第6話 イクコ

「ねぇねぇ…keepの悪霊ってね」


「keep?何それ?ラインのkeepの呪いの話?」


「うん、噂知らない?」


「知ってるよー。ラインからラインに移って来る悪霊でしょ?」


「そうそう…で、あれに殺されちゃうと魂を引き剥がされて、魂まで殺されちゃうんだって?」


「何それ?意味分かんない。だって死んだらそれまでじゃん」


「いや、違うのよ。殺されて永遠に消えちゃう人と、殺されても、keepに住みついて悪霊になっちゃう人がいるんだって…」


「えぇ?あれってライン開いてる時に悪霊が来るんじゃん…人数増えたら来る確率高くなるってこと?」


「分かんないけどそうなんじゃないの?」


「ヤバいなぁ、まぢkeep使うの止めようかな?」


「まさか、keep使ってるの?」


「使ってるよ…便利じゃん」


「じゃあ、今日あたり、来るかもよー」


「怖いこと言わないでよ…」


女子高生達は、噂に興じ、keepの悪霊は都市伝説になっていた…。



イクコはオトハ等とカラオケの帰り、皆と別れて、まだ駅前にいた。


「なんかさぁー、ママから買い物頼まれちゃって、スーパー寄って行くから、またねー」


仲間内でひとりだけ彼氏がいるのを、皆には黙っていた。


特にオトハの機嫌を損ねると自分までもイジメの対象になり得るからだ。


だから、皆が駅に入るのを見届けて、彼にラインを送る。


今から会えない?


しばらく待つと彼は車でやって来る。


パーキングに駐車し、彼とまたカラオケへ行く。


歌う為では無く、彼とふたりになりたいだけだから…。


彼といちゃつき、たまに歌って夜も更けた頃、イクコは彼に車で駅まで送られ帰って行く。


駅から、自宅までの道のり、他愛もないラインをマサヨに打った。


マサヨから返事を見ると、今度は彼にラインする。


もうすぐ、家に着くよ…


ラインを見て、イクコにもう1度、キスをする為、車を引き返す。


車道は狭く、車の通りは多いが、街灯の光で暗くない。


スマホを閉じてポケットへ入れようとした…。


その時ラインの着信があった…。


スマホを見ると、冬花からの着信。


「冬花?」


画面はkeepのトーク画面…。


文字がもやっと浮かび上がる…。


サワダ トウカさんがあなたを招待しました。

覗いてみますか?


はい…いいえ


「なんだこれ?冬花だよね…」


イクコは疑いもせずに、はい…をクリックした。


画面が暗転し、何やら薄気味悪い部屋の映像が映しだされる…。


首を掴み、女の子を引きずる後ろ姿の髪が捩れた女が映った…。


引き摺られた女の子を見ると、虚ろな目をしたマサヨだった…。


「何?何これ?」


引き摺る女が振り向くと、それは醜くく悍(おぞま)しい冬花の姿だった…。


マサヨを放ると、冬花は消えた…。


消えた瞬間、背後に立った冬花が耳まで裂けた赤い口を開き、腕を延ばしてイクコの首を掴んだ…。


苦しく藻掻くも、掴まれた首から冬花の手は離れない…。


前方から、ヘッドライトの光が見えた…。


見えた瞬間、イクコは走る車の前に投げ出される…。


ブレーキを踏む間も無く、イクコは跳ねられタイヤに踏まれた…。


タイヤの轍(わだち)は、イクコの首の上を通過した…。


イクコは悲鳴さえ挙げられず、首の骨を折られ喉を潰され絶命した…。


冬花はニヤリと笑い、画面に戻った…。


慌てた車のドライバーが降りてくる…。


轢いた女を見てドライバーは青ざめ叫ぶ…。


「イクコー!!」

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