第13話 ママ達からのプレゼント①

Xmasイブ、いつものようにみんなで登校する。

母親達は揃って、明日の朝まで帰ってこない事が確定しており、今日の晩御飯はみんなで、ファミレスで食べようかと相談していた。


Z組の戸を引くと、突然Xmasソングが鳴り出し、飾り付けられた電飾が色鮮やかに明滅し始める。

室内は豪華絢爛な飾り付けがされ、天井ギリギリ迄の大きなツリーが中央に配置されている。

真っ白なテーブルクロスが敷かれた大きなテーブルと人数分の椅子、その後ろには大きなキャリーケースが置かれていた。


テーブルの上には、透明の保温ケースに入れられた、三段のケーキスタンドやフードウォーマーが2台、コールドディスペンサーが1台、大量の取り皿にグラス、大きなボトルクーラーにはノンアルコールのシャンパンとジュースが詰められている。

そして、子供たちの名前が綴られたメッセージカードが置かれていた。


「萌葱ちゃん、メリークリスマス!

ママからのプレゼントです。

お料理とケーキは全部、私達の手作りです。

喜んでもらえると嬉しいな。

大人になったら一緒に、パーティーを出来る日が来ることを楽しみに待っています。 

扶桑より愛する萌葱ちゃんへ♡」


それぞれカードを読み、目をうるうるさせるとバックパックからノートを取り出し、今までのお世話になったお礼や近況、詩、絵などをページが全て埋まる勢いで、とにかく書き出した。


「きっと喜んでくれる!」そう思いながら、ママへの最高のプレゼントを用意した。


プレゼントノートを書き終えた頃に正午を告げる鐘が鳴る。

夢中で書いているうちに4時間が経過していた。


「さあ、パーティーを始めよー!」

先ずは2口のフードウォーマーの蓋を開ける。

真っ白なご飯がもくもくと湯気を立て、匂いが腹の音を鳴らす。

もう片方を開けると、具材がたっぷりのビーフシチューが、目と嗅覚を強烈に刺激した。


「すっげー!」

茜が自分の大好物を前に興奮して、すぐに取り皿に手を伸ばす。


「待った茜!こっちも確認しよう!」

「そうだな、全部確認して腹と相談しないとだな!」

2つ目のフードウォーマーは6口ある。

中には、比内地鶏のローストチキン、チーズたっぷりのフライドポテト、ホワイトソースと鱈と金目鯛のグラタン、ベーコンの塊と浜松産白玉ねぎのナポリタンスパゲティ、温野菜。


最後のコールドディスペンサーには、松阪牛のローストビーフ、カットフルーツ、イベリコ豚と夕張メロンの生ハムメロン、黒マグロとホタテ貝柱のカルパッチョが入っていた。


「まずは全ての料理を味見しましょう。

それから、感想をプレゼントノートに書き残そう!」

萌葱の提案に皆が頷くと皿に料理を取り始めた。


シャンパンを勢いよく振った桔梗がコルクを飛ばすと、中身が噴き出しアワアワと慌てる。

モップを持って待ち構えていた5人は、笑いながらさっさと掃除を済ませた。


「すげえよ、このビーフシチュー!でっかい肉の塊が口の中でホロホロと解けるよ!給食と全然違うのな!美味すぎる!」

ビーフシチューの美味しさにプルプルと震える茜。


「まずはお野菜から頂かないとね。

あら、これホントにキャベツとブロッコリーなの?

歯ざわりと風味がまるで違う。」

野菜そのものが、今まで食べてきたものと違うことに驚愕する夜花子。


「鳥美味しいよー!皮がパリパリしてるし、肉に臭みが無いし、気持ちいい歯ごたえ、タレも絶品!」

手と口元が汚れるのもお構いなしに、ローストチキンに齧り付く蒼。


「この魚のカルパッチョ、大間の本まぐろね!

ホタテも同じく青森産ね!すばらしい組み合わせだわ!」

舌の肥えた珊瑚が産地を予想して、うーんと身もだえる。


「これハムじゃないんだ!なんか、これ食べると力がもりもりする感じ!これ好き!」

ローストビーフを口いっぱいに頬張り、モグモグと口を動かす桔梗。


「生ハムとメロンって別々に食べたらダメなの?

エッ?一緒に食べろ、分かったわよ珊瑚。

うん?あれ?なにこれ美味しい!こういうもありなんだ!」

初めて食べた塩気の強い生ハムと甘いメロンの味の調和に舌鼓を打つ萌葱。


食べきれない程の量が用意されているかに見えたが、食べ盛りの少女達の胃袋に際限は無かった。

濃い味⇒薄い味⇒スイーツのループが始まると、フードウォーマー、コールドディスペンサー、ケーキスタンドから料理がケーキが次々と消えていく。


「どれも美味いよ!止まらないよ!」

「茜!スイーツはひとり3個よ!」

まさに頬張られようとしたザッハトルテを、電光石火のスピードで取り上げ口に放り込む萌葱。

狙ってたのにと騒ぐ蒼。

既に自分の分のスイーツを確保して、黙々と料理を楽しむ夜花子。

桔梗とお互いにアーンしながら食べさせあう珊瑚。

幸せな時間はあっという間に過ぎていった。




午前2時、黒のボディスーツと赤外線スコープ、ヘッドセットを装備した部隊がZ組に音も立てずに忍び込む。


「よく寝てる。これなら朝迄ぐっすりね。」

「これよりプロジェクトBは発動します。1班、撤収作業開始。2班、プレゼント搬出。」

「さあ、運ぶわよ。」

六人はそれぞれ子供たちをそっと抱き上げると、屋上まで駆け上がり、待機しているヘリコプターの座席に安全帯で固定した。


「朝起きてびっくりする顔が楽しみ。」

別れ際に頬にキスして、準備OKのサインを送ると、ヘリコプターが静かに上昇していく。

夜間照明灯が見えなくなる迄見送り、Z組に戻ると撤収作業は完了しており、隊員の一人がノートの束を持って近づいてきた。


「日向、子供たちからのプレゼントだ。」

男からノートを受け取ると、それぞれの名前の書かれたノートを配る。

パラッとめくると、どのページも文字や絵で埋め尽くされていた。


「読むのは後にしろ。すぐに撤収だ。」

日向達は胸のファスナーを降ろすとノートを腹にしまい込んだ。

そして、腹を撫でると作戦車に向かって走った。




「んんっ?んー?えええっ!」

夜花子の珍しい大声で皆が目覚めた。


「みんな!外見て!飛んでる!」

窓の外の山並みを見て、興奮する萌葱と夜花子に倣って、反対側の窓際の桔梗と珊瑚が窓を覗いてきゃあきゃあと騒ぎ始める。

  

「ちょっ?なんだこれ?」

立ち上がろうとする茜が、拘束する安全帯をガチャガチャしはじめると、機内放送が流れた。


「お嬢さん方、おはよう!先ずは落ち着いて話を聞いてほしい。

ああ、安全帯は外さないでねリトルレディ。

当機は北海道大雪山へ向け飛行中です。

そこでママからの素敵なプレゼントを受け取ってください。

あと、30分ほどで到着するから、くれぐれも動き回らないように。」

「聞いた茜?それ外しちゃだめよ。」

「えー!蒼は外見たくないのか?!」

「帰りは窓際に座ればいいじゃない。飽きるほど見れるわよ。」

「よし!帰りはあたしと蒼は窓際な!みんな聞いてる!」

「はいよー!」

それでも諦めきれずに必死で首を伸ばす茜だった。


ヘリコプターが着陸して、ドアが開け放たれると身を切り裂くような寒気に襲われる。

吐く息が白く凍り付き、吸い込む空気で鼻と喉が凍り付きそうだ。


外を見ると目の前に大きな山荘がそびえ立ち、屋根が雪で覆われている。

入口が開かれると、中で長身の男が「こちらへ来い」とばかり、手招きしているのが見える。

ジャージに上履き姿の少女たちが一斉に雪の中に飛び込む。

下半身がずっぽりと雪に埋まり、動けなくなったと思いきや、ぴょんと跳ねてダイブすると雪の中で転がり始めた。


「すごーい!雪がパサパサしてるー!」

「これがパウダースノーなのね!」

珊瑚と夜花子が雪の掛け合いっこを始めた。


「あたちもー!」

「うりゃー!」

桔梗と茜が両手を振り回して雪を掻き揚げると陽光を反射して、キラキラと舞い散る。


「綺麗!」

「それそれ!」

雪の乱舞に見惚れている蒼の頭上に更に雪を掻き揚げる萌葱。

少女たちの笑い声にエゾリスが反応して姿を現した。


「うおっ!リス発見!」

「かわいい!」

茜と桔梗が同時に跳躍するとリスの寸前迄ダイブする。

大きく粉雪が舞い散り、リスが一目散に逃げていくのが見えた。


「ほう、雪の中からあれだけの距離を跳躍するか。」

山荘の中から少女たちを観察していた男が、興味深げに呟いた。


「さて、風邪をひいたりしたら、ご主人方に叱られてしまうな。」

男は大きく息を吸い込むと、ハウリングに似せた声を上げた。


「うおぉぉぉぉん!」

驚いた少女たちが一斉に男に向くと、家に入るように声を上げる。

自分たちがびしょびしょな事に気づくと、急激に寒さを感じ始めた。

上履きをがぽんがぽんと音をさせ、玄関に飛び込んだ。


「お風呂に入りなさい。風邪を引いてしまう。

自己紹介は後でゆっくりしよう。」

男は風呂に少女たちを案内して奥に去っていった。


皆はずぶ濡れの衣類を脱ぎ捨て浴室に入ると、目の前に大雪山の雄大な景色が広がる。

ガラス張りの窓からの景色にしばし言葉を失う。

そして、広々とした浴槽に気付き皆が飛び込んだ。


浴槽から大量のお湯が溢れ出る。

誰もが肌に沁みる湯の快感に吐息を漏らす。


「これ温泉かしら、少し硫黄の匂いがするね。」

「あのライオンの口からジャボジャボ出てるし、そうじゃね。」

夜花子の問いかけに茜が適当に答えるが、まんざら嘘でもなさそうだ。


「ママ達、只者では無いと思ってたけど、セレブなのね。」

「自家用ヘリ、でっかい山荘、お風呂は温泉、間違いないね。」

萌葱の予想に確信を得た珊瑚は言い切ると、浴槽の縁にアゴを乗せ、お尻をぷかりと浮かせる。


「珊瑚、足開いて。」

蒼の要望に何も考えずに足を開く珊瑚。


「ふーん、ぽっかり開くもんだと思ってたけど、案外閉じてるのね。」

お湯の気持ち良さに思考停止している珊瑚は特に何も感じなかった。


「ほんとだ。珊瑚、何人、いいえ何回したの?」

「何を?」

「アナルSEX。」

「ええ、数えてないよ。多分100回位かな。」

皆の視線が珊瑚のアナルに集まる。

ハッと気づき、お尻を湯舟に沈める。


「あんたらねー!言っとくけど、あんたらもいずれSEXするんだからね!そしたら、あたしも観察させて貰うからね!」

「珊瑚ちゃん!ならあたちの見て!」

桔梗が足を浴槽の縁に乗せると大股開きになり、陰部を指で開いた。


「あたちのお〇んこ、穴拡がってない?汚くない?」

「桔梗!やめなさい!」

夜花子は桔梗に抱き着いて頭を優しく撫でた。


「桔梗、汚くないよ、すごく綺麗!赤ちゃんみたい!」

「そうだよ、人間の細胞は入れ替わるの。もう昔の体ではないの。桔梗は綺麗な体なのよ。」

萌葱の言葉に続き、夜花子が諭すように話しかけた。


「そうなの?綺麗になったの?お嫁さんになれるの?」

「なれるに決まってるだろ!桔梗は世界一幸せなお嫁さんになれる!あたしが保証する!」

茜が背中から抱き着いて、大声で宣言すると桔梗に花のような笑顔が生まれた。


「なあ、桔梗はどんな男が好みなんだ?」

「んーとね、あのお兄ちゃんカッコよくて好き!」

「あのお兄ちゃん?」

茜が頭を捻る。


「もしかして、ここにいるオッサン?」

「そう!あたちよりうーんとお兄ちゃんだし、イケメンだし!」

夜花子の質問に顔を赤くして答える。


「でもさ、桔梗より20歳位年上だよ。」

「ママにね、あたちはバカだから、体を使って金持ちのおっさんを垂らし込んで、養って貰いなさいって言われれてるの!」

一理あるなと夜花子は一瞬考えるが、いやそうじゃない!と思い直す。


「桔梗、結婚は自分が好きな人とするのがいいと思うよ。」

「でもね、あたち好きな人と結婚すると、健司さんみたいな人と結婚すると思うの。」

「桔梗はダメ男を好きになる女なのか。」

珊瑚がとても残念そうに呟いた。


「とりあえずさ、桔梗に近づく男はあたしらでチェックしようぜ!ぜってえ桔梗には幸せになってもらう!」

茜は立ち上がると、無い胸を張って高らかに宣言をした。

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