#6 まだ迫る隣の席の人と、逃げる僕

僕は寝ていた空き教室で目を覚ました。

「…んっ」隣に誰かいる?

「は?」涼宮さんが隣にいる。

かなり近い。

「おはようございます」

「はぁ!?」僕の目を覚ますのにはそれで十分だった。

「なんでお前がここにいるんだよ」

「だって、悔しいので」

「何が」

「あなたが私を振ったことですよ!」

「噓の告白を僕がOKすると思ったか?」

「本当は、振ることをやめてそのまま付き合っちゃおうと思って利用しただけなんですけど」

あー、焦ってんな。

「そんなんを信じれるわけねーだろ」

「ですよね…」

窓の外を見る。

日はまだ沈み切っていないから、5時近くくらいだと思われる。

「ちっ…とにかくもう僕とは関わるんじゃねえ」

「なぜですか?」

「お前に裏切られたからだよ」

「それに関しては申し訳ないと思ってるし、深く反省していますが…」

「もういい。僕は帰る」

「あっ、私も一緒にーーー」

「一人で行くからいい。それに方向逆だろ」

「いいえ?方向は同じですよ」

「とりあえず先に帰る。気をつけて帰れよ」

「うう…」

「頬を膨らませてもだめだ。じゃあな」

僕はあれこれ追及される前に、空き教室から出て行った。

自分の教室へと戻る。

「悠真」

「颯太…待っててくれたのか」

クラスに戻ると、颯太がいた。

「何かあったか?」

「…あの体験は久し振りだよ」

颯太は察してくれたようだ。

「…話、聞くぞ」

「久しぶりに裏切られたよ」

「涼宮さんか?」

「…ああ」

「何があったんだ?」

「噓告白」

「ああ、朝のやつね」

「うん…」

「でも驚いたな。お前があいつごときに裏切られた程度で傷つくなんて」

「うん…わかんないよ…」

「お前、とっくにあいつのこと、意識してんじゃない?」

「ーッ」

「図星か」颯太はにやけ顔だ。

「ああ、そうですよ!あいつのこと、好きになってるかもしれないんですよ!」

「顔、真っ赤」

「うるせぇ!」

「てかどんな風に振ったんだよ」

聞かれたからには答えるしかないので、事細かに説明した。

すると…

「おい悠真…俺言ったよな?何年か前にきつい振り方はするなって」

「あ、え?僕が怒られなきゃなんないのこれ?」

「お前約束破りやがったな?」

「え、あ、その…」

「とりあえず今日はお前んち行くぞ」

「お、おう」

てなわけで、今日は颯太が家に来た。

そして30分にもわたる説教の上、一発ビンタされたのは言うまでもない。

「で?どうするよ。明日休日だけど」颯太のムードがようやくいつものに戻った。

「そっか。じゃあどっか行く?」頬をさする。まだ痛みは引いていない。

「どこ行きたい?」

「そうだな…」スマホを取り出す。

「ここ、どう?」

「ああ、駅前のカフェ?いいじゃん」

「ここでお茶しつつ、別の所に行くって感じ」

「どこ行きたい?」

「颯太の好きなところでいいよ」

「あー…特に行きたいとこはないかな」

「そっか。じゃあ…」

「こことかどう?」

「最近できたゲーセンな。いいぜ」

「じゃあ、僕13時くらいにさっきのカフェにいるね」

「りょーかい。じゃあ、俺はそこに行くな」

「じゃあ、俺帰るから。また明日ね」

「バイバイ!」

というわけで、颯太が帰る直前、出かける約束をした。

「明日は久しぶりにいい休みになりそうだな」

僕はそう思った。




そう思った昨日の自分をぶんなぐってやりたい!!!!

えーてなわけで、本日はカフェに来ている…はずだったのですが。

大きな川の上にかかる、橋の上にて。

「そこの君!可愛いね!一緒にお茶しない?」

そんな声が聞こえてきた。

声のしたほうを見てみると…

はい。典型的なDQN登場とばかりに、女子にまとわりつく2人の男の姿あり。

わー。巻き込まれてる人かわいそー。

「嫌です!放してください!」

「いいじゃん!楽しいことたくさん教えてあげるからさ!」

「誰か!!!!」

「...ちっ」

声でわかる。こいつは涼宮だ。

助けるしかねーか。

「はいはい、そこの2人。その子、嫌がってるから」

「あん?どうしたガキ」

「悠真さん…」

「その子の手、離してあげなよ」

「お前にそんなことを言われる筋合いはない!」

「えーと…もうめんどくさいな」

僕は周りを見回す。

よし、僕ら以外誰もいない。

僕はメガネを取った。

「んじゃ、力づくで離してもらいますよ」

「調子こいてんじゃねえ、このガキ!」

「二対一で勝てると思ってるんか!?」

両側からこぶしが迫る。

でも僕は自慢の視力で、両方のこぶしの進行方向を見抜いていた。

右側の男に、一瞬だけスキができた。

胴体がら空き。

「やっぱ、視力がいいとこういう時に役立つよね」

僕は2人のこぶしを同時によけつつ、右の男に思いっきりつまさきで蹴りを入れた。

「あぐっ!?」男はその場にぶっ倒れた。

「えっ!?こいつなんなんだ!?」

「スキだらけですよ」

僕はかがみ、こちらもがら空きの胴体に強烈なパンチを入れた。

「さーて…とどめ刺しますけど、覚悟はいいですか」

「すみません!許してください!」

「もうしません!!」

あっ、逃げやがった。

「……………ありがとうございます」か細い声。

「怪我、してねえか?」

「はい…おかげさまで」

顔、赤いな。熱でもあるのか?

「そっ……………か」

めまいがする。

やっば…また意識が薄れて…

「じゃあ、僕はこれで…」

「あっ、待って!」

僕は意識が途切れる前に走り出し、近くのビルとビルの隙間に入った。

そして急いで、颯太にメッセージを送った。

「意識飛ぶかも」と。

少しして、僕は眠りについた。

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