第5話 アユミ、マサヨ


「ねぇねぇ…聞いた?」


「何を?」


「ほら、山手のあの女子高生が殺されたって…」


「聞いた聞いた…なんでも、担任の先生も殺されたって…」


「マジ?不倫で?」


「違うよー、ラインのkeepの霊だよ」


「やっぱそうなんだー?」


「女のコがね、keepに担任のこと書き込んだら、女子高生の霊が来て、担任殺して次の日、女のコも殺しちゃったんだって…」


「ひゃー!!」


「あはは、今どき、ひゃーって…受けるー」


「んなことよりさー。今日、パフェ食いにいかね?」


「あぁ、駅前のね!行こうか!」


keepの噂は、広まって行く。





今日は冬花も登校してきていない。


「冬花、今日休みじゃん」


「逃げたか?」


「もう、学校辞めちゃえばいいね」


「何言ってんのよー冬花がいなくなったら、つまらなくなるでしょ?」


「あはは、オトハはエグいなぁー」



冬花はケイコに連れられて、今はkeepのトークルームの部屋にいた。


「お前も誰かを呪って呪って、誰かを殺して部屋を渡り歩け…」


冬花は頭に響いたケイコの思念に従い、冬花のスマホのkeepに居る。


髪はよじれ、見開いた瞳は小さく瞳の周りの白目は、細い血管が浮き出てきて、斑の模様を作っている…。


口は赤く、耳まで裂けて、口の中には、鋭い魚の様な歯が幾重にも、生えはじめて来ている…。


すでに、冬花は妬み、呪い、殺人への感情以外は無くなっていた…。


「アユミ…殺す…死ね…」


「マサヨ…死ね…死ね…殺す…」


今日も皆とカラオケに行き、帰るとすでに夕食が出来ていた。


「アユミ!遊んでばかりいないでたまには手伝いなさい!」


「うっせぇな…」


母親には聞こえない声で呟く。


「いただきまーす」


アユミは家では真面目な良い子を通している。


「食べたら、先にお風呂へ入っちゃって!」


「はーい」


自部屋に行き、着替えを出して、お風呂へ行こうとした時に、スマホに着信があった…。


着信、冬花


「もしもし、冬花?」


返事は聞こえない…。


「もしもし?もしもし?」


無言のままである。


親に聞こえ無いよう、小声で凄む…。


「お前、舐めてると明日学校でどうなるか分かってんだろうな?」


通話は切れた。


アユミは舌打ちし、スマホをベッドの上に放り投げた…。


しかし、通話が切れる一瞬前に、スマホの画面がkeepのトーク画面に変わり、冬花が映っていた事は、アユミには分からなかった…。


アユミは浴室へ入り、身体を洗う。


その後、髪を濡らし、シャンプーをする。


シャワーで泡を流し、目を開けると、くもった鏡に薄っすらと人影が見えた。


見えた瞬間、髪を掴まれ浴槽屁引き摺り込まれ、身体全身すっぽりと浴槽のお湯の中に沈められた。


湯の中でアユミは見開き見上げると、おぞましい姿に変わった冬花が見えた。


冬花はアユミの腹を踏みつけた…。


髪は未だ、掴まれ引き押さえられ、見える冬花に踏みつけられている…。


身動きの出来ぬまま、叫ぶと湯が入って声にならない。


藻掻こうにも、身体はビクとも動かない…。


アユミは口から、ブクっと泡を出し、そのまま、目を閉じた…。




マサヨはカラオケから帰ると、帰宅が遅い両親の用意してある夕食をひとりで食べて、ベッドで寝ていた。


夜も更けてきた頃、イクコからのラインで目を覚ます。


返事をし、スマホを閉じようとすると、ラインのkeepのトークルーム画面になっている。


何気にkeepを眺めると、画面が暗転し、文字が浮かび上がる。


サワダ トウカさんがあなたを招待しました。

覗いてみますか?


はい…いいえ


「冬花?あいつは何のマネ?」


マサヨは、はい…をクリックする…。


暗い部屋には誰もいなかった…。


ただ、部屋の中央に手術台の様な物が置いてあった…。


マサヨは訝し気に画面を閉じようとしたところ、画面脇から、後ろ姿のひとりの女が現れた。


女は部屋の奥へと歩いて行くが、女が引き摺る人を見て驚いた…。


アユミの首を掴み、女は引き摺っていたのだ…。


女は台の横まで歩くと、振り返った。


見開く目には瞳は小さく、白目は細かな、血管の斑模様…。


耳まで裂けた口を開くと鋭く小さな歯が幾重にも並び生えていた。


醜く歪んだその顔は、変わっていても冬花の顔だった…。


「冬花!!」


振り返った冬花は掴んでいたアユミを放り投げ、画面に近づくと画面から、ぬぅーと這い出して来た…。


マサヨは悲鳴を上げるいとまも無く、首を掴まれ、いきなり窓外に放り投げられる…。


投げられたマサヨの身体は、ベランダも越え、32階の高さから、一直線に下降する。


僅かの時間でマサヨは何も分からぬまま、地面へ叩きつけられる。


首は折れ、手足もあらぬ方へネジ曲がり、マサヨはそのまま息絶えた…。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る