業がしょくぞうあくぎょう

皆由無始貪瞋痴かいゆむしとんちんじ

従身語意之所生じゅうしんごいししょしょう

一切我今皆懺悔いっさいがこんかいさんげ


私が、無始つまり太古の昔からつくってきた諸々の罪科つみとがは身体と言葉と心によって造られましたが、それは貪瞋痴とんじんち、つまり貪り・怒り・愚かさが原因です。それらすべて懺悔しあらためます・・・という意味だ。


そして次は三帰を三度。

弟子某甲でしむこう盡未来際じんみらいさい・帰依仏・帰依法・帰依僧


この身今生より未来際をつくすまで深く三宝に帰依したてまつらん

わかりやすく言えば仏様と、仏様の教えと、教えを保ち伝える人々を、心身の拠り所とすることを伝えます・・・という意味だ。


そして三竟を三度。

弟子某甲・盡未来際・帰依仏竟きえぶっきょう・帰依法竟・帰依僧竟


この身今生より未来際をつくすまでひたすら三宝に帰依したてまつり

とこしなえにかわることなからん

わかりやすく言えば仏様に帰依しおわり、法に帰依しおわ

僧に帰依しおわりました、と完全に深く信じいつまでも帰依することを誓います・・・という意味だ。


それから十善戒を三度。

弟子某甲・盡未来際・不殺生・不偸盗ふちゅうとう不邪淫ふじゃいん不妄語ふもうご不綺語ふきご不悪口ふあっく不両舌ふりょうぜつ不慳貪ふけんどん不瞋恚ふしんに不邪見ふじゃけん


これは、この身、今生より未来際をつくすまで、十善のみおしえを守りたてまつらん

生命あるものをむやみに殺さず、盗むことなく与えられたものを手にせず、異性に対し道ならざる愛欲におぼれず、悪意や敵意を持って、誤った言葉や偽りの言葉を口にせず、飾りたてた言葉を口にしへつらうことなく、人を傷つける悪口や陰口を言わず、二枚舌を使って他人を争わせることなく誰に対しても真実を喋り、貪ることなくまた所有するものに執着しないで少なきを分かち、人を慈しみの心で見て怒りや憤りの心を持たず、物事を邪な心で見ず物の本質をありのままに見ますと、十の善行を行うことを誓います・・・という意味だ。


続いて発菩提心ほつぼだいしんを三度。

おんぼうじ・しった・ぼだはだやみ


白浄の信心を発して

無上の菩提を求む

願くは自他もろともに

仏の道を悟りて

生死の海を渡り

すみやかに解脱の彼岸に到らん

これは悟りの心を起こすことを誓います・・・という意味だ。


そして三摩耶戒さんまやかいを同じく三度

おん・さんまや・さとばん


われらはみほとけの子なり

ひとえに如来大悲の本誓を仰いで

不二の浄信に安住し

菩薩利他の行業を励みて

法身の慧命を相続したてまつらん

自信の中に悟りへ導く為の力があると言うことを自覚しま

す・・・という意味だ。


十三仏真言をそれぞれ三度。

一、不動明王

のうまくさんまんだ・ばざら・だん・せんだ・まかろしゃだ・そわたや・うんたらた・かんまん

二、釈迦如来

のうまくさんまんだ・ぼだなん・ばく

三、文殊菩薩

おん・あらはしゃのう

四、普賢菩薩

おん・ さんまや・さとばん

五、地蔵菩薩

おん・かかかび・さんまえい・そわか

六、弥勒菩薩

おん・まいたれいや・そわか

七、薬師如来

おん・ころころ・せんだり・まとうぎ・そわか

八、観音菩薩

おん・あろりきゃ・そわか

九、勢至菩薩

おん・さんざんさく・そわか

十、阿弥陀如来

おん・あみりた・ていせい・から・うん

十一、阿閦如来

おん・あきしゅびや・うん

十二、大日如来

おん・あびらうんけん・ばざらだとばん

十三、虚空蔵菩薩

のうぼう・あきゃしゃきゃらばや・おんありきゃ・まりぼり・そわか


次に光明真言を七度唱える。

となえたてまつる光明真言は

大日普門の万徳を二十三字に摂めたり

おのれを空しゅうして

一心にとなえたてまつれば

みほとけの光明に照らされて

三妄の霧おのずからはれ

浄心の玉明らかにして

真如の月まどかならん

おん・あぼきゃ・べいろしゃのう・まかぼだら・まに・はんどま・じんばら・はらばりたや・うん


御宝号も同じく七度。

高野の山に身をとどめ

救いのみ手を垂れ給う・おしえのみおやに

帰依したてまつる

願わくは・無明長夜の闇路をてらし

二仏中間の我等を導きたまえ

南無大師遍照金剛


大金剛輪陀羅尼を唱える。

のうまく・しっちりや・ぢびきゃなん・たたぎゃたなん・あん・びらじ・びらじ・まかしゃきゃら・ばじり・さたさた・さらてい・さらてい・たらい・たらい・びだまに・さんばんじゃに・たらまちしった・ぎりやたらん・そわか


最後に回向を唱え朝の勤めは終わりだ。

願わくは この功徳をもって

あまねく一切に及ぼし

われらと衆生と

みなともに仏道を成ぜん

願以此功徳がんにしくどく普及於一切ふぎゅうおいっさい我等与衆生がとうよしゅじょう皆共成仏道かいぐじょうぶつどう


以上が朝のお勤めだ。

未来に誰かが受け継いでくれたらありがたい。誰も見ることがなくても残しておくべきと記したまでだ。




「全く、教えを守ることができてないんだよな。女は抱くし殺生なんて当たり前のようになってやがる」

勤めを終えた雅は自嘲する。これも毎日のことだ。

「艦長、唱えている間、葵大佐と同じように身体から光が漏れていましたよ」

シーツを躰に包みベッドに腰掛けて雅の勤めを見ていたソフィアが言った。

「そうか・・気が付かなかったな。さて朝食は・・・コーヒーだけで済ませるかな」

「コーヒーをお持ちしましょうか? でも、美味しいものなら別ですね」

「いや、シャワーを済ませたら艦長室でもらおう。皆、もう

出ているかもしれないしな」

「わかりました。シャワーお先にどうぞ、閣下」


シャワーを済ませ準備を整えた二人は艦長室へと向かった。


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