第31話★

「――、みなのものー! 今日も元気にすごしているでござるかー!? ドリームライブプロダクション三期生の“黒羽くろはりんね”でござるー!」



 カメラに向かってりんねは声を張り上げた。


 今日の企画の司会進行役は主に自分だ。その内容というのも、気配斬りというスポーツ兼バラエティーで、武者という設定の“黒羽くろはりんね”に白羽の矢が立ったわけである。


 安直すぎるのではないか、と確かに思わなくもなかったが、任された以上は最後までしっかりとこなすのみ。


 しっかりやらないとね……! りんねは強く自分に言い聞かせた。



「えーっと、今日の企画はここにいるメンバーで気配斬り最強王決定戦をしたいと思うでござるよー! みなのものは、気配斬りについては知っているでござるか?」

「まぁ、名前だけなら一応はって感じかなぁ」

「私もやったことないよー!」

「こころも、やったことはないけど多分大丈夫だよ思うよ」

「俺はまぁ、実際にやったことは……」



 この反応は想定内だ。進行するに当たって特に仔細はなく、むしろ全員素人の方が盛り上がるというもの。


 かく言う“黒羽くろはりんね”も例外にもれることなく、その素人の一人であるわけだが、ことやる気に関しては誰にも負けない。そんな自信で満ちあふれていた。


 曰く、“黒羽くろはりんね”は主に身体を動かすことを趣味嗜好とする。


 スポーツ全般は見るのもするのも両方好きだし、今回は特に普段やる機会が早々ないだけあってずっとワクワクと心躍らせていた。


 これからもどんどん、スポーツ系の企画が増えればいいのに……。後で社長に相談しにいくのもいいかもしれないかも? りんねは思った。


 それはさておき。



「――、ざっくり説明すると、これからみなには目隠しをした状態で斬り合ってもらうぜござる。そして最後まで立っていたものが勝者でござるよ!」

「正しく読んで字のごとく、ですね」

「それじゃあ最初はトーナメント形式で……“夜野よるのいぶき”殿と“犬房いぬふさこころ”殿との一騎打ちからスタートするでござるよ! 各々方、準備の方はいいでござるかー?」

「俺は問題ありませんよ」

「こころも特に問題はないね」

「それじゃあ、観戦のお二人はそれぞれ目隠しをしてあげてほしいでござるよ」

「はーい!」

「わかったわ」



 対戦者に目隠しをする――作業だけならたったこれだけのことなのに、予期せぬアクシデントが起きたものだから、さしものりんねも思わず目を丸くせざるを得なかった。



「私がいぶきちゃんに目隠しするね!」

「ちょ、ちょっと距離的にエルちゃんの方がこころちゃんに近いのに、どうしてこっちにわざわざくるの!?」

「お~いそこの二人~修羅場は求めてないでござるよー!」

「あの、目隠しなら自分でできますので大丈夫ですよ……?」



 収録にはある程度台本があって、しかし基本的な部分にさえ沿えば後は好き勝手にしても全然問題もない。


 とは言っても、ここでもいちゃつきっぷりを見せつけてくるなんて……。知らない内に仲良くなっている二人に、りんねはほんの少しだけ羨ましく思った。


 今日はもっといぶきんと仲良くなれるようにがんばろうっと! りんねは軽く咳払いをした。


 どうにかして……主に一颯が小修羅場に終止符を打っていた。


 宣言したとおり、目隠しを自分でされれば、争いの種がなくなったから必然的に彼女らの対象は一人にのみとなる。



「――、それじゃあ目隠しするね」

「……ねぇ、こころの扱いがなんだか雑なのは気のせいかな? ねぇ気のせいだよね?」

「気のせいだよー」

「――、それじゃあ準備が終わったようだし、二人とも準備はいいでござるか!?」

「えぇ、問題ないです」

「こっちもOKだよ」

「それじゃあまずはお互いに5回ほどグルグルと回って――スタートでござる!」



 開戦の合図を告げた――次の瞬間。りんねはぎょっと目を丸くした。


 胸中に渦巻くのは驚愕の感情いろで、次第に困惑などもそこに混ざっていく。視覚情報がない二人は今、己の勘だけが頼りとなる。


 実際に“犬房いぬふさこころ”は……あれじゃあ、まるで生まれたての小鹿のよう。覚束ない足取りで剣先も全然定まらない。


 そして虚空に向かってぶんぶんとスポーツチャンバラ用の剣を振るう。


 これは普通の反応だ。りんねはそう思った。



「いぶき殿なんか……怖っ」



 そんな言葉がもそりと、自然に口からもれる。


 一颯も視覚が封じられて悪条件なのは同じはず。しかし彼女の動きにブレはこれっぽっちもない。


 そればかりか、手にしているのは安全面を考慮してスポンジ剣であるはずなのに――真剣を持ってるみたい。りんねは我が目を疑った。


 ごしごしと手の甲で拭うが、やはりそこにあるのはごくごく普通のスポンジ剣だ。


 じゃあさっきはどうして真剣のように見えたんだろう……? りんねは顔をしかめた。


 剣先は真っすぐと中段に定まり、じりじりと摺り足で少しずつ……だが着実に、こころとの距離を縮めていく。


 目隠しはしっかりとしているのは全員が確認済みで、見えないはずがあたかも位置を把握しているかのごとく。



「――、ふっ!」

「いったい!」



 スパンッ、と小気味よい音がスタジオに奏でられる。 決着は一瞬だった。



「……当たりました、よね?」



 一颯の声にしばし呆然としていたりんねは、ハッと我に返った。



「しょ、勝負あり! 勝者は“夜野よるのいぶき”殿ぉ!」

「ふぅ……ありがとうございました」

「い、いぶきちゃん……もしかして今、本気で打ち込んだ感じかな?」

「まさか、これでもだいぶん手を抜いた方ですよ」



 あれで本気じゃなかったの!? あっけらかんと答えた一颯に、りんねは痛く驚愕した。


 仲良くなる前に、ボコボコにされて終わるかもしれない……。第二試合を務める、かすみとエルトルージェがやる気満々で開戦を急かすのも気にならないほど、りんねは内心で滝のような冷や汗を流した。

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