第9話 義父と威男
「あ〜ぁ、講義眠かったねー」
「あの教授の話、つまんないからねー」
「そう言えばさ、keepの話、知ってる?」
「知ってる知ってる!怖いよねー」
「keepに教授を書いたら、殺しに来ちゃうかな?」
「単位くれなかったら書いちゃえば?」
「あはは…そうしちゃう?」
keepの噂は女子大生でも、かなり広まっていた…。
威男とは、すでに寝室は分けている。
独り葉子はkeepを閉じた後、疲労ですぐに深い睡眠に入った…。
スリープモードのスマホに無音の着信がある…。
着信 佐伯若菜…。
すぐに着信は消え画面は暗く戻ったが、画面が暗くなる前に、スマホの画面の内側より一筋の影が流れ出て、義父の部屋へと這って行った…。
影は義父の部屋の出入り扉の隙間から、部屋の中へと入って行く…。
義父は口を開け、涎を流し寝ていた。
影は女の姿へと変わって行く…。
髪を乱し、瞳が消えかかり、斑模様の白目だけになりつつある、左目で義父を見ている…。
まるで無感情に見ている…。
しかし、手には鈍く光る裁ちバサミをブラリと握っていた…。
音も無く義父に近づくと逆手に握ったハサミを喉元へ突き刺した。
義父は目を見開き、声をあげようとしたが喉から息が漏れて声にならなかった…。
女は、耳まで裂けた赤い口を開き、鋭く小さな歯を見せながら、義父の胸へ2度3度とハサミを根元までグサリグサリと突き刺した…。
そして、義父の下着を裂き千切り、縮こまった亀頭を摘み強く引っ張った。
そして、長く伸びた男根の根元をハサミでチョキンと切り取る…。
摘んだ男根を床に放ると、義父の目玉から脳味噌まで一気にハサミで刺し抜いた…。
そしてまた、影に戻ると威男の部屋に入って行った…。
寝ていた威男の首を掴み、ヒョイと立たせ威男の肩口に噛み付いた…。
肩の肉は無惨に千切れ、威男は痛みで目を見開く…。
締めつけられてる首の苦しさで、舌がダラリと垂れ下がり、それでも激しい痛みで女を見る…。
そのおぞましさに意識が遠のくが、女は更に胸の肉を、食い千切る。
そして首を掴む手に、少し捻りを加えたら、首が、ボキリと音をたて、威男はそのまま息絶えた…。
女は威男を布団へ放り、腹を鋭く小さな歯で食い千切り、空いた穴から臓物を引き摺り出し、威男の口に押し込んだ。
死んでも威男の口臭が漏れないように、喉の奥まで押し込んだ…。
ぐっすりと眠っていたはずの葉子だったが、異変の音に気がついて、起きて威男の部屋まで来る…。
入口の隙間から見たのは、威男の惨殺死体と髪の乱れた女の後ろ姿…。
葉子の悲鳴で女は振り返り、その恐ろしい顔形を見たとたん、葉子は気を失い、床に倒れた…。
気絶した葉子を女は見おろし、まともな右目から涙を溢れさせ、そのまま、影に戻り一瞬光った葉子のスマホへ消えて行った…。
「ちーちゃん!ちーちゃん!!」
また、意識が、遠のいた千晶の肩を宗介が揺さぶる…。
「ソウちゃん…今、若菜がおじぃちゃんとおじさんを殺した…」
「なんだって?」
「怖い若菜は楽しんで殺してた…優しいいつもの若菜は涙を流していた…でも若菜は今はひとりだった…」
宗介は息を飲み聞いている…。
「怖い若菜は私を探している。きっとソウちゃんも探しているよ…」
「まだ、優しい若菜が探すのを邪魔しているって…」
「ちーちゃん!若菜と話しているのか?」
宗介が訊く…。
「うん、いつもは出来ないけど、優しい若菜の声が聞こえるよ。私の声も届いているみたい…」
「keepの呪いか…もっと調べて見よう…」
「若菜…」
千晶は涙を拭い、宗介に頷いた…。
葉子は異臭で目が覚めた…。
見ると威男が無惨に死んでいた…。
しかし、葉子は涙も流れず威男を悼む気もちにもなれなかった…。
義父の部屋へ行く…。
義父もおぞましく死んでいた…。
葉子はやっと開放されたと思った…。
葉子は部屋に戻り、スマホを持ち、フラフラと外に出た。
夕べの動画の女がふたりから開放してくれた…。
あれはきっと、私が狂ってみた幻想…。
夫と義父はきっと私が殺したんだね…。
なら、私も私を殺しましょう…。
踏み切りの脇でスマホをポケットに入れ、走る電車に飛び込んだ…。
飛び込む瞬間にスマホが光かり、着信 佐伯若菜の文字が現れたが、すぐさま消えて、電車に砕かれスマホも消えた…。
「あの女…勝手に死んだな…ガガ…魂を喰らいに行くか…」
若菜が言った…。
「もう、いいじゃない…逝かせてあげよう…」
若菜がなだめた…。
若菜はまた、スマホを渡って千晶を探し始めた…。
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