第14話 ママ達からのプレゼント②

刻一刻と移り変わる景色を楽しみながら、途中水風呂に浸かるなどして、日が沈むまで延々と入浴を続けた。


風呂から上がり脱衣所に戻ると、脱ぎ散らかしてあった衣類が無くなっている。

バスタオルで体を拭き、冷蔵庫にコーヒー牛乳を見つけ、腰に手を当て一気に飲み干す。

洗面台で順番に髪を乾かし、「入浴後5分以内に全身によく染み込ませる事!」と書かれた注意書きを見つけて、置いてあるボディクリームをあわてて皆で塗り付けあった。


棚を見ると名前の書かれた籠が置いてあり、色揃いのキャミソールワンピースとショーツが用意されていた。


萌葱が花萌葱色、茜が朱殷色、夜花子が濡羽色、珊瑚が珊瑚珠色、蒼が金青色、桔梗が杜若色。

皆は不思議と、自分の与えられた色に対して親近感を持った。


「なんだ、このピラピラでテカテカでフリフリなの?!

でも、何か大人っぽくてワクワクするな!」

「茜、これはキャミソール。生地はシルクかしらね。

雌猿がよく着ていたわ。」

クルリと身をひるがす夜花子の、キャミソールの裾がふわりと持ち上がり、ショーツがチラリと見えた。


「きゃあ、かわいい!あちしも!」

真似をして桔梗がグルンと回ると、ショーツがモロ見えになった。


「うーん、それだと色気が無いね。チラッがいいんじゃないかなぁ。」

珊瑚が手本とばかり、クルンと回ると絶妙なチラリになった。


「いいね!わたしも挑戦!」

「よしっ!比べっこしようぜ!」

萌葱と茜が同時にクルリと回る。


「いやん!二人とも可愛い!」

見事にチラリが決まった二人に、甲乙つけ難しでおあいこになった。


「では、真打登場だ!」

蒼がクルリと回ると、もさもさの黒い茂みと形のよいお尻に、皆の呆然とする姿を見て、フフンと自慢げに笑う。


「私が一番ね!これからもっと極めていかないと!」

「分かった。もう蒼の性癖を認めるよ。

ただし、せめて形を整えようよ。」

珊瑚に指摘されると裾をめくりあげる蒼。


「自然の方が卑猥な感じでよくない?」

「女の子として、NOです!」

皆にダメ出しをされた蒼は、その夜ムダ毛処理を検索することにした。




「長い風呂だな。」

脱衣所から出ると男が待ち構えていて、少女たちをダイニングに案内すると「くつろいでくれ」と言い、ソファーに座らせる。

その後、リモコンを操作して巨大なスクリーンを展開すると、プロジェクターを始動させた。


「今から主人達のビデオレターを流す。

終わるころには食事の用意もできるから、あちらのテーブルに着座して待っていてくれ。」

それだけ言うと部屋の照明を落とし、キッチンに戻っていった。


「あの、おっさんイケメンだよな?」

「茜もそう思う?おまけにイケボだし。」

「珊瑚ちゃん、あたちおっきい人好きなの。おじちゃん、すごくおっきい。」

「なんか桔梗の言葉が意味深に聞こえるわ。」

「蒼、ノーパンになるとエロ思考よね。」

「萌葱、蒼は元々むっつりだよ。なにせ愛読書はエロ小説だ。」

夜花子の発言に皆がキャアキャアし始める。

やがてスクリーンに6人の女性が映し出されると皆が黙る。

カメラが扶桑をズームアップした。


「みんな、いきなり連れ出してごめんなさい。

あなた達の現状を見て、どうしても我慢できずに行動に移してしまいました。

先ずは結論から言うわね。

あなた達の保護を目的として、山荘に滞在して貰います。

期間は中学卒業迄、親御さん、学校からの許可は取っています。

実はあなた達に逆恨みをした連中がいると、情報提供がありましたが、隔離されたあの場所では、あなた達の身の安全を守る事が難しいと判断しました。

そこで私達のプライベートハウスである、山荘に移しました。

そこはとても安全です。安心して過ごしてください。」

扶桑がニコリと微笑み、山城に代わった。


「みんな元気かな?風邪などひかないように気を付けてね。

滞在中は狼牙くんがお世話をしてくれます。

遠慮せずに何でも相談してね。

山荘の中の物は自由に使ってください。

あなた達のために用意したものばかりです。

足りないもの、欲しいものがあったら、狼牙くんにリクエストしてね。

いっぱい食べて、いっぱい運動して、元気に過ごしてね。」

山城が笑顔で手を振ると、長門に代わった。


「山荘での生活について説明します。

勉強は月曜日から金曜日の午前中の4時間、通信教育を行います。

とても分かりやすい教え方をしてくれる、優秀な先生だから楽しみにしていてね。

午後は狼牙くんと武術の練習と家事の特訓よ。

ひとり暮らしでも生きていけるようになってもらいたいです。

土曜日、日曜日は自由です。

大自然からたくさんの事を学び取ってほしいな。

期待してるよ!」

投げキッスをすると、陸奥に代わった。


「山で生きていくために注意することが幾つかあります。

もしヒグマに遭遇した場合、見つからないように全力で逃げてください。

冬眠をしない「穴持たず」と呼ばれるヒグマはとても飢えていて、人を襲います。


キタキツネには絶対に触れないようにしてください。

エキノコックスという寄生虫が、人に感染すると重い肝機能障害を引き起こし、最悪死にます。

くれぐれも可愛いからといって近づいたり、餌付けをしないようにしてください。


そして吹雪の日は外出しないこと。

ホワイトアウトになると、山荘から50m離れただけで遭難しますから、絶対に外へ出ない事。

もし、外出中にホワイトアウトになってしまったら、動き回らずに、穴を掘って避難して助けを待つこと。


詳細は狼牙くんからも説明があると思います。

大自然の脅威を忘れずに、いっぱい楽しんできてね!」

ウィンクをすると、日向と伊勢に代わった。


「伊勢は戦闘以外では無口でね。

私と一緒に話すことにしたよ。」

伊勢がコクコクと頷く。


「今回の事件でかってない位の悪党を始末できたが、あなた達が巻き込まれてしまった事、とても申し訳なく思う。

逆恨みしたバカ共は早々に始末する。

私達とあなた達の関係は秘匿事項とされていて、一部の関係者しか知らない。

だから私達は、影からあなた達のバックアップをする。

あなた達に危害が加えられないように全力で対処するが、もし万が一にも、拉致されるような状況が発生したら、命を賭けて助け出すから、望みを捨てずに待っていて欲しい。」

「きっとだ!必ず救い出す!何をされようが耐えてくれ!

私達の願いはあなた達の生存だ。

寿命を迎える迄、最後まで生き続けることだ!」

日向と伊勢のメッセージが終了するとカメラが引き、全員が映し出される。

彼女らはノートを取り出し、受け取った事を知らせる。


「あなた達の高校卒業式に必ず参加します。

その時にはみんなでお祝いしましょう!

愛してるわ、可愛いベイビー!」

ビデオレターが終了すると、部屋の照明が明るくなる。

狼牙は少女たちに食事の準備が出来たと告げた。




「ジビエ料理を用意した。全てこの地の食材だ。」

テーブルに並んでいる皿に目を奪われて、驚きを隠せない。


「これ全部、狼牙さんが作ったの?」

「ああ、そうだ、早く食べなさい。」

珊瑚の質問に素っ気なく答えると着席を促す。


前菜 帆立とイクラの前菜

スープ コーンポタージュ

魚料理 サーモンのムニエル

肉料理 蝦夷鹿と羆のステーキ

果物 マスクメロン

林檎ジュース


「凄いですね、見た目もですが味も素晴らしいです。」

「これが熊でこれが鹿?あいつら食えるんだ!」

夜花子は一口づつ味を確かめるように堪能するのに対して、茜はとにかく口に頬張り、空腹を満たす事を優先して咀嚼も数度で飲み込む。


「おっちゃん!お代わりある?!」

「ああ、茜は小さいのに大食いだな。何が食べたい?」

「ステーキ!なんかこれ食うとでかくなれる気がする!」

「分かった。他にお代わりの欲しい子は?」

やはり、熊と鹿という食材が珍しかったのか、皆がステーキをリクエストする。


「あの、作るところを見せてもらってもいいですか?」

「どうぞ。」

ニッと笑う狼牙に珊瑚の顔がホニャと崩れ、頬が紅潮する。

席から立ち上がり、トテトテと着いて行く珊瑚の後を、「わたちも!」と桔梗、「オレも見たい!」と茜が慌てて付いて行く。

残った3人は顔を見合わせるとコクリと頷き後を追った。


「珊瑚惚れたね。」

「そういえば、珊瑚も年上好きだったな。

茜はどうなんだ、爺さんによく懐いていたからなぁ。」

萌葱が難しい顔をして、夜花子が肩をすくめる。


「珊瑚、桔梗、茜の四角関係は避けたいところよね。」

蒼の発言に二人の表情は更に険しくなった。


3人が厨房に入ると既に女の闘いが始まっている。

体を密着させようとする珊瑚と桔梗、狼牙の視界に極力入り込もうとする茜。

狼牙はとても作業をしづらそうな様子だ。


「珊瑚と桔梗は流石にあざといな。茜はまだ「おこちゃま」だからあの位置か。さて、あの二人を引き剥がそうか。」

夜花子が珊瑚を蒼が桔梗を羽交い絞めして引き離すと、茜が引っ付こうとするが萌葱が阻止した。


「あんたら、料理の邪魔をするでない!」

夜花子に説教され惚れ組の3人はシュンと肩を落とす。

肉の油が爆ぜる音がして皆が注目する。

鮮やかな手つきで肉を調理する姿に一同が見惚れた。


「イケメン、イケボ、高身長、料理はプロ級、多分高給取り、よくよく考えると物凄い良物件よね。後は年齢差と既婚者でなければかぁ。」

思いもよらない夜花子の発言に、惚れ組3人がじりじりと夜花子の周りを囲み詰め寄って行く。

心なしか目が座りの表情が強張って見えた。


「夜花子ぉぉ、あんた「興味ありません」って顔してたよねぇ。」

「夜花子ちゃぁん、あたちたちぃ大親友だよねぇぇ。」

「夜花子ぉ、そういう冗談はちぃっともぉ面白くねぇぇよぉ。」

しまった!と慌てる夜花子に萌葱が助け舟を出した。


「狼牙さん、結婚されてますか?」

「独身だよ。」

「おいくつ何ですか?」

「うーん…、確か27だったはずだが。」

「恋人さんとかいますか?」

「ははっ、どうしたんだい?嫌な予感がするけど。」

「正直にお願いします。」

「いないよ。」

「私たちに興味ありますか?」

「無いねぇ、逮捕されたくないし。

何より君らに手を出したら、主人達に殺されちゃうからね。

お願いだから、妙な色気は出さないで欲しい。

まだ、死にたくないからね!」

さらっ言い流すと、大皿に大量の肉を盛りつけた。


「さあ、これで仲直りをしてくれ。」

夜花子にしがみ付きグズグズ泣いていた3人は、狼牙に顔を見られないように、ダイニングに駆けこんだ。

萌葱と蒼はそれぞれ大皿を受け取ると、狼牙にお礼を言ってダイニングに戻って行った。


「君はこれを持って行って。」

夜花子はハスカップのアイスクリームの大きな壺と人数分のガラスの小皿を受け取った。


「俺はもう休むから、食器は流しに漬けておいてくれ。

君達の部屋は2階の突き当りだ。

暖かいパジャマを用意してあるからそれに着替えるといい。

ではお休み。」

狼牙は夜花子の頭をポンポンと撫でると、キッチンを出て行った。

夜花子は狼牙の背中が見えなくなるまで、動かなかった。


ダイニングに戻ると、やけ酒ならぬやけ食いが始まっており、手掴みで肉を食いちぎり、肉汁やソースでキャミソールがシミだらけになっていた。


アイスをテーブルに置くと、珊瑚が壺ごと抱え込み直食いを始める。

負けるものかと、桔梗が壺をひったくりガッガッと頬張り、二人共頭痛に苦しみ始める。

その様子を見ていた茜は出した手を引っ込めた。


「あんたら、お腹壊すよ。」

萌葱が壺を回収すると、ガラス皿に盛り付ける。

夜花子はガラス皿を受け取り、一口食べる。

爽やかな酸味とほろ苦さが後味に感じて、「これが失恋の味なのかな」と思い、気恥ずかしい思いをした。


満腹状態の失恋3人組の介抱をした後、2階の部屋でモコモコパジャマに着替えさせベッドに放り込む。


「わっ!」

突然、蒼を大声を上げて跳び起きた。


「どうしたの?」

ぎぎぎと音のしそうな動きで蒼の頭が夜花子に向く。


「わ、私達のよ、汚れもの、誰が、片づけたの、かしら?」

全員がガバッと跳ね起きた。


「いやあああああぁぁぁぁ!」

少女たちの絶叫が夜の闇に響き、溶け込んでいった。

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