Briefing


「説明してもさ、君達AI達が納得してくれるか微妙だよね」

さも、どうするんだと言いたげな表情のリアムがこぼす。

雅も同様の思いだったが、埒が明かないので正直に話すことを決めオンライン会議を続けた。

「まず、俺たちが落ち着いているのは、ファレーンと呼ばれる世界に転移したことがある転移経験者だからだよ。そして、この転移があることを俺達は予測していた」

「ファレーン? 転移? 転移経験者? 亜空間を利用したワープ航法とは違うんですよね? それに予測していたって…」

中佐である最上位階級のAI、ソフィアが代表して訪ねた。

「転送システムあるだろ? あれは、同じ次元を行き来できる装置だけどよな? 」

「そうですね」

怪訝な表情をしたままソフィアが短い返事をした。

「だけど今回は違う。俺たちが今いる次元をAとして、それとは別にその世界と似たような・・・もう一つのBという次元の世界があるとする。その世界の間を移動するわけだ。その移動を俺たちは次元転移と呼んでいる。それを俺たち四人は遥か昔にやっているんだよ」

「遥か昔といっても20世紀から21世紀の地球で人生を4回繰り返したけどね。最初の人生で地球とファレーンの間で次元転移ってのをやったのさ。ファレーンじゃ雅は聖者で人族の王様。龍が勇者、ラーシュは賢者で僕は魔人族の王様の魔王って呼ばれていたわけさ。それで事を済ませてファレーンから皆で帰還して一度目の人生を終えたわけだ」

一気に説明した雅をリアムが補足した。

「嘘はおっしゃってないようですけど、信じ難い話ですね」

「ああ、日本と言ってもね。僕たちの出身である、十三個も太陽系が並んでいる第二番太陽系第三惑星にある日本じゃなくて、単一太陽系第三惑星の日本のことだけどね。それに僕たちがファレーン・・・つまり異世界から帰還したのは2015年の地球での話さ。ここまではいいかな?」

神妙な顔をして話を聞くAI達に雅は自嘲気味に笑いながら続けた。

「つまり今、俺達が見下ろしている、この星と同じような世界で冒険やら王様やってたってことなんだよ。その後の人生だって、同じ地球で四回も転生して、色々な経験をしたおじいちゃんなんだよ、俺達は」

「つってもよ。俺達は、今もおじいちゃんなんつう意識ねえんだけどな。雅やリアムだって未だに女遊びしてんだろ? ラーシュ、お前もだ」

龍が、間髪入れずに若い事をアピールした。

皆、年齢は302歳だ。通常であれば、もうこの世にはいない。

だが長引く戦争に長期間、参戦できるよう施された生体ナノマシンのおかげで、身体は強化され老いもなく、見た目は20代のままだ。

「まあ、そっちのほうはともかく。僕も人生長く楽しめるなら、若々しくあるほうが楽しいしねぇ。老け込むのは、もっと後でいいやぁ」

ラーシュがそう言うとリアムも雅も同意するかのように首肯を繰り返した。

「ですが、なぜこの様な事態に陥る事を予測していたのですか? 艦長たちは、予めわかっていたような会話もしていらっしゃいましたよね?」

今まで発言を控えていたミユキの問いに龍が答えた。

「それはな、こんな話を信じろっつうのも無理だろうけどよ。最初の転移の時と今生に転生する前にな。俺は、日本の神様と龍神様に、雅は仏様に会って話しをしてんだよ。でな、転移する話も聞いていたっつうわけだ。

「僕とラーシュはその事を聞いてたしね。ワープ中、バイタル異常があったでしょ? そのときに、オリンポスの神々と北欧の神々と、話をしていたからなんだと思うよ」

すると、ソフィアが、皆を驚かせるようなAIらしからぬ発言をした。

「もう、そんなのどうでもいいです! 百聞は一見に如かずと言うわ。だから、早く降下しましょうよ! 私は、ドラゴンや魔法を早く見たいの! 魔法よ、魔法! ああん、私も使えるのかしら・・・楽しみね〜。あん! 武器とかは、やっぱり剣とか槍とか弓? それとも斧? 鎧はそうねぇ・・・いやぁん、ドレスアーマーみたいな可愛いのがいいわね!」

「あの、ソフィア中佐・・・安易に降下するのは、些か危険度が高いと思われます。ここは、慎重に降下のタイミングを図るべきかと具申します」

慎重派のミユキが、ソフィアを諌めるように言うと、アサヒもそれに同調した。

これに反論は許さん、と言わんばかりに雅は強硬に出た。

「降下することは決定事項だ。更に詳しい事は、追々説明する事にする。俺達のやるべき任務は二隻の戦艦の調査及び掌握、そして麒麟様をはじめとした神獣の封印解除。それに、転移被害者の増加防止と保護。更には、帰還希望者の支援だ。やることは多いぞ、以上だ」

「あ、雅、頼まれてたレーザーブレードを出現可能な独鈷杵と、槍を仕込んだ錫杖だけど完成してるよぉ。他のみんなも希望ある? この際だから、希望があれば聞いておくよぉ」

ラーシュは、全員に希望を募った。

龍からは、無銘・伝正宗と大太刀・太郎太刀のレプリカ。

リアムからは、村正と和泉守兼定作・二ツ胴のレプリカ。

アテナからは、ハルバード。

ミユキからは、和泉守兼定作薙刀・鬼夜叉レプリカ。

ソフィアからは、繁慶の脇差、長脇差と、長巻それぞれのレプリカ。

アサヒからは、槍を希望されたのでグングニルのレプリカと、予備にアテナと同じハルバードを用意し、自身の武器は、超硬振動ブレードを仕込んだガンバンテインのレプリカを用意した。

せっかくだからと、忍者マニアのラーシュは、手裏剣とクナイに、ゲームに出てきた銃から剣に変形するブレイスエッジをちゃっかり作った。龍には、合体するバスターソード。リアムにはリボルバー式のガンソードを作り、無理やり渡し、レーザーブレード独鈷杵を人数分用意し渡した。

「武器が、完成したから転送しといたよぉ。後、コンパウンドボウは大量に用意したからさぁ、各自、使いたいやつを使ってね。雅の独鈷杵も、皆におまけで付けといたからねぇ」

ラーシュの用意した武器と、おまけの独鈷杵は概ね好評だった。だがふざけて作った武器は、使い物になるのかと疑われた。

「独鈷杵は隠し持てんのがいいよな。けどよ、お前がふざけて作ったやつよ、あれ使い物になんのか? で、防具のほうはどうだ? できたか?」

「使えなきゃラーシュに突っ返していいんだよね?」

「ふざけて作ったのは確かだけどさぁ。なんていうか・・・感じない? 漢のロマンってやつをさぁ。絶対に気に入るはずだよぉ。あ、防具はもう少しで揃うから、ちょっと待っててねぇ」

リアムから無情な通信が入るもラーシュは自信満々だった。

程なくして、希望を受けて作製した防具も揃い、転送されてきた。

龍は、ダブルのライダースにレザーパンツとエンジニアブーツ。ミユキは、龍とお揃いを熱望。

雅は盾役でもないくせに、重装鎧とガントレット。

ソフィアは、希望通りのドレスアーマーと、足フェチの雅に合わせたであろう黒ストッキング。

リアムは、シングルのライダースにレザーパンツとエンジニアブーツ。アテナも、リアムとお揃いを希望。

ソフィアに与えたドレスアーマーが、なかなか可愛かったので、アサヒにも着てもらうためにもう一着用意した。

自分には、賢者の癖に雅用に拵えた重装鎧とガントレットが気に入り、雅の物のデザインを少し変えたものを用意した。

ちなみにソフィア用の黒ストッキングはAI全員分揃えた。

「防具揃ったから転送したよぉ。あ、AIたちには、ソフィア用に用意したストッキングとタイツも転送しといたからね。皆、喜ばせてあけてねぇ。でもさぁ、龍とリアムは、なんでライダースにレザーパンツなんだよぉ。素材の選定に悩んだんだからねぇ。一応、ハイパーケブラーを編み込んであるから切れにくいし、衝撃吸収材も使ってあるから、その辺、抜かりはないと思うけどさぁ、どこの世紀末雑魚だよぉ」

「俺とリアムはバイク乗りだからよ、それでいいんだよ。つか、世紀末雑魚言うなや! どう見ても救世主だろうがよ!」

「マッドマークスのギースみたいで、カッコよくない? あと、バイクありがとうね。音もそのままで気に入ったよ!」

龍とリアムは、バイク乗りだから必要と、全然関係ないススキのヤイバとパーリーデビッドソンのガソリンエンジンを水素エンジンにスワップさせた。

程なくして言語情報も粗方取得し、この世界には共通語が存在していて、どの国でも共通語さえ覚えてさえいれば、問題ないことが判明。AI達だけでなく全員、言語データをインストールし、降下の準備を整え終えた。

「アテナとあさひは、そのまま島へ向かってくれ。ソフィアとみゆきは世界樹へ降下。降下後にこちらから座標を送る。これより降下を開始する。前進、最微速。防御シールド最大カバー。遮蔽装置とホログラフは降下終了まで切るなよ」

四隻の宙航戦艦は大気圏へと突入していった。

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