第3話 冬花


「ねぇねぇ…ラインのKeepって知ってる?」


「うん…あれに誰かを呪うとKeepに霊がやって来て、呪った人を消してくれるってやつでしょ?」


「でも、呪った人も殺されて、Keepの住人になっちゃうって話だよー」


「えぇ~?そりゃダメじゃん…もう使えないかな?」


「って、Keep使ってるの?」


「だって、噂でしょ?便利だから使ってるよ」


Keepの悪霊の噂話、女子高生の間で広まって来た…。





千晶は今、病室で目覚めようとしていた…。


「ちーちゃん!ちーちゃん!」


幼馴染の宗介が、千晶の肩を持ち、揺すっている…。


「ちーちゃん!!」


「うぅー…ソウちゃん?」


「やっと目覚めた…ちーちゃん、何があったんだ?」


「あたし、夢をみてたよ…長くて悲しい夢…」


宗介は頷き、千晶に言う…。


「とにかく今、お母さんと先生を呼んでくる!」


宗介は病室から飛び出した…。


千晶の母親と医師が宗介を伴い入って来た…。


医師が千晶に話し掛け、診断をしている…。


千晶の母親と宗介は、それを見守る…。


「明日、精密検査をしますが、おそらく、もう大丈夫でしょう」


医師の言葉に、母親は安堵を示し、千晶の手を握り、色々と話し掛ける…。


「ソウちゃん、後は千晶を見ててくれる?」


千晶が以前の千晶と変わらない事を確証したのか、母親は、明日、また来ると言い、家へ戻った。


千晶と宗介は、二人になった…。


「もう、すっかり良いのかな?」


「私、長い間寝てたの?」


「うん…」


「大丈夫だと思うけど、なんか長い夢をみてたよ…」


宗介がそれを促すと、千晶はゆっくり話し出した…。


「若菜と若菜が居てね…あたしは若菜の後ろで立っていると、若菜と同じ顔…いや、若菜だって解るんだけど、瞳が蛇の様に細長くて瞳の周りがいっぱい充血してて、赤い口を大きく開くと、なんか、お魚の歯みたいのがいっぱい生えてて、とても怖いの…その若菜から、こっちに立ってるもうひとりの若菜があたしを守る様にしてるんだ…私は怖くて泣き出しそうで…こんな夢、何度もみた…そう言えば、若菜はどこ?」


「若菜は…」


宗介は顔を曇らせ千晶に告げる…。


「若菜は…死んだよ…アヤも殺された…覚えてないの?」


「あれは…夢じゃないの?」


「若菜が死んで、ちーちゃんは若菜のスマホを持ち帰り、それから、ちーちゃんは、意識を失い、ずっと眠っていたんだよ…」


千晶は、頭をひとつ振ると、全てを思い出した…いや、夢では無く、全てが現実だったと理解した…。


「Keepの呪い…」 


「え?何だって?」


その時だった…。


千晶はがくんと項垂れて、直ぐ様顔を上げた時、千晶は血の気が引いて、怯えはじめた…。



「死んだ…今、怖い若菜が女の子を殺した…」


丁度その時は、真那が死んだ時刻だった…。




「みなみーカラオケ行かない?」


「行こう行こう!」


沢田冬花は女子高生…。


1年生の時にイジメにあっていたみなみと仲が良かったことから、冬花もイジメにあうようになった。


反抗をしなかったみなみに対して、勝ち気な冬花への風当たりが増してきた。


上履きをゴミ箱に捨てられ、探して履く。


教科書にイタズラ書きをされる。


イジメをする娘らは、分かっている。


冬花が文句を言うと4〜5人で囲まれ、殴る蹴るをされた…。


それでも怯まず耐えていたが、イジメはどんどんエスカレートをしていく。


トイレに入れば、上から水をかけられずぶ濡れにされる。


反抗すれば、頭を押さえられ、便器の中に顔を入れられ、汚ったないと嘲られた。


毎日毎日繰り返されるイジメ…。


それでも冬花は耐えていた。


しかし、許せなかったのは、みなみがイジメに加わったことだった。


自分の保身の為か、そんな事は冬花には関係無かった。


みなみに裏切られた事が全てだった…。


冬花はみなみを呪った…。




クラスメート全員から、無視を受けている冬花は、ひとり、ラインのkeepへ恨みや呪いの言葉を書き綴った…。


今日も、いくら女子だけの学校だとしても、無理矢理、裸にされて、制服を窓の外に投げられた。


裸の冬花をクラスメートが指差し笑う。


その中でみなみも指差し笑う顔が腹立たしい。


死ね!死ね!みなみは死ね!


冬花はkeepに書き込み続ける。


お前は最低な女だ!


呪ってやる!


お前だけは許さない!


書いても書いても気が済まない…。


次は何を書いてやろうか?


そんな時だった。


急に画面が反転し、戻ると文字が浮かんでくる…。


カワセ ケイコさんがあなたを招待しました。

覗いてみますか?


はい…いいえ



カワセケイコ?知らない人…。


これって、誰かの嫌がらせ?


誰かのイタズラ?

 

嫌がらせなら、無視しても、奴らはきっとしつこい…。


何度も何度もやるに決まってる。


奴らは学校だけじゃなく、家に帰ってもイジメるの?


証拠を押さえて、学校の先生に言おう。


ダメなら、警察に相談しよう。


もうこんな生活は嫌だ!!



カワセ ケイコさんがあなたを招待しました。

覗いてみますか?


はい…いいえ



冬花は、はい…をクリックした…。


ラインのトークルームが歪み、暗くなると不気味な部屋の中が映る…。


床には生首、壁には、目玉や耳が、千切られ張られいる…。


部屋の中央には、手術台の様なものがあった…。


台の上には、血痕らしき跡があり、自然とそこを凝視してしまう…。


その瞬間だった…。


画目の端から急にひとりの女が現れた。


女?


姿かたちは女だが、瞳が無く、白目は赤く血走り斑模様…。


赤く開らき、耳まで裂けた口の中には、細かく鋭い、まるでピラニアのような小さな歯が幾重にも生えていた。


冬花は驚き、スマホを投げ出しそうになる…。


しかし、怖がらせ嘲笑うイタズラだと思い、この先きっと嫌がらせがあるはずだと、冬花は画面から目を離さない…。


画面のおぞましい女は、じっと画面の中から冬花を見ている…。


斑模様の白目がギロリと動くと割れて響く音声がして、女の言葉が聞こえてきた…。


ガガガガッ…シューガガガ…


み…なみ…みな…みだな…判った…。


ガガ…ガガ…。


お前は私を覗いたね…私の部屋を覗いたね…だからお前を私の部屋に連れてくる…逃げられないよ、お前はね…だけどそれは今日じゃない…今日はお前をkeepするだけ…。


女はそう言うと画面から消え、暗い部屋からkeepのトークルーム画面に変わった…。


「何?何だったの?」


冬花はひとりつぶやき、スマホを閉じた…。



冬花は今朝も憂鬱の目覚めでベッドから起きた。


冬花のイジメを先導するあの4人のクラスメート…アユミ、マサヨ、イクコ、オトハの4人…。


それに、憎いみなみ…。


「あいつらに会いたく無いな…いなくなって欲しい…」


カバンを背負って、登校する…。


教室へ入り席に着く…。


アユミ、マサヨ、イクコ、オトハは何やら話している。


チラリと冬花を見る…。


冬花をイジメる相談でもしているのか?


授業が始まり、1時限、2時限と授業は進み、次の授業が始まった…。


そう言えば、今日はみなみが来ていない…。


冬花はそれだけで少し良かったと思う…。


昼休み…今日も4人を中心にイジメを受けた…。


ひとり教室から逃れて体育館倉庫で昼食を食べていると、わざわざ4人がやって来て、奪われた弁当を頭からぶち撒けられた…。


「あっ!ゴメンねーゴミだと思って、ごみ箱へ捨てたんだよ」


「冬花はごみ箱じゃん?」


そう言うと、4人は笑いながら何処へ行った。



頭と身体を払い、散らばった弁当の中身を拾い集め、教室へ戻ると、机にはごみ箱と書かれ、机の中には大量のゴミが押し込まれていた…。


あいつらも、絶対に許さない!


冬花はまた、改めて、4人を憎み呪った…。


午後の授業が始まる前に、担任の教師がやって来た。


「皆、静かに!夕べ山村みなみが亡くなった…事故らしい、皆も気をつけるように…」


みなみが死んだ?


クラス中はざわめいた。


みなみが死んだ…。


冬花はほくそ笑んだ…。


しかし、すぐさま夕べのkeepを思い出した…。


あれって…あの気味悪い女がみなみを殺した?みなみ…判ったって言ってたよね?


しかし、冬花はみなみが死んだと言う事実で笑いを浮かべ、夕べのkeepの事はそれ以上気にもせずに、気分を晴らし帰宅した…。

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