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「リアム艦長、ドライブアウトします。現在は問題ありませんがワープドライブ中、バイタルに異常がありました。お加減はいかがですか?」
アテナは、クロニスというファーストネームではなくラストネームであるリアム艦長と呼ぶ。
そんなアテナが胸を揺らしながら、リアムに迫ってきた。
「なにポヨンポヨンさせてるのさ。そんなにしたいの? ウチのAIちゃんは結構なビッチちゃんだよねぇ」
怒られるのもいいかなと、リアムは軽口で返してみた。
だが、それはリアムの間違いだった。
「そんなこと言ってると、本気の力で踏み潰しますよ? よろしいんですね?」
軍艦搭載AIのアバターは平時は力をセーブしているが伊達に戦闘AIではない。リミット解除して手首を握ったりすれば普通の人族ならば簡単にすり潰されるだろう。
「いやいや待って! さすがにそこまではやりすぎだって。ほら、まだ生きていたいし、やり足りないし!」
さすがにリミッターの解除はしなかったらしく、リアムがホッとしているところに、あさひから通信が入る。
リアムは、瞳にモニタをオンにして映し出す。
このモニタは通信以外に、自身のバイタルやその他ステータス、100㎞範囲対地空レーダー、監視衛生の映像データなどを映し出してくれる。
更には、ドローンの遠隔操作も可能な軍仕様のマルチモニタである。
そのモニタ越しに映るラーシュは、ひどく慌てていた。
「リアム、夢か何か見なかったぁ? おっと、ログ残してないよねぇ?」
「ログは安心して。夢・・・見たよ。オリンポス十二神とハデス神から託宣を授かった」
「やっぱりかぁ。僕もだよぉ。龍や雅にも伝えることがあるからブリーフィング仕様にするよぉ」
ラーシュが二人を呼び出し、ブリーフィングモードへと変えると、即座に雅と龍のオンライン映像が映った。
「お前ら、託宣を授かっただろ?どんな内容だったんだよ?」
二人とも、彼らに託宣が授かることを予想していたのだろう。同じ質問が、リアムとラーシュに向けられた。
「オーディンたち十二神から、君たちにも伝言を授かってるよ。龍は、東端に行って青龍の封印解除。雅は、南端の朱雀の封印解除をしてくれってさぁ」
ラーシュは、ただ単に神々からの伝言を二人に伝えた。
詳しい内容もなく、単に、伝えられたモニタ越しの龍は少し困惑した表情を浮かべている。
「ちょっと待てや。ざっくりしすぎだろ? オレと雅は、転移あるぞって言われてたけどよ。場所も目的も聞かされてねえんだぞ。後、お前ら、魔力量増えすぎだろ!?」
リアムとラーシュは、魔力の量が急激に増えた自覚がないらしい。
それぞれか受けた託宣の内容を、雅と龍に伝え、それをもとに四人は降下に備えた。
託宣通りに動くとすればだ。
リアムとラーシュは、この惑星の北極海に浮かぶ島周辺に降下し島内を調査。島内にあるのはおそらく兵器の類だろう。
それもこの世界のあり方を揺るがしかねないというのは大量破壊兵器の類で間違いないはずだと考えている。
二人が当該目標を処理している間、龍と雅は、大陸中心点に先行。封印箇所の確認及び地下施設にある、こちらも大量破壊兵器の類と推察される目標の処理をする手筈だ。
各AIにはこの星系の星図や航宙図の確認、大気圏内の大気成分分析と文明レベルおよび言語情報取得、国家情勢の把握を指示した。
暫くしてAIから報告を受けたが、その内容は四人の読みどおりのものだった。
まず、該当航宙図が皆無で、どの惑星も未知の惑星。
眼科に広がる地球に似た惑星以外に、生体反応も無し。
大気成分分析を担当していたアテナが、これが現実だと断言できることを言った。
「大気圏の層は、熱圏・中間圏・成層圏があり、オゾン層も存在しておりますので対流圏の構成までは同様です。ですが、最も違う点は圏界面では、対流圏をコーティングするかのように、300メートルほどのなんらかの層が存在し、対流圏を構成しています。大気成分は窒素が78.08%、酸素が20.95%、アルゴンが0.93%、二酸化炭素0.03%と地球とほぼ同成分です。しかし、圏界面と同様の未知の成分0.005%が含まれています。また海水は、水95.4%と塩3.4%であり、こちらもほぼ地球と変わりありません。ですが、大気中と同じ未知の成分1.2%が検出されています。不思議なことに、艦長のバイタルデータにも同成分が検知されています。何なんですか? これ」
「ああ、アテナ君。言わなかったけどさ、それは魔素だよ。ほら、お伽噺に出てくる魔法使いっているだろ? あの魔法使いが使う魔法の素だ。ちなみにラーシュからも検知されているはずだよ。アサヒ君、確認できるだろ?」
「確かに、アンダーソン大佐からも検知されていますね。というか魔素ってふざけてますよね? お伽話の設定ですよ?」
アサヒがあくまでも御伽話の世界だと言ったため、雅はアサヒ含めAI達に、真実を伝えた。
「いや、マジで言ってるんだよ。我々の艦隊は、【異世界転移】ってやつをしたのさ。神々から、直々に受けた任務の一環でね。だから、簡単に帰還はできないと考えてくれ。これより我々、惑星連邦航宙軍第一〇五三戦闘艦隊第三〇二空母打撃群は惑星連邦航宙軍を離脱。独立遊撃艦隊として任務を遂行する。尚、軍規及び軍法は派手に逸脱しているかとは思うが継続するものとする。よろしいな? 各艦艦長及びAI諸君」
雅が皆に告げた。
当然だが事情を何も知らないAIは軍を離脱という常軌を逸した発言に困惑する。
「お言葉ですが閣下。なぜ、そのような突飛な発言をされたのでしょうか? また、大佐たちは、なぜ当然のように受け入れているのでしょうか? これは、軍法会議どころかクーデターと、見做されてもおかしくありませんよ?」
元々、軍に籍のあるAI達は同句を口々にした。
それを遮り、雅はAIに必要と思われる作業を指示した。
「それより、この惑星の衛星軌道上に、マルチシステム衛生を24時間、全ての国をカバーできるようばら撒け。それと、文明レベル及び言語情報の取得と国家情勢把握を急げ」
暫くして文明レベルの報告をミユキが行った。
「この惑星の文明レベルですが・・・地球で例えるなら中世に近いレベルです。しかし、不思議な事に、生活環境は然程酷くはありません。村規模でも上下水道が完備されていますし、各所の移動で使用されている馬車以外に、魔素と言いましたか・・・その魔素? を利用した時速30から50㎞で移動する自動車のような移動体が、確認されています。また、各家庭の調理器具や、街の照明などからも先程検出されたその魔素? が検出されています。主な使用兵器は剣や弓、斧、槍といった原始的な武器使用が認められますが、魔素? を利用した魔法? を利用する者も多数存在しています。それから不思議なことに、この惑星には時差が存在していません」
「魔素の車か・・・興味は湧くけどよ・・なんか、遅えな」
「快適で速いほうがいいから、どうでもいいかなぁ」
「時差がないってのも、やっぱり魔素の影響、請けてるよねこれ。でもさ、魔素の車があるなら軍用車やバイクも使いたい放題じゃない?」
龍とリアム、ラーシュがそれぞれやり取りしているところを横目に、雅はみゆきに礼を言い、更に報告を促す。
「ありがとう。それから、言語情報と国家情勢はどう?」
言語情報についてはソフィアが答えた。
「文字情報はまだ収集中の段階ですが、いくつかサンプルを記録しています。これを」
ソフィアから、時計と思われる盤面に書かれたアラビア数字そのものの映像データのほかに、いくつかのアルファベットのようなものが、映像データとして、更には店頭での会話を収録した音声データが流れてきた。
暫く、見聞きしていた雅が、合点がいったという表情をした。ほかの三人も、ほぼ同時に何かを理解したようだった。
「俺たちは、言語情報をある程度把握した。AI諸君は引続き会話や文字データの収集、分析にあたってくれ。いいね」
「え、あんな短い会話や文字で理解、把握できたのですか?! 読み書きもできるのですか?! そんなことあり得ません! そもそも、何で皆さん、そんなに落ち着いていらっしゃるのですか!?」
アサヒが叫びに近い声で質問を投げかけた。
AIですら、翻訳作業に入る前にある程度の言語サンプルの収集時間が必要だ。収集だけでも相当の時間を擁する必要があるわけだ。
それを散文的な収集データを頼りに、短時間でやってのけた四人の上官は、あくまでも人間だ。
異常としか思えない状況であっただろう。
「まあ、あとでAI諸君には、しっかり説明するから。アサヒ君、国家情勢はどう?」
「閣下、絶対に納得行く説明をしていただきますからね!国家情勢ですが、翻訳と連動していますので時間がかかりました。王政国家が四、帝政国家が一、公国がニ、大公国が一、連合王国が一、共和制国家が一となります。第一降下目標の国は王政国家で、第二降下目標の島というのはどこにも属していない、というか目視では視認できません。高度な遮蔽装置を利用している・・・としか思えませんがいかがしますか?」
未だ、納得できずに作業を続けてきたアサヒが報告すると、すぐに雅が追加の指示を出した。
「第一降下目標及び第二降下目標の超音波スキャン並びにレーザスキャン、遮蔽装置の探索をリアルタイムで実施してくれ。それから龍、鑑定を頼めるか?」
「わかった」
珍しく緊張した面持ちで龍は、第一降下目標の映像データを神眼で鑑定してみた。
「第一のほうな。こっちは、中心にそうだな・・・幹の直径は30㎞ぐらいのクソ高え木が生えてるわ。これ世界樹ってやつじゃねえか? やけに魔素が濃いな・・・っておい! 竜やらべへモスやら、わらわらいるぜ。弱えのはワイバーンとかグリフォン辺りだ。ある意味ヤベェな、ここよ」
「わかった。30㎞の木か・・・その大きさだと世界樹の可能性が高いだろうな。というか、世界樹がある場所なのに魔物だらけってな、聖地じゃないのかよ」
そもそも、世界樹がある場所は、いずれかの種族が守護し、魔の存在を許さない存在、というのが物語の定説だし実際、自分たちが前回転移したフェイランドにおける世界樹も、精霊種が守護している聖地だったからだ。
第二降下目標周辺を鑑定していた龍から、それを聞く全員が驚くような予想外の言葉が出た。
「第二目標のこの島、マジでヤベェぞ。ここだけ別世界だぜ。真ん中にデカい宇宙船みてえなのがあってよ。その周りを多分リニア・・・マグレブライナーの線路が走ってんぜ。遮蔽装置は、どこにあるかわかんねえけどよ、RCWSや地対空ミサイル、それにレールガンまでわんさか見えんぞ。どうするよ閣下?」
龍は、戸惑いながらも鑑定を続けたまま、雅に質問した。
雅は、暫く黙考し、意を決したように各艦長に指針を出した。
「とりあえずこの二つの目標は完遂しなければ話にならないしな。二手に別れどちらも最大シールドを張って降下、着陸する・・・だな」
映像分析が可能な第一効果目標を飛翔しているドラゴンを見ながらラーシュに竜について話を振った。
「竜のほうは多分、話が通じる気がする。ラーシュ、元賢者としてはどう判断する?」
「あのドラゴン、エルダードラゴンなんじゃないかなぁ? だとしたら話ができると思うよぉ。念話、試してみよっかぁ」
ラーシュが、軽く言ったので、雅は首肯した。
『大きな木の側を飛んでいるそこの竜、聞こえているかい? 僕はラーシュ・アンダーソン。空の上から君に話しかけているよぉ』
暫くすると、竜から念話反応が帰ってきた。
『聞こえておるぞ。何者だ貴様? 空の上からなどと戯言にも程があるぞ。しかし、なぜ我に話かけられる? 只人には、我と話などできぬものぞ』
「ラーシュ、俺達にも念話回せんのか?」
ドラゴンを見て、俄然やる気に満ちた表情をしている龍に聞かれ、ラーシュは三人にも念話を繋げた。
『そりゃ、あんたを宇宙から見下ろしてっからだよ。今から降りていっからよ。首を洗って待ってな。俺は龍! リュウ・アオイ大佐だ。よろしくな!』
『ちょ、喧嘩売るような話し方しないでよぉ。話がややこしくなるだろぉ! すまないドラゴン。仲間が失礼した。その大きな木、世界樹でしょ? その樹の根本に用事があるんだよぉ。何隻か船が降りてくるから、少しの間我慢してくれないかなぁ?』
しばらく沈黙の後、古竜から返事があった。
『いかにも。この木は世界樹ぞ。来たければ来れば良かろう。どうせ暇な身だ。我が、面白そうだと思ったら長居したとて構わんぞ』
『ありがとう。まあ、面白いとは思うよぉ。知らんけど。そうそう、土産持っていくからねぇ。酒とか好きだろ?』
『酒ならうまいやつを持って参れ。待っておるぞ。おい! 龍といったな貴様。暇つぶしに、やりあってみるかの?』
『面白え。やってみようじゃねぇか』
既に調査云々より、喧嘩のほうが楽しみらしい龍を放っておき、AIへの説明をどうしたものかと、他の三人は考えていた。
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