Evil Forest


リアムとラーシュが、フレイグロシア島を探索している一方、雅と龍は、魔の森と呼ばれる森へと降下しようとしていた。

「聖艦長、一体こちらに向かってくる巨大飛翔生命体が向かってきています。ドラゴン!! 本物ですよね! やぁん、素敵!!」

ソフィアが興奮したのだろうか、報告なのか質問なのかわからない口調で、雅に話しかけた。

尾まで入れて全長300m程か、器用にその巨体を飛翔させている。

「そう、ドラゴンだよ。さっき龍が、喧嘩を売ってたから任せておけばいいさ。ちょっと待ってくれ」

そう雅は言いながら、ドラゴンから届いた念話に集中した。

『降下すると言っておきながら、なかなか降りて来ぬとは何をしておるのだ。待てども来ぬから、迎えに来てやったのだぞ。貴様らがおるという感覚はあるが、姿が見えぬ。どこにおるのだ?』

そんなに暇を持て余しているのかと思ったが、心の中で呟くに留め返答した。

『ああ、酒を用意してたんでね。まあ、姿は後で見せるから。それよりも御仁に名前はあるのか?』

名前がわからないのは呼びにくいと、雅は思ったので聞いてみたのだ。その名前に、カラクリがあるとは知らずに。

『酒は一樽ぐらいでは満足せぬぞ! ん、名か・・・人種ごときに呼ばれる名などあるものか。そうだな・・・ホレ、名付けてみせよ。我のような、古竜に名付けることができるなど、末代までの名誉ぞ』

めんどうなドラゴンだと思いながら、雅は龍に通信を入れた。

「龍、名前だってよ。ちょっと適当なやつ、つけてやれよ」

雅は、面倒なドラゴンの相手を龍にさせるよう仕向けた。

それを龍は、殴り合っていいのだと勘違いしたようだ。

「おい、今からやっていいのか? ほんじゃ行くぞ」

龍は、念話を飛ばしながら古代竜に向かって、みゆきの甲板から飛び降りる。

『【たつこ】! さっさとやり合おうぜ!』

「お前もう飛び降りてんのか! 早まんなっての! つうか、たつこってなんだよ!」

雅の叫びも笑いに変わっていた。隣のソフィアも爆笑している。

ドラゴンに近づくも、軽く払われた尻尾の一撃で、龍は吹き飛ばされている。

『貴様、なかなかいい男ではないか。だが【たつこ】は嫌な響きだ・・・気に入らん。もっと良い名をよこせ!』

『のおおおお! 危ねえな! いなしてなかったらヤバかったぞ! お前、【たつこ】じゃ嫌なのか?!』

空床を咄嗟に展開し、それを足蹴にしてドラゴンに肉薄しながら、龍は叫んだ。

『当たり前だ! この愚か者めが! なんぞ【たつこ】とは! 別の男の笑い声が聞こえたぞ! 我にふさわしいもっと格好良い名を寄越せ!』

古竜も、さすがに【たつこ】という名前は嫌だったらしく怒気を強めている。

『ファフニールならどうだ?! 抱擁する者って意味だ!』

龍は叫びながら、ドラゴンの振り上げた左手を躱し、ドラゴンの頭、人で言うところの、こめかみ部分に平手打ちを浴びせた。

『人族ごときが、我に平手打ちなど阿呆か? らあぁぁ!』

龍が放ったのはただの平手打ではなかった。所謂掌底というやつである。手が鱗に触れた瞬間に闘気を放ったのだ。

それを受けた古代竜は咄嗟に頭で龍を振り払いみゆきの甲板に叩きつけた。

『どうっ?! ぶへぁ』

『なかなかやるではないか、小童。さすがに効いたぞ、くらくらしてまともに飛べん。小童・・・貴様が寝そべってる・・・空を我に・・・も』

受け身をとったが、まだ動けない龍に向かって、古竜が覚束ないのかほうぼうの体で、落ちるように飛んできた。

「潰す気かよ! おいミユキ! ホログラフと光学迷彩を一部解除! 降下目標を作ってやってくれ! 俺は逃げる!」

龍は、甲板を転げるかのように這いずり回り、そして甲板から落下していった。

「艦長、ご無事ですか?! 甲板の一部遮蔽解除は済ませました! ドローンを救助に向かわせましたので、掴まってください! 自業自得ですよ、本当にもう」

ズドンという激突音とともに、ドラゴンが甲板の上でうつ伏せの状態でのびた。

「危なかったぜ。マジで死ぬかと思った!」

ミユキが出撃させたドローンに掴まり、安堵の息を漏らした。

「お前、この高度なら着地してもなんともないだろ? それにしても【たつこ】はないわー。どんだけ酷いネーミングセンスだよ! 笑わせんな。プッ。【たつこ】って【たつこ】ってなんだよマジで! ワハハハ! ひぃ、腹いてぇ」

そんな雅からの非情な通信が入る中、二隻は降下を続ける。

「フフフ。閣下・・・フフ・・・降下目標地点にフフ・・・二体の生体いやこれは霊体と言ったほうがアハハ。【たつこ】アハハ」

ソフィアも思い出したのか、報告の途中でAIなのに笑いだしてしまった。

どうにも彼女らAIの思考感情ルーチンは人間に忠実すぎる。

その寄り添ってくれる彼女らAIのおかげで、女好きで絶倫の彼らが、平静を保っていられるという恩恵があるのだが、龍はこの時ばかりは、その高性能ぶりを恨んだ。

「失礼しました。降下目標地点に、二体の反応があります。それと、あの大きな木が閣下の仰っていた世界樹ですね。先程まで視認できなかったのに、間近に見えてきました。いやぁん、大っきい! あん! すっごく太い! ああん・・・素敵! ふわぁ、綺麗! あぁ・・・コホン、失礼しました。いかがしますか」

落ち着いたソフィアから、雅に改めて報告があったが、世界樹を視認した途端に、またおかしくなった。

「あれは、霊体じゃなく御神体といった方がいいかな。恐らく俺達を待っている神徒だよ。世界樹か・・間近で見るとやはり大きいな」

「やぁん、異世界ってとっても素敵ぃ! キュンキュンして濡れちゃうかも、あぁん」

ソフィアは身体をもじもじさせはしゃいでいた。

「しかし、あんなに大きいのに近づくまで視認できないとなると相当強力な認識阻害魔法がかかっているな。ソフィア! 変な喘ぎ声はやめるように。ムラムラするから!」


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