フレイグロシア島転送後


「二人とも、ちょっと待ってくれ」

雅は、唐獅子と八咫烏そしてファフニールに転送の件で話を伺う。

カーバンクルの提案だろうから問題ない、と神徒からの返答があり、ファフニールからは楽しめれば何でもいいと、何とも言えない返答を受けた。

幸いにして、一辺が50㎞ほどの正三角形のような形である島を受け入れる広さは十分に見受けられたため転送することを頼む。

「リアム、ラーシュ頼めるか。ただ、地震のような災害を出すことだけはやめてくれよ。周辺の街や村が被災したとか、目も当てられないからな」

「それは任せてよぉ。何事もなかったように転送して、元からあったように同化させちゃうからさぁ。座標だけは、念の為、もう一回送ってくれるかな? あと、リアムが二人に改めて紹介したい人たちがいるって言うからよろしくねぇ」

「了解。ソフィアに送らせる」

「了解。もらった座標に転移させちゃうよ。リアム?リアムは緊急事態だ。君たちも見知った仲だからきっと驚くと思うよぉ」

「ソフィア、聞いてたよな。座標の送信頼むぞ」

「勿論です閣下。島の外周、川の位置など把握。最適な位置を算出した座標データとイメージ映像を送っておきました」

ソフィアは即時座標データを送信済みであることを報告し挨拶に来たグランダッドリーに答礼した。

「私は本日付で配属されました戦闘空母型移民船ほうらい副艦長のグランダッドリー大尉と申します。ソフィア中佐、ミユキ少佐、よろしくお願いいたします」

「私は惑星連邦航宙軍第一〇五三戦闘艦隊所属第三〇二空母打撃群航宙母艦ソフィア副艦長のソフィア中佐よ。よろしくお願いするわね、グランダッドリー大尉」

「私は惑星連邦航宙軍第一〇五三戦闘艦隊所属第三〇二空母打撃群イージス駆逐艦みゆきです。こちらこそ、よろしくお願いします」

自己紹介をしている間に、島が音もなく転送され、今まで単なる草原だった空間に一つの都市が出来ていた。ファフニールは「なんと面妖な」、「これは面白いぞ」、「この地上人の作る橋のようなものはなんだ」と次々と口走りながら嬉々として、都市の間を飛び回っている。

アテナとあさひの二隻も揃って転送されてきたようだが、見慣れないアノー帝国を想起させる、ほうらいと同サイズか一回り大きい艦船が見受けられた。

「そっちも無事に会えたようだね。紹介したい人たちがいるんだけどさぁ、なんで、あの竜と殴り合ってたんだよぉ?」

ラーシュの質問に、龍が答えた。

「ありゃ、ちょっとあいつとやりあっただけだ。あいつは暇を弄ぶアホの古竜で、ファフニールと名付けた」

『おい聞こえておるぞ。阿呆とは何ぞ! 貴様に言われとうないわ! そんなことより何ぞこの街は!? 見たことのないものばかりぞ! 住んでおる者らが見当たらんが、実に面白い!』

「ああ、無人島だったからねぇ。いたのは、アサヒが焼き払ったゴブリンたけだったよぉ」

念話がラーシュにも聞こえているのかそう答えた。

「龍、雅、懐かしい人たちを紹介するよ。ミーナとローラそれに執事のハルロだ」

「お久しぶりね、勇者に、聖者、いえ陛下とおよびしたほうがいいかしら? お元気そうで何より」

「お久しぶりです。龍様、雅様」

ミーナとローラは美しいカーテシーを、ハルロは右手を胸に添え敬礼した。

「久しぶり、三人ともあんまり変わってないな」

「ありがとう。あなた方は随分と若くなったわよね。相変わらず、節操なしに女性に手を出しては痛い目にあっているのかしら? というか、なんでウィルまで連れ出して、四人揃っていなくなったのよ!?」

「帰りたくなったから帰っただけだ。それにな、忙しすぎてそれどころじゃねえよ。つうか、なんでこっちの世界にいんだよ?」

「リアムを追って転移してきたんだろう? それから宇宙に出たらな、軽く10年くらいは独りなんだ。ナンパなんてのはあり得んよ」

暫く、雅と龍はこちらに転移するまでの苦労話を、ミーナから聞かされる羽目になった。

四人が日本へ転移帰還した際に、リアムの残した魔力残滓を5年程かけて入念に分析し、異次元転移魔術を10年間研究した後、術式を完成させたと言う。

勿論、研究資料は全て亜空間収納し、転移の証拠隠滅魔術を完璧に施して、増大したリアムの魔力を感知し、ローラやハルロとともに魔皇国から追いかけ、転移してきたというが、話した内容の最後の方は、女性副官を侍らせてヘラヘラしているリアムに対してのただの愚痴だった。

「そんなわけで私達はこちらに来たわけよ。勇者は相変わらずだけど、聖者、あなたちょっと話し方が、年寄臭いわよ。それから・・・あちらにいらっしゃるのは神獣様かしら。私達を紹介してくださる?」

ミーナから、唐獅子と八咫烏に紹介するよう言われた雅は疲れながらも、神獣たちに魔人族のミーナやローラ、ハルロを紹介したのだった。


さて、この地でやらなければならないことが山ほどでてきた。

しかし大陸の東西南北各端と眼の前にある封印の解除が命題なのは明らかだ。

開拓や整備に関しては、都市空間を転移させたおかげで流用すればいい。幸いにして、都市空間は十分すぎるほど確保しているので広げる必要は然程ないしせいぜい島と、元々の草原を繋げる道路整備ぐらいで済む。

そして移動手段も、マグレブライナーという手段がある。

必要なのは、上下水道の再整備に、各種工場、田畑とそれに関わる用水施設、農業試験場などの大型の施設だろう。都市空間周辺の整備や、ほうらいの射出口はインフラストラクチャ用ボットの土木作業用重機ティタンや、掘削作業機ゴラム、高所作業機のモンキーに任せておけば、問題はない。

課題ができたら追加で調整しておけばいいはずだ。

天候操作は、例外的に結界内に限るが、連邦の通例通りに行えばいいし、侵入遮断および防音結界、認識阻害はそれぞれの魔道具もしくは魔法陣を用いて、重ねて張ればいいはずだ。

もう一つの問題のフレイグ級艦船だが、AIが死んでいるため、グランダッドリーが常駐する以上は、さして問題にはならないだろう。

だが四人とも、一抹の不安を覚えていた。

それは一度、登録処理してしまえば登録者が、戦死或いはなにかしらの要因での死亡、もしくは任意解除をしなければ、第三者が手を加えることができないからだ。

万が一にもないだろうが、ここにいる部外者の手に落ちる可能性もなくはない。

そのことを危惧した雅たち四人は、グランダッドリー含めたAI5人にフレイグ級の処理を任せるため、ミーナとローラ、そしてハルロと話しているAIたちのもとへと歩みを進めた。

「ミーナちゃんとローラちゃんは、雄豚のお嫁さんだったのね。さっきは取り乱したけど・・・私は、別に序列にはこだわらないわよ。だって副艦長だし、かれこれ200年近く女王様してるしね。どうせ旅の途中で増やすわよ、あの雄豚。そこの美人! 僕を踏んでくれ! とか言ってね。うふふ」

アテナのその言葉を聞いて、一触即発の事態を覚悟していたミーナとローラは、唖然としている表情で頷いている。

「アテナ少佐、随分と失礼な物言いじゃないかな? さすがの僕も、それは泣きたくなるよ?」

リアムがそう言いながら彼女たちに近づいた。

「だって本当のことじゃない。祝賀パーティーの時だって、女性士官に土下座する勢いで声を掛けているの見てるのよ。なんなら罵りながら再生してあげるわよ?」

「それは、僕の望む蔑みじゃないから遠慮しておくよ。というか雅からの通達だよ。ソフィア中佐以下各艦AIは、フレイグ級艦のデータ抽出に着手。抽出後、データ削除のうえ、惑星連邦準拠のOSに書き換え起動せよとの事だから皆、宜しく頼んだよ」

各々のAIは了解と短く返答し作業のためにフレイグ級艦船のほうへと歩みをはじめた。

「ミーナ達は、艦内でお茶でもしててくれるかな?」

「起動? その作業を見てみたいのだけどいいかしら?」

少し離れたところで、黙ったままニヤニヤしてその光景を見ていた雅たちが来て言った。

「まあ、いいんじゃないか? 嫁さんの希望だ。邪魔になることもないだろうし許可してやれよ」

「君たち、なんで来ないのさ!」

「いや、あの場についていったら、俺たちまで巻き添え食っちまってたからな。ミユキのやつ、ジッとこっち見てやがった・・・」

「彼女、真面目で控え目だけど怒ると怖いからねぇ」

「私達は、作業を拝見させていただくわね。皆さん、後ほど」

「ちょっと、お待ちなさい。 あなた、ミーナと言ったわね? あなたは私達と一緒にお願いするわ」

サンダーバードがAIの元へ立ち去っていこうとしたミーナを呼び止めた。

「ライ様、私も一緒にとはどういうことでしょうか?」

「ライでいいわよ。ほんの少しの量でいいの。神力と法力に二人の魔力持ち。それに異界の魔力持ちのあなたが、魔力を同時に流し込めば、麒麟様の封印は解除されるはずよ」

そして雅たち五人と案内役の霊獣たちは三体の神獣が封印されている祠へと足を向けた。

「今解除できるのはね、麒麟様だけだよ。応龍様には東と西のそれぞれの民、黄龍様は北と南のそれぞれの民が必要なんだ」

祠に辿り着くと、カーバンクルが振り向きざまに言った。

「五人ともよろしいか? 流し込んでみてくれ給え」

「やっと念願叶うのですね。ささ、お願いしますね」

唐獅子や八咫烏に促された五人は、一つの祠にそれぞれ力を流し込んでいった。暫くすると、神々しく眩い光の中から鹿に似た体型だが5mはあろうか。顔は龍に似、牛の尾と馬の蹄をもち、麒角に中央には一角。背毛は五色、毛は黄色く身体には鱗があり周りを圧倒するかのようでもあり優しく包み込まれるような気にもなる神気を放つ麒麟が、五人の前に現れた。その場にいる者は傅かずにいられない気になり深々と頭を下げた。それは異界人であるミーナも同様だった。

「やっと出る事が叶いました。皆さま、ありがとうございます」

神位の高い者らしい涼やかでそして清らかで慈愛に満ちた麒麟の言葉が辺りに響いた。

「応龍殿も黄龍殿もおらないとは・・・無念です。果たして・・・いつ封印されたのかも私には定かではないのです」

それを聞いたリアムは、ハデス神から聞いた一部始終を麒麟やその場にいた者達に打ち明けた。

「なんと! 私達が封印されてしまっている間に、斯様なことが・・・ただ、私は争いも殺生も好みません。ですが、この地を離れることも叶わず・・・」

麒麟は、苦々しく表情を歪ませながら、そうごちた。

麒麟や応龍、黄龍は、転移防止の結界維持のために、思念体がこの地に遣わされたにすぎず、他の四霊獣と違い、場を離れるわけにはいかないのだという。

尤もその役目は神々から直々に仰せつかった雅たち四人が負うべきものである。だからこそ想いを包み隠さず麒麟に伝えた。

「それは我らが負うべき責務です。ですので、麒麟様には安心してこの地に御鎮座いただきたく存じます」

「わかりました。あなた方に斯様なことをお願いするのは心苦しいのですが・・・この世界と地球の安寧のために力を貸してください」

一行は頭を下げた麒麟に困惑してしまった。

「無闇に頭を下げるなどお辞めください。我々は必ずこの任務達成してみせます! 総員、最敬礼!」

雅はみなを立ち上がらせ最敬礼をしミーナも最上級のカーテシーで敬礼した。



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