#5 フラッシュバック

まあ、そうこうしてるうちに2週間経過。

僕は涼宮さんと話すのが普通になった。

多分、颯太と話す時間と同じくらい、もしくはそれ以上話すようになったレベルで、一緒にいることが多くなった。

クラスの人に「お前と涼宮さんはどういう関係なんだよ」

って聞かれることも増えたんだけど…うう。

そういうときは颯太が「ただの友人だよ。悠真の数少ない友人」

ってあしらってくれる。

ほかに変わったこと?

「おはようございます、悠真さん、青海さん」

「おはよう、涼宮さん…あれ」

「どうも、涼宮さん」

「ん?あれ?下の名前呼び?」

「はい。そこそこ親しくなったので良いかなって」

「うーん、それはなんというか…」

照れくさい。そう口にすることはできなかった。

あと、何で颯太は上の名前呼びなんだ?

「僕だけ下の名前…」

「ま、認められたってことじゃない?」

「んー…何で颯太は呼ばれないんだろ」

「ええ?言わないとわかりませんか?」

「何を…」

「悠真、察しが悪いな」

「ううー…」

「ま、言いたくなきゃ言わなきゃいいと思う」

本当はわかっている。

涼宮さんが僕に好意を寄せているということ。

でもそれは偽りだということを。

今日、教室に入ったときに耳にした。

「この噓告白をやるのは、涼宮さんだよ!」

「え?」

「相手は、あの陰キャ君ね」

「あ…えーと…」

「告白して、3日付き合う。それでそのあと盛大に振るの」

「え…あの…?」

「じゃ、頼んだよー」

「あ、ちょっ!」

こんな会話だ。

そんなおかげで、今日はいつもより憂鬱だった。

「悠真」

「…」

「おい、悠真?」

「…あっ、颯太」

「お前、今日なんか様子おかしくね?」

「別に」

「そんなわけねーだろ」

「雰囲気が違うんだよ」

「そんなの…わかるのか」

「まぁ、なんかあったんなら言えよ?」

「うん。ありがとな」

俺は無理やり笑顔を作って見せた。

颯太が席に戻ると、俺はまた暗い気持ちになった。

「悠真さん、青海さん、お昼行きましょう」

「悠真、行く?」

「…今日は遠慮しておく」

「あっ、そうですか?」

「うん、2人ともいってらっしゃい」

「お、おう…」

はぁ。ため息が漏れる。

どうせ、放課後に呼び出されんだろうな。

それで僕はどうすればいいんだろう?

本心を隠して付き合うって方法もある。

きっと僕がすることは、僕と涼宮さんの仲を引き裂くことになるだろうから。

でも、いいんだと自分に言い聞かせる。

これでいいんだ。また裏切られて傷つくよりよっぽどいい。

だけど、心の奥では、なんかもやもやとしたものを抱えていた。

放課後。ちなみに今日は、久しぶりに涼宮さんを避けて過ごしていた。

ちょっと寂しさがあったんだよね。何故か。

「告白回避して帰るか」

「悠真さん、あの…ちょっと時間いいですか?」

はい、来た。

既視感しかない。

「悪い、僕急いでるから…」

腕をつかまれる。

「…お願いします。ちょっとだけでいいので、屋上に」

懇願するように、必死に僕のほうを見てくる。

「…わかりました。要件は手短に」

「はい」

そして、屋上にて。

居心地が悪いな。これから何が起こるか知っていると。

「あの、要件は?」

「その…」

涼宮さんは深く息を吸った。

「私と…付き合って」

だと思った。

「えーっと…どこに?」

「?」

「どこに付き合えばいいの?」

「そうじゃなくて!!」

顔が赤くなっている。

「はぁ…何を言いたいかは分かった。というか、最初からわかってた」

「意地悪」

「えーと…それに対する答えだが…」

僕はすごく迷っていた。

確かにこれは罰ゲームだから、振ったほうがいいかもしれない。

でも僕は…。いつも話しかけてくれて、とても居心地がいいこの人のことが…好きになってる。

僕は恋愛経験者じゃないから、本当にそうかと聞かれると悩むが。

眼鏡を上に少しずらす。

そして相手の目を見る。

「お前は…本当に僕と付き合いたいのか?」

「はい、もちろんです」

涼宮さんは話している途中に右上をちらりと見ていた。

多分、僕は眼鏡をはずしてないと気付かなかっただろう。

ほんの一瞬だけ、目線を俺から外していたのだ。

そして今は、僕を凝視している。

はあ。やっぱりこいつは、ただ陰キャを馬鹿にしてくるだけの奴だったんだ。

「…どうしますか?」

「この…噓つき野郎が」

「えっ…」

「この裏切り者が!!」

一言発するたびに、怒りが膨れ上がっていく。

「う…裏切り者?私が…」

「とぼけてんじゃねぇよ!これが罰ゲームだってことは最初から知ってんだよ!!」

「き…気づいてたんですか…?」

「ったく…どいつもこいつも屑だらけじゃねえか」

考えてみればそうだった。颯太以外の奴らなんかみんな屑だったんじゃないか。

あいつらを信じた僕が馬鹿だった。

僕が…馬鹿だったよ…

「僕が…馬鹿だった…な…」

「なぜ…泣いているの…?」

「信用してた人に裏切られる気持ちは…裏切る側のお前なんかにはわからねえだろうな」

「知ってるか?僕が人間不信になった理由」

「…あっ」

「罰ゲーム告白の連続だよ」

「それで毎回ぬか喜びさせられて…中学も含めたらこれで8回目なんだよ…それで何度傷ついたと思ってる」

「でも、私は本当に悠真さんと…」

「黙れよ」

「でも…」

「黙れっつってんだろ!」

怒りがわいてくる。そして悲しみも。

涙がこぼれる。

「お前が噓をついてることは目を見ればわかるんだよ」

「噓なんかついて…」

「もういい」

「僕とはもう関わらないでくれ」

「そんな…」

「じゃあな」

屋上から僕は抜け出した。

「やば…意識…飛びそう…」

僕の視力の玉にきずなところは、見えすぎるせいで体がついていけないということ。

なので、意識が吹っ飛んでしまうことが時々。

僕はさっきまでずらしていた眼鏡をかけなおした。

そして、誰も来ない空き教室を探して入った。

意識が飛ぶ前に寝て回復させねえと。

「やっぱり、友情も愛も、あてにならないや」

僕はそう呟いて、目を閉じた。

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