#11 僕は平穏でいたかった
昼休みの終わりを告げるチャイムと同時に起きる僕。
そそくさと教室に戻る。
やっぱり、周囲の視線が痛い。
そして、もう一つ変わったことがある。
周りじゃない。僕自身が変わったこと。
「あの、悠真さ…」
「ごめん涼宮さん、今忙しいから。後でまた」
こんな風に、僕は涼宮さんを避けるようになってしまった。
いや、涼宮さんのせいでこうなったとか、そういうことじゃない。
…怖いんだ。
僕が…涼宮さんの近くにいることで、迷惑をかけることが。
また…あんな風になるのが怖いんだ。
だから、僕から積極的に近づくべきではないし、あっちから来ても拒絶している。
これでいいのか、と心がチクリと痛む。
でもいいんだ。
これで。きっと…
そんな風に一週間過ごしていった。
どんどん心が痛んでくる。痛みが加速していく。
「もう、ここにいるの…耐えられないよ…」
僕はその日の帰り、バスの中で颯太に本音をこぼした。
「…」颯太は何も言わない。
「正直、涼宮さんがいるのがつらい…話しかけてこられるのも…」
「そっか。やっぱりそうか」颯太が俺のほうを向く。
「僕は…どうすればいいのかわからないよ…」
「なぁ、悠真」
「なに…」
「お前一回、涼宮さんのこともっとしっかり考えてみたらどうだ?」
「…」
「涼宮さんさ、意中の人が、しかも付き合ってる人が急に自分の目の前からいなくなって、拒絶されてるって状況なんだよ?」
「…」
「お前の気持ちもわかる。これ以上迷惑かけられないっていうのは」
「…うん」
「でもさ?涼宮さんに本当に迷惑をかけるのは、お前がいないことじゃないのか?」
「…え」
「俺が言うのはここまで。あとは自分でじっくり考えてみて」
「…わかった」
表面上はそう言っておいた。
でも、やっぱり考えてしまう。
迷惑をかけるといっても、僕がいないことと、涼宮さんが僕といることで迷惑をかけることの大きさは違うんじゃないかなって。
「転校…しよっかな」僕はぼそっと言った後、颯太が近くにいることを忘れていたことに気づいて慌てて口を閉じた。
幸い、颯太はバスの中で寝ていたので、聞かれてはいなそうだ。
「僕はただ…平穏で居たかったのに」
月曜日。
僕は担任の先生に、転校することを相談していた。
先生がなぜ転校するのか聞いてきた。
…でも、理由があほらしくて、答えることはできなかった。
結果、僕の転校はいったん保留となった。
用事があると僕が言っておいたので、颯太は先に帰っている。
僕は荷物をまとめて足早に教室を立ち去る。
すると後ろから、誰かに抱き着かれた。
「いなく…ならないで」すすり泣く声が同時に聞こえる。
涼宮さんが、そこにいた。
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