第10話 「落とし前」という名の戦争 ①

「ああ、そうだ。

家族の顔に泥を塗った女とガキ共を拉致する。

勿論、落とし前をつけさせる。

死んだ方がマシと思う位の苦しみを与える。

女は全身の骨を砕いた後に、生きたまま焼く。

ガキ共は目玉をくり抜き、歯を全部抜き取り、手足を切断する。

生きたオナホールにして、お宅らにお譲りする。

そろそろ新しいのが欲しいと言ってただろう。

その変わり、武器を融通してくれると助かる。

ああ、そうだ全部で6人だ。

よろしく頼むよ、同士。」




「班長、公安からの情報なんですが、扶桑が痛めつけたガキが大陸マフィア「蛟龍会」の次男坊でして、そいつらの動きがきな臭いそうで、かなりの数の戦闘員を集めて、何か企んでいるとのことです。」

「扶桑に連絡取れたのか?」

「今日非番ですよね。昨晩から連絡取れないんですよ。」

班長が扶桑に電話を掛けたが、電源を切られていた。


「手空きを全員招集しろ。所轄に連絡を入れて病院周辺の警護を依頼、俺は扶桑の家に行く。お前も一緒に来い。」

班長は急ぎ、扶桑の家に向かった。




「蛟龍会の目的は扶桑巡査長の拉致と考えられる。

丁度いい機会だ、片っ端からとっ捕まえて頭を引っ張り出す。

お前ら!気合入れろ!

ところで、日向はどうした?」

「昨日、本日の有給休暇申請がありました。」

「そういえば、扶桑巡査長と交友関係があったな。

GPSで位置確認できるか?」

「例の病院にいますね、呼び出しには応じません。

携帯の電源が切られています。」

「課長、扶桑巡査長は本日非番とのことです。」

「全員、甲装備で病院へ向かう!」

公安特課、総勢19名は急ぎ病院へ向かった。




「蛟龍会輸送車、1班と接触。銃撃戦が開始されました。」

ドローンから送られてくる映像に、国防省諜報部の特殊作戦部隊と蛟龍会構成員との銃撃戦が映し出される。


「2班、狙撃援護開始。」

構成員が一人また一人と倒れていく。

不利と悟った構成員が散り散りに逃走を始めた。


「3班、駆逐掃討戦開始。」

野外戦仕様のバイクが構成員の後を追いかけ始める。

しばらくすると、隊長から作戦遂行成功の報告があった。


「本隊、死者、重傷0名、軽傷3名、ターゲット24名中死亡18、重傷5、軽傷1。軽傷者を尋問中。メモより目的地判明、三里市中央病院と判明。」

「組織犯罪対策課に連絡、所轄にも連絡を入れておけ。

1班、2班は三里市中央病院へ急行、3班は引き続き現状確保。

伊勢と連絡は取れたか?」

「暗号回線に応答あり、三里市中央病院にて待機中とのことです。」

「厳重注意にて引き続き警戒を続けさせろ。」

部長は椅子に体を預けると、メガネを外し目を揉んだ。




「みんな、聞いてくれ。諜報部から蛟龍会の襲撃予測がきた。」

伊勢のゴツイスマホが衛星からの監視画像を映す。


「国道に黒塗りの車列20台、後続のトラック5台とトレーラー2台も同伴だな。ざっと200名程か、あと15分で到着するな。」

「銃火器、刃物は当然か、応援は?」

「うちの特戦隊が2班40名が向かっている。」

「伊勢の所が動いているなら、うちも動いてるだろ。」

日向がスマホの電源を入れると、すぐに着信が入る。


「日向!緊急事態だ!すぐにそこから離れて、合流地点に移動しろ。そこでドンパチするのは危険すぎる。」

「子供たちの護衛は?」

「奴らの目標は扶桑巡査長だ。そこに居たら子供たちが巻き込まれる。子供たちの護衛は所轄に任す。急げ!」

合流地点の座標リンクが届き、マップが場所を示す。


「聞こえたな。ここは所轄に任せて合流しよう。」

「ちょっと待った日向。あのヘリどこの所属?」

扶桑が病院に向かってくる黒塗りのヘリコプターを指さす。


「Z-20!大陸の軍用ヘリだ!」

伊勢が叫ぶと、彼女達は全速力で病院内に駆け込んだ。


「こんなことならパンツルックにすればよかった!」

山城がドレスの裾を破り膝上で結び付け、ガーターストッキングを脱ぎ、ピンヒールを手に持つ。


「珍しくスカートを履いたのにこれだもんな!」

長門がタイトスカートの脇を引き裂き、パンストを脱ぐとハイヒールを手に持つ。


「子供相手にスカートはダメだろ!世のお母さん達を見習え!」

「あんた達、スカート持ってないじゃない!」

陸奥が先行する、扶桑、日向、伊勢に文句を言いながら、ドレスパンツの裾を輪ゴムで縛った。


「私らは屋上でやつらを迎え撃つ、あんたらは病院関係者に避難誘導を依頼して!」

「わかった!これ持っていって!」

脱いだパンストとパンプスを手渡す。

6人はフロアで二手に分かれて行動を開始する。

扶桑、日向、伊勢の三人は階段を3段飛ばしで駆け上がり、一気に屋上扉迄辿り着くと、鍵がかかっていることを確認して、階下に降りた。


陸奥と長門は状況説明をしに受付に、山城は子供たちの病室に向かった。


「ベイビー!おはよう!」

山城が病室に行くと、子供たちは着替えを終えて、婦警の二人と何やら話をしていた。


「萌ちゃん、おはよう!」

茜が元気のいい声で出迎えると、皆が一斉に挨拶をする。

山城は自分のチョイスした服を着た茜を見て、身悶えする。

(なんて可愛らしいのだろう、このまま連れて帰りたい!)

必死に衝動に耐えると、息を整えて状況説明を始めた。


伊勢、日向がそれぞれの上長に状況を説明する。


「現状から子供たちの拉致も目的と思われます。

このまま警護を行います。」

「了解だ。無茶をするな、できるだけ戦闘は避けろ。

相手は武装集団だ。」

返答をせずに通話を切った。


屋上扉がマシンガンで破壊される音が聞こえる。

3人は頷くと、打ち合わせをした配置に着く。

複数の警戒をしない足音が聞こえる。

足音が中段に差し掛かった時、扶桑が結び付けたパンストを引っ張る。

侵入者はパンストに足を取られて、雪崩落ちた。


伊勢が踊り場に倒れ込んだ一人の襟首を掴み、階段の影に引きずり込むと、首を捻り絶命させる。

アサルトライフルを奪い取り、階上に乱射する。

その間に扶桑と日向が侵入者を引きずり込み、銃器を奪い取り射殺をしていく。


「いいモン使ってるけど、練度は全然だな。素人集団だ。」

「QBZ-95とQSZ-92じゃやねーか、どうなってやがるあちらさんの軍はよ。マフィアにこんなもん横流しできるのか?」

扶桑と日向はマガジンポーチと小銃、ハンドガンを持てるだけ装備すると、伊勢の後に付いた。


「手榴弾を持ってないのが幸いだな。Z-20なら最大で20名位だろ、伊勢、何人仕留めた?」

「見えるだけで、6人位か。日向そっちは?」

「5人だ。残り9人か、一気に攻めるか?」

「そうだな、ベイビーを待たせちゃならん。」

伊勢はパンプスを階段の影から覗かせる。

一斉に射撃音が響き、パンプスがズタボロになる。

射撃音がやんだ瞬間に日向が身を躍らせ、小銃を乱射しながら階段を駆け上がる。

伊勢の腕力で、天井ギリギリに放り上げられた扶桑が、隠れ場所の無い侵入者に一斉射を浴びせる。

混乱する集団に肉弾戦を仕掛ける日向が、一撃で侵入者を打ち倒していく。

屋上からの侵入者の制圧は完了した。




「おつかれー!」

病室の前で警備している山城が手を振る、伊勢は持たされていた原型を留めていない、ピンヒールパンプスを返した。


「ンギャー!フェラガモが!10万円がー!」

脱力して膝をつく山城の肩を叩くと、病室に入った。


「おー!」

子供たちは一際大きい、伊勢と日向を見て驚きの声を上げる。

伊勢は蒼に、日向は桔梗へと真っすぐに進む。

蒼は「ああ、私の番ね」と達観して、伊勢を真っすぐに見る。

「私は何をされても動じない」と心で誓った。


伊勢は蒼をひょいと持ち上げると、頭や耳の周りをクンクンと嗅ぎ始める。


「え?ちょ、ちょっと何?」

脇や胸元、お腹に顔を埋めて深呼吸を始めると、流石に恥ずかしくなり、「やめて!」と騒ぐが、やめる気配は無い。

赤ちゃん抱っこに替えると、下腹部に顔を埋めてスーハーし始めた。


「やめてー!そんなとこの匂い嗅がないでぇー!」

五度の深呼吸で「よし、覚えた」と言い、にっこり笑って蒼のおでこにキスをして降ろした。


「ゴメンねー、蒼ちゃん。伊勢ったら匂いフェチなのよ。」

山城は蒼に話をしながら、感化されたのか、抱きかかえた茜の体中をクンカクンカしている。

茜は無駄な抵抗はやめた、と言わんばかりに大人しくしていた。


日向は桔梗の前にしゃがみ動けずにいた。

「守れなかった」自責の念が差し出したい手を止める。

不可能な事だとは理解しつつも、心が自身を責め続ける。

何時の時だったろう、必ず、命を賭しても守ると誓った筈だ。

思い出せない、しかしその誓いだけが心に残っている。

日向は桔梗を見て、ただ涙を流し続けることしかできなかった。


「おねえちゃん、泣かないで。

おねえちゃんが泣くと、あたち悲しい。

あたち、なんでかな。

おねえちゃんに抱っこされた思い出があるの。

いつだか分からない。

おねえちゃん、いつも優しい笑顔だった。

それで、あたちにオッパイくれるの。

あたち、オッパイ大好きだった。

おねえちゃん、オッパイ吸っていい?」

その言葉を聞いた日向のシャツのボタンが飛び散る。

日向はその場にドカッと胡坐をかくと、タンクトップとブラを外し、乳房を露出する。

桔梗は恐る恐る、日向の乳首に吸い付く。

チュウチュウを乳首を吸う桔梗を優しく抱きかかえると、慈母の微笑みで桔梗を愛でた。


扶桑の首がもげそうな勢いで、萌葱に向く。

萌葱はブルルと首を横に振る。

それでも諦めきれないのか、乳房を露出させジリジリと隅に追い詰めていく。


蒼は婦警の後ろに隠れて、「勘弁してぇ!」と叫んでいる。

伊勢に、ガシッと頭を鷲掴みされた婦警達も「勘弁してぇ!」と叫んでいた。


茜は虚ろな目で、山城の乳首を咥えていた。

山城の目が既に危険域にある事に誰も気づいていない。


「敵襲!」

陸奥と長門が病室に飛び込んできて叫んだ。


正気に戻った4人は乳房をしまい、窓の外を見る。

病院敷地内に黒塗りのセダンとトラック、トレーラーが乗り込んできた。


各自は鹵獲した銃火器を手に取り、チェックを始める。


「長門、病院の避難誘導はどうなってる?」

「全員の避難は無理、とりあえずこの病棟からは逃がした。」

伊勢は残弾の少ないマガジンから、装弾数満杯のマガジンに替えながら、避難状況を確認する。


「廊下にバリケードを作ろう。」

ベッドを運び出しバリケードとして設置する。


「エネミー院内侵入!みんな、伏せて!」

コンパクトの鏡の反射で外を監視していた、陸奥が叫ぶ。


激しい銃撃が窓ガラスを飛散させる。

長門と扶桑が子供たちに覆いかぶさる。

そのまま、這って子供たちを入口の壁際に批難させる。


「いいこと、ここから動かないで。必ず守るからね。」

扶桑の励ましに、子供たちは真っ青になり頷いた。


「私と伊勢が遊撃する。なんとか接近戦に持ち込んで時間を稼ぐ。」

日向と伊勢はハンドガンを4丁持つと部屋の外に飛び出して行った。


「おねえちゃんたち大丈夫なの?」

桔梗の声が震えている。


「大丈夫よ、あいつら慣れているからね。応援してあげて。」

長門が安心せるよう子供たち励ます。

扶桑のスマホに着信が入る。


「現着まで5分だ!それまで持ちこたえてくれ!」

今日、最も長い5分が今始まった。

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