進展

#7 潰れかけた休日と、隣の席の人

目が覚める。

「おっ、起きた」颯太の声がした。

「んー…」まだ意識はもうろうとしている。

「お前が位置情報をONにしててよかったわ」

「位置情報でここにいるってわかったんだし」

心配してくれている表情だ。

「ありがと…」

「話変わるけど、悠真…眼鏡外したろ」

「あっ、えっ、いや…あの…」

「お人よしにもほどがあるだろ。大体」

「助けたの、どうせ隣の席の奴なんだろ?」

僕はかなり驚いた。

「どうしてわかるんだ?」

「左見てみ?」

「えっ」

恐る恐る、左側を見る…

「あっ、こんにちは。悠真さん」

「……………!!!!」

「いやなんでここがわかった!?」

「走っていった方向に行ったら、ここにいたので」

そうか。僕はこいつに会ったら、逃げ場がなくなるらしい。

「よりにもよって、一番会いたくない人助けるとか…何してんだ僕」

「それ、ちょっとひどくないですか?」

「僕にきのうしたことのほうがひどいと思う」

「ま、まぁそれは確かに」

「納得するんかい」

「だって、私本当にひどいことしたなって、家で泣いてたんですよ!?」

「それに、悠真さんに嫌われたーって」

「嫌われたに関しては当たってる」

「それ、面と向かって言われると傷つきます」

「いや、僕のほうが傷心中なんですが」

「それは…ごめん」

なんか、謝られると逆に申し訳ないのだが。

「…まあ、過ぎたことだからな」

「じゃ、僕帰るね」

「えっ?悠真さん?」

「悠真?」

「いや…さ、予定がつぶれたから、やることないかなって」

スマホを取り出し、時間を確認する。現在14:24。

さっきは12:56だったから、僕は1時間以上眠ってたらしい。

「それに、涼宮さんも何か目的があって駅近くに来たんでしょ?」

「はい、まぁ」

「こんなみじめな陰キャを心配するくらいなら、早く目的の場所に行ったほうがいい」

「えっと…」

「お前、自分で言ってて悲しくないのか?」

「まあ、本当のことだからさ」僕は苦笑いした。

「あの、2人について行っていいですか?」

「はい?え?」

「いいけど?」

「颯太!正気か!?」

「人数増えたら楽しいじゃん?」

「……………ま、僕帰るから二人で楽しんできな」

「だめだ」

「何で?」

「お前らの関係を修復しないとなんだよ」

「お断りだ」

僕は強い口調で言った。

「拒否権はねえぞ」

「おっと、僕の基本的人権は失われてるみたいだ」

「さ、行くぞ」

「私も悠真さんと行きたいですし、一緒に行きましょう」

「あーもう、わーった。行けばいいんだろ行けば」

「よし、決まり!さっそく悠真の言ってたカフェに行くぞ」

「ふふ、楽しみです」

涼宮さんはにっこりしている。

「…」

僕はどうしていいのかわからなかった。

関係修復をしてもらえるのは、少しありがたい。

でも、また裏切られるのは、怖い…。

なぜか、胸をぎゅっと締め付けられる。

「あの…悠真さん」

「な、なんでしょう」

「手…繋いでもいいですか?」

「はい!?」

「悠真、繋いでやれ」

「いや、でもさ…僕ら付き合ってるわけでもないし…」

「まだ諦めてないって、言いましたよ?」

はぁ。この人にはかなわないな。

「わかったよ…ほら」手を差し出す。

「わぁ…」急に涼宮さんが幼く見えてくる。

「そんな感動することか?」

「感動ですよ!あの周りの人を寄せ付けない悠真さんが、手を差し出してくれるなんて」

「喧嘩売ってるのかな?」

「とりあえず、ありがたくつながせていただきます」

涼宮さんの手の感触が伝わってくる。すごく暖かい。

あと、ちょっと恥ずかしい。

「悠真さん…」

「なんでしょうか」

「私…本当に悠真さんが好きです」

「信じられるわけないって…」

「わかってます。だから」

「?」

「本気で証明するので、見ててくださいね」

「…」

こいつの目…本気だ。

そして、しばらくそのまま歩いた。

「2人共、顔真っ赤だぞ?」

「うるさい!」

「しょ、しょうがないじゃないですか!」

「はいはい。ついたから入るぞ」

そしてそこでは…

「素敵なカップルですね!」と店員に言われる。

余計顔赤くなっちまうだろ…

ま、お陰でカップル割引でコーヒーとかを頼めたからいいっちゃいいのだけど。

そして、ゲーセンでは…

「プリントショット?」

「2人で映る写真ですね」

「これ陽キャの専売特許だろ…」

「そうでしょうか?」

「颯太、一緒に撮影してやりな」

「なぜ俺?」

「だって颯太陽キャじゃん?」

「私、悠真さんと一緒に撮りたいです」

「はい?」

てなわけで、撮影中…

近くて集中できねえ…

機械から指示が鳴る。

「ハグしろ、だそうです」

「できるわけないだろ…」

撮影中、ずっと恥ずかしかった。まじで、拷問だ…

「写真…ずっと大事にしますね」

「勝手にしろ…」

ああもう、すごくドキドキしてた。

認めたくないけど。

「家まで送ってくれてありがとうございます」

「同じ方向って言ってたけど、本当に同じ方向だったとは」

「じゃあ、涼宮さん。また学校で」

「…はい!青海さん。悠真さんも、また」

「どうだった?デートは」

「認めたくないけど、まあまあ楽しかった…ん」

「どうした?」

「は?デート?は!?」

「今気づいたのか?悠真、遅いぞ」

「うわああああああ…そんなことしてたのか!?僕ら」

その後、颯太にいじり倒されたのは言うまでもない。

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