#2 隣には苦手な奴、周りには嫉妬する奴

「貴方は新堂さんですね。よろしくお願いします」

「…お、お願いします」うわ、話しかけられたし。

舌打ちしたいのをこらえ、まともな挨拶を返す。

僕は表面上では静かにしていたが、内心は…

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!」

この通り、めっちゃ騒いでいる。

「なんでこいつが僕の隣になるかなぁ!?ねぇ!?苦手な人って隣に来るもんじゃねえだろうがああああああああ!!!」

僕の情緒、感情がまるで富士山の大噴火並みに爆発してる。

ああ。終わった。

「ぅぅぅぅぅぅぅ…」

「新堂さん?保健室行きますか?」

「行…行きま…せん…」

「大丈夫ですか?」

「こっ…これのどこが…」

「どうされたんですか?」

「あ…いや…えーっと…」

いや、質問の順番どうなってんねん。

普通どうされたんですか→大丈夫ですか→保健室行きますか、の順番だろ。アホ。

まぁ、そんなツッコミは置いといて。

「よ…よく僕に話しかけようなんて思えたな」

僕はばれない程度に涼宮さんを睨みつけた。

「え?クラスメイトだから普通なのでは?」涼宮さんは首をかしげている。

ふーん。なるほど。

つまりこいつは、僕をポイント稼ぎにしたいわけか。

「陰キャにも優しいアピールか…」僕はボソッと口にした。

「すみません。今、なんとおっしゃいました?」

「別に」僕は目をそらした。

周りを見渡す。

嫉妬のまなざしが飛んでくる。

「おい、何であんな陰キャの隣が涼宮さんなんだよ」

僕が知るわけねーだろ。先生の采配なんだから。

「なんであんな奴が涼宮さんとしゃべってんだ」

僕被害者だわ。俺のほうがしゃべりかけられてんの。

「あの陰キャ…許すまじ」

うん、言いたいことがあれば先生に言ってくれ。

「あいつ、癪に障るな」

勝手に言ってろボケ。

あと、何で僕の方向見てくるかな?んー…

「ううっ…視線…痛い…」

颯太の方向を見る。

颯太の顔はいつになく心配そうだ。

「はい、ホームルーム始めます」

先生ナイスタイミング。ありがてえ。

って思ったけど…

ホームルーム中も授業中も、僕への嫉妬が向けられまくる。

「この席の意味ないじゃん…」ため息が漏れる。

「なんで意味ないの?」隣人さんが聞いてくる。

「…なんでもない」とは言ったものの…

とりあえずひとつ言わせてくれ。

お前のせいだよ。気づけ。

ということで苦手な人が隣になってしまった俺は、徐々に1日のルーティンが構成されるようになっていた。

朝起きて朝食を準備し食べる。学校に行く準備をする。ここまでは同じ。

その後だ。いつも俺は高校にホームルーム開始40分前から来てるが、10分前に来るように時間をずらした。

ホームルームや授業が終わったらすぐ次の授業の準備をし、涼宮さんに話しかけられる前に教室を抜け出す。

高校での食事は食堂で食べていたものの、結果として屋上へ行くことになった。めんどくさいが、隣の人と会わないためである。

さすがに気づかれるような気もしたが、意外と気づかれないのでこれはうまくいっている。

精神面ではかなり削られるんだけれども。

そうこうしてるうちに1週間が経過した。

屋上にて。

「最近どうなの?お前のメンタル面は」颯太が心配してくれている。

「だいぶやべぇ」

さすがに俺のメンタルも限界である。

「いや、だって苦行だろ苦行!」

「それをやってるのは他でもない悠真だよ…」

「だって毎回毎回教室からすぐ抜け出してさ!体力面でもやべーよ」

「聞いてないなこいつ」颯太が呆れる。

「悠真、マジで体調面は気をつけろよ。それと」

颯太が俺の腕をつかむ。

「眼鏡をはずすのはもっとだめだ」

「何で?」

「だって悠真はーーー」

「あの…新堂さん…」

「どうした?涼宮さん」颯太、ナイス。

「悠真君って…私のこと避けてません?」

「えっ」見破られてた…

「あはは…」颯太はここから抜け出せって目で合図してきた。

「やっぱり図星…」‘‘訳が分からない,,って表情だ。

「もしかして、青海さんも知ってた感じですか?」

颯太のほうに注意が向いた。

立ち上がって地面を蹴り、屋上のドアへと走る。

「あっ!ちょっと待ってくだーーー」

と声が聞こえたが、かまわずに俺は屋上から抜け出した。

そして階段を駆け下りる。

やっぱりあいつと話すのは無理だ。

涼宮結衣。

次の席替えまで約4週間。

俺はそれまで持つだろうか?

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