第12話 若菜と冬花


「ねぇ若菜…いい加減、ちーちゃん困らすの止めようよ…」


「うる…さい!千晶は私の…部屋へ連…れてくるんだ…」


「連れてきてどうするの?寂しいの?」

 

「わからない!わからない…」

 

「寂しいなら、私がいるじゃない」


「お前は、私だ…いずれお前は同化する」


「あんたが私に同化するかもよ?だって、アヤは消えたし、私達は誰も怨んでいないじゃない…」


「千晶が来たら…眠れるかも…しれないだろ?」


「だからって、ちーちゃん殺していいの?」


「わからない…わからない!!」


若菜は若菜を必死で諭す…。


「さっき、あんたが取り憑こうとした、ゆりって人…悪い人じゃないよ?むしろ、被害者だよ…もう、ほっとこーよ…」


「ガガ…ガ…ガガ…」


若菜は裂けた口を大きく開いた…。



ゆりはベッドの中にいた…。


今日は静かに眠れるみたい…。


ゆりはそう思い、目を閉じた…。


すると、ラインの着信音…。


スマホを取り上げ、画面を見てみる…。


着信 沢田冬花


「誰?知らない…」


ゆりは出よか無視をするか迷う…。


すると画面が暗転し、異様な姿の女のコが映った…。


ゆりはその爬虫類の様な容姿に目を見開く…。



すると、画面の中から青白く爪が鋭い手が伸びて来て、ゆりの首に指先が触れた…。


ゆりは驚愕の悲鳴をあげた…。


あげた悲鳴が消えぬうちに、その手は別の手に掴まれて画面の中へ引き戻される…。


ゆりは慌ててスマホをシャットアウトし、布団を被って朝まで震えていた…。


いちかのスマホの中…。


keepのトークルームの冬花の部屋…。


今ここで、若菜と冬花が対峙していた…。


邪魔をするな…。


冬花が思念を送る…。


ゆりといちかは私が喰らう…消えろ…。


若菜が冬花へ思念で返す…。


「ガ…ガガガ…ガ…ガガ…」


「シュー…ガガ…シュー…」


冬花は、赤い口を開き、若菜を睨らむ…。


若菜は両手をブラリとさせ、冬花を見つめている…。


いきなり冬花が若菜を襲う!!


耳まで裂けた口で若菜の肩口に噛みつこうとした…。


若菜は払い、冬花の首を抑えた…。


「シュー…シュー…」


身動きを抑えられ、藻掻く冬花に若菜が話し掛ける…。


「あなた、冬花って言うんでしょ?知ってるわよ…イジメの友達、消したんでしょ?」


喰らってやった!


冬花は思念で返す…。


「なら、もうあなたも怨みは消えたはず…まだ心残りがあるの?」


わからない…景子がもっと殺せと言った…。


「可哀想に…もういいでしょ?眠っていいでしょ…」


若菜は黒い瞳の右目から涙を流す…。


冬花は藻掻くのを止め、細長い瞳で若菜を見つめた…。


若菜は抑えていた首を離すと冬花は何処へ消えて行った…。


丁度その頃、オートロックを開き、いちかの玄関前に男達が立っていた…。


内偵で捜査をしていた刑事達だ…。


「覚醒剤取締法及び、麻薬及び向精神薬取締法違反の為、逮捕します」


刑事は、いちかにそう告げ、逮捕状を見せた…。


そして、いちかは拘置所で自殺した…。


ゆりは平穏な日常に戻り、keepに怨みを書き込むことは、2度と無くなった…。


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