第11話 「落とし前」という名の戦争 ②
幸いにも子供たちの病室は角部屋で、通路に窓は無く一方向からの攻撃に備えるだけで済んだが、それは退路が無いという事でもあった。
通路はベッドを2つ並べると封鎖できる幅で、それを3列にすることで、防弾の効果も期待できるバリケードが完成する。
病室内を照明を消し、通路の照明をハンドガンで射撃破壊する。
扶桑、長門、陸奥はバリケードに身を隠し、山城は病室内で窓からの侵入に備えた。
現有戦力はアサルトライフルが20、予備弾倉が10、ハンドガンが12、そして6人の「チーム雌ゴリラ」。
「長門、陸奥、フルオート禁止ね!一発必中でヨロ!」
「無茶言わないでよ!私ら射撃訓練してないし!」
長門、陸奥がセレクターレバーを、セミオートに切り替えた。
大勢の怒鳴り声と足音が聞こえてくる。
3人は銃口をベッドの隙間から突き出し、通路に飛び出してきた、明らかに構成員と思われる人影を撃つ。
構成員が3人通路に倒れ込むと、後から押し出されるように、次々と構成員が通路に現れた。
「クソッ!あいつら薬使ってやがる!射殺するよ!」
扶桑はトリガーを引く指を止めず悪態をつく。
極度の興奮状態の構成員は恐怖を感じない様子で、撃たれるのもお構いなしで、腰だめに乱射しながら突っ込んできた。
「ちょっと多すぎない!銃を持ったゾンビなんて洒落になんない!」
即死でない限り起き上がり、ゾンビアタックを仕掛けてくる構成員を見て、長門が悲鳴に近い叫びを上げる。
バリケード代わりのベッドが、数百発の着弾でガリガリ削り取られていく。
ついには、三人の頭上を貫通したライフル弾が通過していった。
「しゃーない!マガジン交換したらフルオートで面制圧2回!」
扶桑の指示でフルオート射撃を2回行い、マガジンを2本消費して最後のマガジンを装着する。
通路には死体の山が築かれ、容易に進行できなくなった。
「応援到着!うわぁ!あいつらトレーラから軍用ドローン起動したよ!戦争をするつもりなの?!」
山城の大声の報告で、皆がざわめき立つ。
2機の軍用ドローンは4足で自立すると、所轄パトカーに目掛け5.56mmヴァルカン砲を放つ。
パトカーがハチの巣にされ、爆発炎上した。
「これは、もう戦争ね。テロの範疇を超えたわ。」
山城は総理直通の回線を通じて、映像の生配信を始める。
総理からビデオ通話着信が入ると画面を切り替えた。
「萌!無事なのか?!怪我をしていないか?!」
「総理、周りに人はいませんか?」
「大丈夫だ、私1人だ。」
「お父さん、私は無事です。「チーム雌ゴリラ」の一員として、子供たちの警護をしています。」
「そうか、なら一安心だな。それでお父さんは何をすればいい?」
「軍用ドローン処分に対地ドローン小隊の手配をしてください。
それと、今回は蛟龍会の未成年が関わっています。
至急、少年法の改正を可決してください。
蛟龍会の本部のガサ入れもお願いします。
金融関連は特に念入りにお願いします。
期待してますよ、お父さん。」
「分かった。くれぐれも無茶をしないでおくれ。」
投げキスをして通信を切り、軍用ドローンは外で足止めされている事を皆に伝えると、映像配信を続けた。
構成員の後方で単発の射撃音がすると、銃器の発砲音とは別の打撃音が聞こえてくる。
「始めたね。援護ヨロシク!」
扶桑はアサルトライフルを置くと、バリケードを飛び越えて混乱している集団目掛けて駆けだした。
「ああ!ズルい!」
長門と陸奥はバリケードに身を乗り出し、扶桑を射線から外して構成員を狙撃し始める。
混戦した戦場で伊勢、日向が無双をしている姿が見える。
ズタボロの構成員を盾に銃撃を阻止して、確実に人体の急所に打撃を与え、その構成員を盾に銃撃を防ぐ。
中には同士討ちしている構成員の姿も見えた。
扶桑は背後から構成員の後頭部を、ハンドガンで撃ち抜くと、その構成員のハンドガンをホルスターから抜き取り、両手撃ちで次々と頭を撃ち抜いた。
戦闘が始まって10分、院内の迎撃が終了した。
流石に無傷とはいかずに、日向が右太ももと左腕に、伊勢が右わき腹と右肩にそれぞれ銃創を受けた。
「弾丸は抜けているから心配するな。」
二人は止血テープを貼っただけで、無事をアピールした。
桔梗が日向の傷口に手を当てて、「手当て」をすると、蒼も真似をして、伊勢に「手当て」をする。
日向と伊勢はこの上ない程、幸せな気持ちになった。
外では蛟龍会の残存勢力と、警察の機動隊・特殊部隊、国防省特戦隊、公安特課が睨み合いを続けてる。
それぞれの責任者が今後の対応を話している時に、報告が入る。
「自衛隊からの入電です。入間基地より対地ドローン小隊スクランブル発進、現着8分後です。」
「えらく対応が早いな。」
特戦隊隊長が地図を広げて位置確認を行う。
「ああ、今日は「チーム雌ゴリラ」で動いているのか。」
特課長が合点がいった表情になった。
「このまま、相手を刺激せず待機しますか。
狙撃部隊は院内に侵入するエネミーをターゲット。
動きが無ければ待機。」
彼らは静かに対地ドローンの到着を待とうと決めた直後、軍用ドローンから榴弾が発射される。
榴弾は着弾すると、真っ赤な煙をもうもうと噴き出し視界を奪った。
警察特殊部隊、国防省特戦隊、公安特課はすぐに防護マスクを付け無事であったが、制服警官、刑事、機動隊が顔を押さえてもがき苦しんでいる。
「目がぁ」「息がぁ」「鼻がぁ」「喉がぁ」あちこちから、苦痛の悲鳴が聞こえる。
「状況、ガス!」
「成分は分かるか?」
「解析中!」
ポータブル分析装置を背負った隊員が、携帯端末機を操作しながら答えた。
「出ました。主成分、オレオレジン・カプシカム。
催涙ガスです!」
特戦隊隊長は、即死性のガスでない事に安堵しつつも、何故このタイミングで使用したのかが、気がかりになる。
「エネミーに動きは?」
「ドローンに動きはありません。」
「こちら狙撃班、複数の人影が病院内に侵入。
ガスによりターゲットロスト。」
特戦隊隊長は直ぐに伊勢へ電話を掛けた。
「チーム雌ゴリラ」がそれぞれのベイビーとの、つかの間安らぎを享受している最中に、侵入者の連絡を受ける。
日向と伊勢は病室内を、後の4人は廊下で迎撃体勢を取る。
ふっと窓の外に影が降ってくると、6人の男が飛び込んでくる。
直ぐに日向と伊勢が動き、男達と対峙する。
4人も病室に飛び込んできた。
「あんたらと素手で勝負したい「雌ゴリラ」。
あんたらの名前は裏社会でも有名でね。
あんたらの首を取れば、今後のビジネスのいい謳い文句ができる。「ゴリラ狩りのレオパルト」ってね。」
「ああ、最近アンタらの名前をよく聞くね。
なんでも、敵対者の家族迄皆殺しにするんだってね?
本当かい?」
「勿論だよ、残されたら可哀そうじゃないか。
どのみち生きていても碌な人生歩めない。
なら俺達で頂いた後に、苦しませずに殺してあげるのが優しさってもんだろう。
おまえらの狩りが終わったら、そこの子供たちは、俺達がちゃんと面倒みてやるから、安心して死っ」
日向の高速の連打が、レオパルトリーダーを最後まで喋らせなかった。
連打を喰らったリーダーが窓の外へ吹っ飛んでいく。
それをきっかけに、雌ゴリラ達のレオパルト虐殺が始まった。
「ベイビー!よーく見てなさい!
自分より大きい男の処理方法を!」
扶桑が頭一つ大きい男に近づいていく。
男の拳が扶桑の顔面目掛けて振り下ろされる。
頭を抱えてしゃがみ込むように見えた。
地面に手を着くと、後転するかのように足を蹴り上げて、男の股間に爪先をめり込ませ、振り抜いた。
男はグルリと白目を剥くと、ばたりと倒れ泡を吹きだした。
「金的蹴りは、とっても良く効くから覚えておくのよ。」
子供たちは目を丸くして、うんうんと頷いた。
「じゃあ、次は私だ!」
相手のパンチングをひょいひょいと捌いていた、長門が声を上げる。
「実はな「大人の女」になると、全身が武器の塊になる。」
踏み込んできた足をハイヒールで踏み抜く。
足の甲を貫通された男が悲鳴を上げ倒れる。
男の股間目掛けてヒールを突き立てると、絶叫を上げて静かになった。
「はい、これがヒールの使い方。」
子供たちは目を細めて、うんうんと頷いた。
「みんなー!注目!」
手を後ろに組んで、華麗なバックステップで、大振りなパンチをかわす山城に視線が集まる。
「いくよー!」
山城の手が解かれ、4本の指が相手の目の前に差し出される。
人差し指と薬指の、美しくデコレーションされた、長いネイルが男の目に突き刺さる。
目を押さえもがき苦しむ男の股間を、素足でゲシゲシと踏み潰し、大人しくさせた。
「ネイルは目つぶしに最適よ!」
子供たちは顔を手で覆い、指の間から見た出来事にこくこくと頷いた。
「お前らロクでもない事を教えるな。」
既に男をボコボコにして、スリーパーホールドで拘束している陸奥に視線が集まる。
「暗器といってな。こんな小さな指輪にも仕掛けを仕込める。」
指輪が針が飛び出し、それを男のこめかみに突き刺すと、男がビクンと痙攣して静かになった。
「暗殺する時や自害する時に役に立つぞ。」
子供たちは、ごく少量おもらしをして、ガクガクと頷く。
「それではこれで最後だ。人の肉体的な弱点を教える。
先ずはみぞおちだ。ここを殴られると苦しい。」
みぞおちの一撃で呼吸困難になる男。
伊勢の実習教室が始まった。
「この出っ張りを喉仏という。ここを潰されると息ができない。」
喉仏を摘まみ潰すと声を出せずに悶絶する。
「ここは人中。ここを突かれると苦しむ。」
中指だけ少しはみ出した拳を作り突く。
体がビクンビクンと痙攣をしはじめる。
「乳様突起、ここを破壊されれば、立っていられない。」
耳の後ろ部分にチョップをするが、勢い余って耳を削ぎ落してしまう。
「こめかみに強いショックを与えれば、まあ死ぬな。
なのでアゴだ。ここに当てれば脳震盪を起こしやすい。
かすっただけでダウンさせる事も可能だ。」
伊勢の一撃はかするどころかアゴを割った。
そして、こめかみに一撃を与えると、喉元を掴んでいた手を離した。
「そして、最後に金的だ。」
力一杯金的を蹴り上げると、男の体が宙に浮き頭から落下した。
「よく覚えておくように。」
子供たちは、腰を抜かし尻もちをついている。
お尻の周りが水溜まりになっている事に気付いた「雌ゴリラ」は、「ママ」に戻ると甲斐甲斐しくお世話を始めた。
対地ドローンから発射されたAGMが、軍用ドローンをあっけなく破壊して基地へ帰投していく。
催涙ガスで被害を受けた警官は、全て病院に送られ、本庁からの応援と代わっていた。
残された車両に人影が無く、病棟は200名を超える構成員の
死者、重傷者で溢れかえっている。
病室へ行くと、「雌ゴリラ」が子供たちを抱きかかえ、乳首を吸わせている異様な光景を目撃する。
婦警2名が、壁際に向かって何やらブツブツと言っているのを見て、凄惨な状況を目撃したショックであろうと判断して、一時帰宅させる。
「何をしてるんだ、日向?」
「子供たちのアフターケアです。」
「この子の目が、死んだ魚のようだが私の気のせいか?」
「気のせいですね。」
「珍しく負傷しているな、ここは応援に任せて治療を受けろ。」
「嫌です。」
「命令だ。」
「今日は非番です。その命令には従えません。」
「お前、おかしいぞ?なぜその子達にそれほど拘る。」
「私の魂の片割れだからです。」
「お前、頭を打ったか?」
「極めて正常です。課長お願いです。
今日だけです。明日からはいつもの日常に戻ります。
今日1日このままでいさせてください。」
周りを見回すと、同じような懇願の視線を感じる。
「分かった、引き続き子供たちの護衛任務を命じる。
関係各所には私から連絡を入れておく。」
「ありがとうございます。」
課長は、日向にあんな優しい表情ができるのかと、正直驚いた。
「まずは今夜の宿泊先と怪我の治療だな。」
特戦隊隊長を捕まえ、訳を話すと直ぐに本部へ連絡を入れ、
自衛隊入間病院受け入れを伝える。
安全を考慮してヘリコプターで搬送を行い、仮想親子6組は無事
入間病院へ入院をした。
翌日、「チーム雌ゴリラ」はそれぞれの所属に復帰し、「落とし前」をつける為、精力的に動きだした。
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