ファフニール
「閣下、データは削除されていましたので抽出不可能でした」
申し訳ないといったところか、悲壮感を感じさせる表情をしたアテナから通信が入った。
「そうか。削除されてしまっていたならどうしようもない。アテナのせいじゃないさ。そう気を落とさず、作業を継続してくれ」
「了解です」
通信を終える際に見せた表情は、いつものものに戻っていた。
麒麟は、案内役の四霊獣に指示を出しているようで、何やら話し込んでいる。
雅が、ファフニールがどこへ行ったのかと考えていると、龍とリアムが目ざとく見つけたのは、身体のラインが映える真紅のドレスを身に纏った、小麦色の肌を持つ絶世の美人と言ってもいい女性だった。
肩口から胸元まで大きく開いた胸元は目を奪われるような見事な双丘をこれでもかと魅せていた。
「何だ、どこから来たんだ、あの美人おっぱいちゃん!」
「ヤバいよ! なにあのおっぱいちゃん! ピンヒール履いてもらって踏まれたい!」
「ん? おっぱいちゃん? 貴様ら、我に欲情するか? ほれほれ。そっちの小童は、自ら進んで踏まれたいとか申しておるのか。気持ちの悪い男よの。余程の変態だと見るぞ」
龍に向かって、誇らしげに胸を無造作に持ち上げるも、リアムを見て顔を顰めながら悪態をついた、その美女はなんとファフニールだった。
「なんだよファフニールかよ。期待して損したわ。人化してまで何やってたんだよ?」
「貴様、我に名前までつけておきながら、期待して損したとかどういうことぞ。こんないい女、なかなかおらんぞ?」
「自分で言うなや。だってよ。つい、さっきやりあったばかりじゃねぇか」
「なんだったら、夜もやりあっても良いぞ。ホレホレ」
「ねえ、龍! さっきも言ってたけど、やりあったって殴り合っただけだろ?! ズルいよ! 後、気持ち悪いって! これは僕のアピールポイントなんだよ!」
「リアム、やめとけ。こいつは相手が悪い。踏まれたらお前洒落にならないぞ。だいたいお前、古竜だぞ? 見た目若くても、千も二千もいってりゃババァじゃねぇか」
「ババさまでもいいじゃん、このおっぱいだよ? ねえ、ちょっと踏んでくださいよ!」
「なっ! まだ我は二千と一歳ぞ! 言うにことかいてババァとはなんぞ! 取り消せ! この阿呆ヅラどもめが!!」
顔を突き合わせたら、すぐに殴り合いを始めそうな仲だなとため息をつきながら、雅はファフニールに問う。
「人化して見て回った街はどうだった? お前から見て足りないものとかはあったか?」
「どこも施錠されて入れなんだがな。なかなかに興味深いものだったな。あの橋のような上を走る、マブグレイナーとか言ったか。それが走り始めたら乗ってみたいものよ。後は・・・そうよな。娯楽だな娯楽。楽しむものが、多ければ多いほどよいな。それよりも先程の強烈な神気は何ぞ? 腰を抜かしそうになったぞ」
「それはあそこにいる御方、麒麟様の封印を説いたからだ。それとマグレブだ。マグレブライナーな」
ここまで娯楽に飢えているのだ。余程のこと、暇だったんだろう。
知能のある者にとってみては、種に関係なく暇というものに弱いらしい。
「それよりもさぁ、これからどうすんのよぉ? 東西南北に、別れて行くしかないんだよねぇ。とにもかくにも、お金がないのは話にならないよぉ?」
ラーシュは、この先の動向に話題を変えた。
「確か、この国には紙幣制度があったよな。とすると偽造は、足がつきそうだ」
四人が思案していると、ファフニールがそんなものなどどうにでもなるといった表情で言い放った。
「そんなもの、そこら中に金になるものがおるだろうが。我が好きな金や銀なぞも、取り放題ぞ?」
「金になるものがいる? 金や銀は【ある】って言うぞ、普通。イカれてんのかババァ!」
「ババァはやめろと言うに! オマケにイカれとらんわ! 乙女だもん! 生娘だもーん!」
「だもんだもーんじゃねぇよ。生娘だぁ? 面倒くせぇだけじゃねぇか!!」
「確かに、面倒臭い」
龍以外の3人も口裏を合わせていないにも関わらず、同時に同じ語句を発した。
「ぬぐぐ、貴様ら覚えておれよ。あとで、あのAIとやらに告げ口するからの」
「やめろっつうんだよ!」
「まあ良い。心の広い我は許してやろう。あの御方や、我がここにおるから、今は静かだがな。我がおらねば魔物だらけだぞ? 狩れるだけ狩って、売り払えば良いだろうが。素材になるのだろうが」
「なんだ? 世界樹があったら、守人がいたり魔物が近寄ってこなかったりするんじゃないのか?」
「そもそもこの地より無限に湧き出す瘴気を吸い、魔素を作り出しておる存在があの世界樹ぞ。ゆえに他の地より遥かに瘴気も魔素も濃いのだ。わかったか? この阿呆ヅラども」
瘴気を中和している存在であるなら、この木が枯れたら破滅だと言っているようなものだ。
冥府神ヘルの狙いは、これも関係しているのかと勘ぐるも、その思考を四人ともやめた。
なぜなら、世界を破滅させたいなら封印後、世界樹さえどうにかしてしまえば、後は待つだけで済むのだから。
「まあいい。金山や銀山の鉱脈をスキャンして採掘。資金にしようか。十分な量を確保するまで、出発は延期だ。魔物の狩りしたいやつはいるかい?」
雅は、そう判断し魔物の狩りの希望者を選ぼうとした。
「討伐証明部位がわからないけどまるごと持っていけば問題ないよねぇ」
「ラーシュ、きっとテンプレの嵐だぞ? 面倒くせぇな」
「だよねぇ。でもさぁ、今更それを龍が言うのかい? 大体、自分から絡んでいくじゃん」
「お。おう・・。リアムは思いつかねぇのかよ?」
自分から喧嘩を売りに行く常習犯だった龍は話題を修正しようとリアムに話をふった。
「それよりもさ、賞金稼ぎってどうかな? ドローン使ってさ、この国で、一番稼いでそうな盗賊団を襲って、金いただくとかって、どう?」
「君の好きなドSの令嬢なんて、そうそう捕まってはいないんじゃないかなぁ。でも、お金は稼げそうだよねぇ」
「令嬢はもういいよ・・・ミーナが怖いからね」
金策からくだらない下世話な話に脱線したところで、雅にAIから呼び出しがかかった。
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