Freygrosia Island
大気圏突入後、ステルスモードで遮蔽したアテナとあさひの両艦が島に接近しつつあった。
「クロニス艦長、この島なんだけど光学迷彩とホログラフの類の遮蔽装置だけじゃなく未知の技術が使われているようね」
「ん?アテナ、ずいぶんと口調がフランクになったね。雄豚って呼んでくれると尚、いいね。で、それは多分・・・」
「魔術、いや魔法陣による強力な認識阻害プラス結界も施されているぇね」
リアムが話終わるかというところにラーシュから通信が入る。
「かっこいいところを見せたかったのに・・・でもさ、これだけ接近しても、妙に静かだね」
「んー確かにねぇ。制御が死んでいる可能性もあるかなぁ。あ、あの艦からの救難信号を拾ったけどそっちでも拾えている?」
「こちらでも確認したよ。けれどどうする? 結界をぶち破る? 対岸の国に、魔力感応の高い種族がいたらバレるよね。ラーシュは、中和魔術作れる?」
「え? アンダーソン艦長、魔法なんて使えるんだ〜?!」
リアムとラーシュの通信を大人しく聞いていたアサヒが興奮気味にラーシュの首をつかみ問いただす。アサヒもいつの間にか口調が変わっている。
「ん、ああ。まあ使えることは使えるよぉ。アサヒ、結界に使われてる魔力鑑定をしたいからさぁ、ちょっと離してくれないかなぁ? く、苦しい」
ラーシュにそう言われたアサヒは、ハッとしてラーシュから手を離した。
「すいませ〜ん。ちょっと興奮しちゃいました〜」
「鑑定したけどかなり厄介だねぇ。1000は超える魔法陣が見えたし・・・。中和魔術作るから数分待機してほしいんだけどさぁ、いい?」
ラーシュから言われ、リアムは艦を待機させる。
10分程経過し、リアムへ通信が入った。
「中和魔術をそちらの船体にも張ったから侵入可能だよぉ。微速前進で侵入、中心部にたどり着くまで索敵警戒は怠らないよう着陸しよっかぁ」
「了解。にしても相変わらず早いね、流石元賢者」
2隻の艦はゆっくりと入水するような速度で結界を通り抜ける。
結界の中は北極圏に近いにも関わらず温帯地域特有の植物が生い茂っている。ただ人の気配はない。
地上をサーチした画像をみていたアサヒから質問が入る。
「あの緑色した醜い生き物は、なんですか〜? 数は島内に、数百体程生息してるけど、他種族の反応は見受けられないです〜」
ラーシュが確認するとそれは小鬼、いわゆるゴブリンと呼ばれる類の魔物だった。
「ゴブリンだねぇ。魔物だけど世の女性の敵なんだよねぇ」
「ふ~ん。なら~レーザーで〜、焼き払っちゃっていいですか〜?」
軽い口調で物騒な物言いをしたが気に留めることもなくラーシュは了承した。
「いいよぉ。ただし、周辺施設に損害を出さないでねぇ。ついでに、偵察用レイスばら撒いてねぇ」
「了解です〜。照射とレイスによる駆逐を開始しちゃいま〜す!」
音もなく瞬く間に、ゴブリンだけを狙いレーザーが降り注ぎ確実に焼き払った。
ばら撒かれたレイスと呼ばれたドローンは、偵察任務だけでなく攻撃、狙撃任務も可能な小型マルチドローンだ。
「島内の敵生体反応〜、すべて消失〜。周辺施設への損害もありませ〜ん。引続き、偵察及びスキャン解析を続行しま〜す」
「わかったよぉ。僕とリアムで、あの艦を調べるからさぁ、君たちは艦内で作業を続行してねぇ。リアムいいよねぇ?」
「こちらも問題ないよ。というか、もう転送してもらった」
ラーシュはモニタに、甲板の上に降り立ちブリッジ辺りをジッと見上げているリアムを視認した。
「リアム、黙って降りるって人が悪いよぉ」
「ごめんごめん。ラーシュ気づいてるよね? この艦、僕たちの敵艦じゃないかと、僕は思うんだけど・・・」
リアムに言われて、ラーシュは敵国であるアノー帝国製の艦船デザインに似ていることにはじめて気づいた。
「言われてみると、確かにアノー帝国のフレイグ級に似ているよねぇ。でもフレイグ級にしたら大きいかなぁ。アサヒ、船体の計測結果はぁ?」
「は〜い。全長1万1,050m、全幅3,520mで〜、全高2,570mで〜す。オープンチャンネルで呼びかけてますけど〜、返信なくて〜、セキュリティも作動していませ〜ん。AIが〜、稼働していないんじゃないかな〜って推察しま〜す」
「わかった、ありがとう。船内の解析も宜しく頼んだよ。ラーシュ、これから船体に穴を開けようと思う。アテナにリッヂも数体、送ってもらうよ。」
リッヂは、レイスよりも大型の素粒子ビーム兵器、ブラスタに加えて、破壊工作に必要な装備を複数搭載する破壊工作に特化したドローンだ。
甲板の上で見上げていたリアムに、アテナから通信が入る。
「リッチを3機派遣したわ、雄豚。それから、兵装の解析が終了したわよ。まず、この艦だけど・・・該当する艦船データはなかったわ」
続けて積載兵装の報告を受ける。その内容は、ブラスタが前方両舷各8門、後方両舷各4門、上部前方6門、下部前方に4門、下部後方2門。光子ミサイル、量子ミサイルともにそれぞれ二千発保有しているというものだ。
さらに衝撃だったのはブラスタのバージョンが35と確認したというものだ。
リアムやラーシュ達の新造艦のブラスタのバージョンは23であり、連邦の調査解析では帝国の最新バージョンは24と報告を受けていたからだ。それが十世代以上もの差があることは、現実的ではないからだった。
更に通常は、このサイズの大型艦でも、300発ずつ程装備されていれば過多と指摘される量を保有している。
その報告を聞いた二人は驚愕の後、顔をしかめた。、
「ラーシュ、コイツも恐らく僕らと同じように転移してきたんだろうね。ただ、間違いなく僕らより、未来から転移してきてるね」
リッヂの作業を眺めながら黙考していたリアムが、興味深げに話しかけてきた。
間違いなくそうなのだろうとラーシュは首肯した。
解錠作業を終え船内に侵入したドローンを確認し二人はともに船内へ歩き出した。
戦闘艦とは思えない広さを持つ通路を抜け、ブリッジに辿り着いた2人は、それぞれ誰もいない室内を調べ始めた。
目ぼしいものも見つからず、二人は早々に諦め、アテナ達に艦のAIの再起動を指示した。
早に通路を歩いていくと、クライオニクスマシンが、一万五千程ある広大な船体中央のスペースに到着した。
「ねえ、どう思う。この艦の生存者達は、この世界の住人かもしれないとしてもさぁ。この島と現存してるこの世界の文明レベルとかけ離れすぎてないかなぁ」
「僕もそう考えていたよぉ。だってさぁ、この島だけが、あからさまに進化しすぎてるよねぇ。島内に、マグレブライナーが走ってるし、島全体に大都市を形成するなんてさぁ。いくら早くてもこの大きさの都市なら何年かは、かかるんじゃないかなぁ。多分、僕たちよりも昔に転移してきて、島そのものを都市国家として運営してきたと見るねぇ。そして何かしらの理由・・・恐らく魔素が原因で、この島の島民は絶滅したと僕は思うねぇ」
惑星連邦も帝国も、惑星改造や開拓都市形成のベースマニュアルは整っている。
この程度の都市なら、三月あれば十分生活環境は整う。
だが、インフラ整備を完了させるならば、一年程度は通常かかるからこその結論だった。
そして魔素の存在である。
人は、呼吸することで魔素を取込む。
そして蓄積し続け、それはナノマシンのように浸透していく。
だが、適正のない者は魔石化を始め、やがて完全に魔石化し、死に至る。
元々、魔素への適正の有無が生死を分ける原因だと考えたのは最初に転移したフェイランドで、魔素が存在しない世界からの転移者には魔素への適応力がない者もおり魔石化が進行し死んでいった者たちを彼らは目にしていたからだ。
程なくして、クライオニクスマシンのある広間に辿り着いたが、やはり無人であった。
これ以上の探索は意味がないことを理由に探索を引上げる。
龍と雅に状況を連絡しようしたリアムとラーシュの目の前に突然二体の霊獣が顕現した。
『始めまして。カーバンクルだよ。バンって呼んでくれていいよ。ボクが案内するはずのラーシュは君だよね?』
二人の脳内に可愛らしい声の英語が響きサンダーバードの妖艶な声が続いた。
『あなたが案内するはずのリアム? サンダーバードよ。託宣どおり来たわね。あ、私達には敬語なんて使わなくていいわよ』
『じゃあ、お言葉に甘えて。はじめましてバン、サンダーバード。僕がラーシュ・アンダーソン。そしてこっちが』
『リアム・クロニスだよ。はじめましてサンダーバード、バン』
『ライでいいわ。よろしく』
ライが矢継ぎ早に説明を二人に始めた。
この島はこの時から二万年前に転移してきたアノー帝国人達の拠点だった。
転移事故により移民船のリソースが致命的な不足を起こすもこの島を運営する程度の余力は残った。
二人の推測どおりこの島に降り立ったアノー帝国人の大半は魔素に適応できなかった。
だから彼らは島に閉じこもって自分たちのために、魔物を使って遺伝子操作を繰り返して魔素に適応した種族を作り始めた。
そして最終的には、自分たちの遺伝子も掛け合わせいくつもの種族を世界に放ったというものだった。
種族としてはエルフやダークエルフ、獣人、ドワーフ、巨人、アラクネと呼ばれる蜘蛛人に竜人、蛇人がいるという。
人族に限定すると単に魔素に適応した人種と魔力を豊富に内包し魔術に長けている魔人と呼ばれている存在。
『それでも、移民者たちは、生き残ることができなかった。子孫をなんとか残して、魔石になって滅んだのさ』
カーバンクルの声が憂うかのように震えた。
それじゃ、この惑星自体に住まう全ての者が敵なのかと、二人は同時に考えたが、答えは違っていた。
『移民者たちは、ただ種の存続を願っただけ。それに二万年という時間ですもの。ただ単に、放たれた者達の頭の片隅からその記憶が薄れていくのは当然ではなくて?』
それはそうだ。記録媒体もなくその身一つで放り投げられたら生きていくのに必死だ。
だけどもだ。自分たちのように転生を繰り返し更に転移してきた存在がいるということは同じような転生者や転移者がいる可能性が高いということだ。
そうリアムは考えた。
『だとしてもさぁ、僕たちと似たような境遇の存在がいるんじゃないのぉ?』
ラーシュも同じ結論に達したのだろう。サンダーバードに質問を投げかけている。
『勿論、ゼロという可能性はないわね。寧ろ、おおいにあると考えていたほうがいいわね。その者がこの島やこの艦を見つけたらどうなると思う?』
『調子にのって世界征服〜なんて考えてしまうバカが誕生してしまう可能性があるのか・・・』
リアムがなるほどそれはマズいなといった表情を浮かべている。
『だからさ、唐獅子たちが待ってる森の中にまるごとこの島を転移させちゃえばいいよ。この艦、利用するつもりなんでしょ? なら、みんながいるところでやればいいじゃないさ。君たち二人なら、これぐらいの転移簡単でしょ?』
カーバンクルが軽く言ってきた。
「んー、どうだろうねぇ。リアム、魔力量はぁ?」
「多分、行けると思うよ。でも、この質量は骨が折れるかな。アテナ、この島の面積と外周を教えてくれない? 大雑把な数字でいいよ」
リアムはアテナに質問を投げかけると、彼女は即答だった。
「雄豚、外周約150㎞、面積は約1,080平方㎞です。二人をモニタリングしているけど二人とも黙ったままで何をしてるわけ? え?! なにこれ、さっきとは違う転移反応があるわ! アサヒ、あなたも確認できてるわよね?!」
「こっちも確認しました〜。でも〜、なんなの〜この状況〜。完全に置いてきぼりな気分・・・つまんな〜い」
アサヒは少しつまらなそうな声音で呟くように応答した。
『君たちがラーシュやリアムのパートナーだね。はじめましてボクはカーバンクル。バンって呼んでね。転移反応は大丈夫。リアムの昔の知り合いみたいだよ』
「え、なに? バンって。カーバンクル? 伝説上の生き物じゃない。なんでいるの?! それにこの音声はなに?!」」
「おお〜! 通信データじゃないのに頭に響いてる〜。それにバンの声〜、かわい〜い〜」
二体のAIはそれぞれ反応しているがはじめて体験する念話に驚きは隠せないようだ。
「二人とも念話だよぉ。専用回線のホットライン通信みたいなものだからねぇ。これから、多用することになると思うよぉ」
戸惑う二人に、ラーシュがフォローを入れているその背後で声がした。
「やっと追いついたわ。ウィル! なんで私を置いていくのよ! もう逃さないわよ!」
「ミーナ様、【私を】ではなくて【私達を】ですよ。そこはお間違えの無い様に。ウィル様、お久しぶりでございます。こうしてまたお会いできたのです。私、もうお側を離れませんよ」
「ウィル様、このハルロ、傍仕として仕事をするこの日を、一日千秋の思いでお待ちしておりました」
激昂して、白い肌を真っ赤にしているミーナと呼ばれた美人令嬢。
そして、男を惑わせるような妖艶さを漂わせるメイド。
二人のその後ろに、執事服を着用したハルロと名乗る背の高い初老の男性が佇んでいた。
「え? うげっ、ミーナにローラ、ハルロまで!? ていうかウィルって・・・僕はもうリアムなんだよ! それよりもなんでこんなとこにいるのさ」
「リアム、観念したほうがいいよ。あとさぁ、アテナちゃんにちゃんと説明しておきなよ。ひひひ」
リアムは驚き、ラーシュはリアムのあわてふためく姿を見てニヤニヤしている。
『この娘たちはリアムの彼女たち? 嫁? ちょうどいいじゃない、転移させちゃいなよ。魔力を大量に持っているのが5人もいるんだから、そのほうがずっとラクだよ』
カーバンクルは相変わらず軽い調子で、リアムとラーシュに転移を促してきた。
二人は、別行動をしている雅たちに通信を入れる。
「雅、この島も艦もだけどさ。龍が言っていたとおりヤバい代物だよ。中身は機能していないけど、悪意あるやつがこれを稼働させるかもしれないと思うとゾッとするよ」
「やっぱり、線路はマグレブライナーの線路だったしさぁ。ビルはハイパーカーボン製だしねぇ。そっちで受入られそうならさぁ、島一つ、転移させちゃおうかと思ってるんだけどぉ?」
「二人とも、ちょっと待ってくれ」
程なくして雅から再度、通信が入る。
「リアム、ラーシュ頼めるか。ただ、地震のような災害を出すことだけはやめてくれよ。周辺の街や村が被災したとか、目も当てられないからな」
「それは任せてよぉ。何事もなかったように転送して、元からあったように同化させちゃうからさぁ。座標だけは、念の為、もう一回送ってくれるかな? あと、リアムが二人に改めて紹介したい人たちがいるって言うからよろしくねぇ」
「了解。ソフィアに送らせる」
ソフィアから待つまでもなくすぐに座標データが送られてきた。
「了解。もらった座標に転移させちゃうよぉ。リアム? リアムは緊急事態だねぇ。君たちも見知った仲だから、きっと驚くと思うよぉ」
三人に詰め寄られて、あたふたしているリアムを他所目にラーシュは雅と龍に連絡を入れた。
「リアム、やるよぉ。久しぶりだねミーナ嬢、ローラ嬢それにハルロさん。ちょっと協力してほしいんだよねぇ」
ラーシュはリアムに詰め寄っていた三人に親しげに声をかけた。
「リアム大佐! ちょっと大佐は私の肉奴隷なのよ! 何なのこの女性陣。雄豚! ちゃんと説明しないと、今後一切、踏んであげないわよ!」
アテナから悲痛な通信が入ってきた。しかも外部音声で叫びながらだ。
「アンダーソン大佐〜、やるって何を〜? 転移とかって言ってたけど〜、まさか〜、この島まるごと転送するつもり〜? 島を切り取るとか〜、意味わかんないし〜。できたとしても〜、二隻で転送は〜とても無理ですよ〜」
蚊帳の外にいたアサヒから、呆れとも取れる通信を受ける。
「んー、転送装置を使った転移じゃなくて魔術を使ってねぇ。衝撃とかはないから、大丈夫だよぉ。知らんけどぉ」
ラーシュは飄々とした口調で返した。
「じゃ、四人ともいいかい? 転移を始めるよ。ラーシュ、気合入れてよね」
「ああ、わかったよぉ。ミーナ嬢、ローラちゃん、ハルロさん、今から、この島を転移させるから、魔力出して練ってねぇ」
するとミーナが
「魔力残滓を追跡して、転移に魔力を大分使ったのに、またこき使われるとはね・・・。ウィル、いやリアムね、あなた、全くかわってないわ。やってあげるけど今夜はわかってるわよね?」
「ミーナ様、独り占めはいけません。私だって、待ち望んでいたんですからね。この気持ち、おわかりいただけますよね、リアム様」
まだ言い寄る二人に、タジタジになりながらもリアムは魔力を練り上げ魔法陣を組み上げていく。
「さてと、まるごと転移。新天地に馴染めよ」
無音のまま、視界が変わる。
視界の先には、やたら太く大きい世界樹と、丘や山々が見える。
そこに見知った二隻の連邦艦と、甲板に佇むドラゴンの姿を確認した。
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