#9 颯太の怒り、涼宮の悲しみ、起きない悠真

俺は青海颯太。今日は母の都合で実家に来ているが…

俺は今、タクシーで急いで俺らの学校の最寄りバス停「白金」に向かっていた。

きっかけは1本の電話。

プルルルル

「もしもし?ああ、涼宮さ…」

「大変なんです!悠真さんが…!」

「わかった!今いくよ!」

「母さん!悪いけど俺ちょっと帰る!」

「どうしたの?何か急用でもできた?」

「実は…」

「悠真くんのこと?」

「…うん」

「それなら行ってきなさい。友達が何か大変なのでしょう?」

「そう言ってた。クラスのほかの友人が」

「タクシー代は出すから、早く行きなさい」

「…うん!ありがとう母さん!」

そして俺は母からもらったタクシー代を手に、家を飛び出した。

実家とはいえ、そこまで学校から離れているわけではない。

タクシーに乗って揺られること30分。

「ここで降ります」

俺は取り敢えずもらってきた10000円を手渡し、速攻で降りた。

「あの!?1000円多いですよ!?」

と声をかけられたが、「そんなことより、今は友達のほうが大事なんです!」

と言ってお釣りをもらうのは断っておいた。

お釣りをもらう時間ほど無駄な時間はない。

俺は学校までダッシュした。

「おい!悠真はどこだよ!」教室に駆け込む。

「青海!?今日休みじゃなかったのか!?」先生が驚いている。

「悠真がやばいことになってるって聞いて来たんです!」

俺は息を切らしながら言う。

「新堂なら屋上へ行ったはずだが...」

「先生ありがとうございます!」

俺は階段を駆け上がる。

そして屋上のドアを開け放った。

「悠真!いるのか…ッ!」

「青海さん!」

涼宮さんは目に涙を浮かべている。

「悠真…お前…!」

「さっきから目を覚まさないの…!」

「おかしい。いつもなら30分で目覚めるはずなのに…」

「そうなの?」周りの観客?かなんかも不思議そうにしていたり、悠真を心配している。

「周りに…人がぶっ倒れてる?」

「クッソ、そういうことかよ!」

「おい、そこのお前!」

胸ぐらをつかむ。

「んっ…えっ!?青海…!」

「悠真の視力を使わせたのは…お前か!?」

「あっ…いや…その…」

「答えろ」

「えっと…」

「答えろよ!!!!」

「はいいいっ!」

「返事はいらねえ!」

「ええ!?」

「早く答えろっつってんだよ!!!!」

今までで最大の怒りが俺を貫く。

「実は…タイマンして俺が勝ったら涼宮さんと付き合うっていう喧嘩を吹っ掛けたんですよ…!」

「てめぇ…!!」

「それじゃあ、このまわりにいる奴らは何なんだよ」

「仲間です」

つくづく呆れた。

「てめえはとりあえず先生に報告な…あと」

涼宮さんのほうに顔を向ける。

「涼宮さんには好きな人いるから、お前はまず無理だ」

「ええ!?」周りの人が驚く。

「あはは…青海さんにはばれますよね…」

「そんなんはどうでもいい。悠真は何分くらい眼鏡をはずした?」

「多分、10分くらい…」

俺は顔面蒼白になった。

急いで病院行かせないと。

「涼宮さん、あとそこの悠真に喧嘩売ったクズ、傍観者野郎ども、何人か来い」

「は、はい」涼宮が返事する。

「クズはひどくないか...」喧嘩売った野郎も立った。

そして傍観者の女子二人が立ち上がった。

「誰か救急車呼べ」

「はーい!」陽キャの女子が返事した。

「そんで、クズ、おまえは先生に状況を伝えてこい。それ以外の奴らは今度一人ひとり尋問な」

「は、はいぃ!」

「じゃあ帰れ」

「救急車は呼べたか?」

「うん、もうすぐ来るって!」

そしてしばらくして、救急車が学校につき、隊員が屋上に来た。

俺と涼宮さんは救急車の中で付き添いだ。

胸の張り裂ける思いで、俺は悠真を見守っていた。

一筋の涙が頬を伝った。





涼宮です。友人であり私の好きな人は、約1時間経っても起きないままでした。

「全然…起きる気配ないですね」

「最低4日は起きないよ…」青海さんは震える声で言った。

きっと不安なのでしょう。

その後、医師に診てもらうと、「最低1週間は起きないでしょう」と言われた。

青海さんに「任せてもいいか?」と言われたので、

私は「大丈夫」と返事をしておいた。

青海さんは実家に戻った。

「もう…なんでなんですか...」

私はずっと我慢していたが、つい声を上げて泣いてしまった。

「なんで…そこまでして…私を守るんですか...」

「私…あなたを一回裏切ったのに…」

悠真さんの手を握る。

「本当に…お人よしすぎます…っ!」

もう、しばらく涙を止めることはできなかった。

私の涙は、悠真さんの寝ているベッドの掛け布団を濡らした。

「大好きですよ…悠真さん…」

握っていた悠真さんの手を、さらに強く握った。

「だから…早く戻ってきてください…」

悠真さんは目を閉じたままだった。

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