#12 ごめんなさい、涼宮さん

涼宮さんが…泣いている。

こんな表情…初めてだ。

「いなく…ならないで」

必死の懇願。

「…涼宮さん。これは、君のためでもあるんだ」

でも僕は、あくまで拒絶の一心だった。

「…へ?」

「だって僕が…君のそばにいたらさ。その…悪評、立っちゃう」

「悪評?」

「うん。僕といることで…ね」

「そんなこと、気にしないのに…」

「僕が…気にするんだよ」

「なんでよ…」

「僕…さ。もう…辛いんだ…学校にいるのも…」

そしてひと呼吸置く。

「涼宮さんを…これ以上傷つけたりするのが」

涼宮さんがうつむく。

「…ごめん…全部僕のせいなのに…」

僕は涼宮さんに背中を向けて、とぼとぼと歩き出す。

本当にこれでいいのか。



…いいんだ。これで。僕は自分に言い聞かせる。


本当は、絶縁を切り出そうと思った。

でも、まだ僕にはそんな勇気はない。

歩いてるうち、バス亭への近道である人の気がない路地に入っていった。


…本当、僕って馬鹿だな。


ひとり、そんなことを考える。


僕、本当は何したいんだろう。




ふいに、後ろから足音がした。


かと思うと、涼宮さんが目の前に来た。

そして僕を、これでもかというほどに強く抱きしめてきた。


「だめ…」僕は掠れた声で言う。

「僕…これ以上君を好きになったら…どうしていいかわからないよ…」

僕はこれ以上何も言えなかった。これが限界だった。

涼宮さんは何も言わず、ただぎゅっと抱きしめてくる。

「僕…もう…」


僕は次の言葉を紡ごうとした。


でも、できなかった。

感情が一気に流れてきて。

ぐちゃぐちゃになって。


僕は、泣くことしかできなかった。

「拒絶するかもしれないけど…しばらくこうさせて…?今抱いてる手を離したら…悠真さんがいなくなっちゃう気がして…」

僕の体に、涼宮さんが顔を押し付ける。


そして涼宮さんが、言葉を繋いでいく。


「私ね…?悠真さんのこと、大好きなの…もう離れたくないの…」

涙で前がよく見えないが、涼宮さんは変わらずそこにいた。

胸の奥が、少しだけ暖かくなる。

「だから、あなたが入院した2週間は…胸が張り裂けそうだった。寂しかった。苦しかった」

だからね、と涼宮さんが続ける。


「私にとって一番つらいのは、悠真さん、あなたがいなくなることなんだよ?私の前から…だから」

その言葉を聞いて、僕は胸にこみ上げて来るものを感じた。


僕は必要とされているんだって。


「いなくならないで…」


僕は気づかないうちに、涼宮さんの頭に手を置いていた。

そのままゆっくりと撫でる。

「あ…悠真さん…」涼宮さんの顔が少し赤くなる。

「ごめんなさい…涼宮さん」

僕は笑ってみせた。


「僕、ずっと…君といると、迷惑ばかりかけてるって思ってた。僕なんか相応しくない、僕なんか要らないって思ってた」

言葉を、さっきは紡げなかった言葉を、紡いでいく。

僕らの関係を、糸で結ぶように。


「でも、ようやく分かったんだ。君に、涼宮さんに僕は必要とされてるって。僕はいらないやつじゃなくて」


「でなければ、私はあなたを引き止めませんよ」涼宮さんがふんわりと笑う。

「ずっと傷つけてて、ごめんなさい」


僕は決意した。これからは堂々としていようと。

胸を張って生きれるように。涼宮さんを…守れるように。


僕らにこれ以上の言葉は必要なかった。

僕らはしばらく抱擁しあっていた。



この時間が、たまらなく愛おしかった。






 



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