第3話改 桔梗の休みと蒼の伊達メガネ
「うわっ!救急車が来た!どこだろ。」
静まり返った団地に救急車のサイレンが鳴り響く。
何事?と反射的に窓から顔を覗かせた萌葱は、救急車が友人の住む棟に停車するのを見て不安な気持ちになる。
「桔梗の棟だ、まさかね。」
そのまま何気なく見ていると救急隊員が担架を持って最上階まで駆け上がっていく。
「あれ?ちょっと待て待て待て!」
桔梗の部屋の前で止まる隊員を見ると慌てて部屋を飛び出した。
「あれ桔梗だよな!」
「どう見ても桔梗!」
棟から飛び出すと茜と鉢合わせになり揃って桔梗の元に駆け寄る。
救急車の前で隊員の問診に答えていた桔梗を見て二人は息を飲んだ。
「桔梗!どうしたんだよ!血塗れじゃねーか?!」
「あれ茜ちゃん、どうしたでち?」
「どうした、じゃないでしょう!怪我したの?大丈夫?!」
「萌葱ちゃん、ちょっと手が痛いでち。」
桔梗は包帯に巻かれた手を見せるとにたぁと笑った。
「おっちゃん!桔梗大丈夫なのか?!」
「ああ、しばらくは包帯が外せないけどね。君達は友達かい?こんな夜遅くに出歩くと危ないよ。今日は帰りなさい。」
隊員の説明を聞き安堵する二人だったがどうしても桔梗に聞きたい事があった。
「なんで怪我をしたの?」
「健司さんをぶん殴ったでち!ママみたいに上に乗ってエイエイでち」
萌葱の問いにニコニコしながらご機嫌に答えると、いつの間にか近寄った制服警官が聞き耳を立てていた。
「桔梗ちゃんはママに殴られたことがあるのかな?お巡りさんに聞かせて欲しいな。」
制服警官は腰を折り桔梗と同じ目線で話かけてきた。
「また明日な!」
萌葱と茜は別の警官に帰宅を促され声を掛けて帰宅する。
翌日、新学期初日に桔梗は学校を休んだ。
「杜若さんはご家庭の事情がありしばらくお休みになります。」
担任が淡々と事情を説明するが生徒に特に動揺は見られない。
家庭の事情はよくあることでこの中学校では珍しい事ではない。
昼休みに5人は桔梗の話をするために校庭の隅に集まった。
茜「なんで健司をボコったんだ!桔梗と仲良かったよな!いつも大好きって言ってた!」
萌葱「桔梗が言った事を覚えてる?ママにやられたみたいにって言ってたよね。もしかして虐待されてたのかな?」
珊瑚「ええ!それって本当なの?!それってヤバい奴じゃん!下手したら、転校案件だよ。
6組にも虐待されて施設送りされた子がいたけど、そいつも家庭の事情でそれっきりだったよ!」
夜花子「イヤなこと言わないでよ!悪い事を口にすると実現するってよく本に書いてある。」
蒼「そうだね、夜花子の言う通りだよ。
本当に虐待だとしても桔梗ママの動機が訳ありなら、うちのお母さんみたいに情状酌量の余地ありで酌量減軽されるよ。」
実母との関係を他人事のように話す蒼に皆が顔をしかめた。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
蒼は男の出入りが多い家庭で育った。
母親は売れない小説家で単発の物書きや官能小説を書き生計を立てていた。
現在の母親はアラフィフの中年女で短髪でボーイッシュ、気の強い顔立ちだが美形の範疇に入る。
細身の長身で胸はAカップだが手足が長くスタイルは良い。
母親は事あるごとに自分の遺伝子を娘に引き継いだ事を誇りに思っていた。
当の蒼は一向に膨らまない乳房の未来を母親に見てがっかりとしていたのだが。
母親は取材と称して週2回、毎度違う男を連れ込んでは蒼が隣の部屋にいるのにも関わらず情事に勤しんでいる。
連れ込む男は実に多種多様であり、性別が男であれば容姿年齢に共通点は無い。
その影響で物心がつく前からSEXに興味を持ち、壁に耳を当て情事を盗み聞きする事が楽しみになっていた。
普段はヒステリーで自分の周りの男や寝た男の悪口を捲し立て物に当たる母親が、情事の時だけ従順になり甘えた声を出すギャップがとても愉快で飽きなかった。
そんなある日の事、1度寝た男を連れ込むことは無かった母が、2度目の男を連れて来た時にはたいそう驚いた。
男は30代で目つきが鋭く厳しそうな顔立ちをしている。
背が高くジム通いをしているのか筋肉が隆起していて間近で見ると小山のように見えた。
蒼は2度目の男に興味を持ち覗き見をする事にする。
甘い声が聞こえ始めると部屋の仕切り襖をそっと引き、中を覗くとベッドに上に横たわる男の一物を咥えこむ母親の姿が見える。
SEXが何たるものかはネットで見て知ってはいたが、ネットでも滅多に見られぬ大きな一物に、心臓の鼓動が大きくなり本物の迫力に体が火照るのを感じた。
「あんな大きなモノをどうやって全部飲み込んでいるのだろう?苦しくないの?」
口から引き抜かれる一物と母親の口が粘液で繋がっていた。
「えずき汁だったかな?」
母親の体に一物が余さず埋まった時は人体の神秘を考えずにいられなかった。
「お産をするのだから無理ではないのかな。」
その後騎乗位・正常位・後背位と最後に正常位で母親だけが絶頂を迎え失神してしまう。
蒼もまた自慰をして息を切らしていた。
(イッちゃった。)
指に絡み着く粘液の匂いを嗅いでいると、突然襖が開いて男に抱き上げられた。
「蒼ちゃんだね、覗いていたことは最初から分かっていたよ。」
あまりにも急な事に蒼の思考が停止する。
男は粘液に塗れた蒼の指を丹念に舐る。
舐られる指の感触に鳥肌が立った。
「離してくだっ!」
キスで口を塞がれ固く閉じた唇を男の舌が舐め回す。
必死に抵抗するがアゴを掴まれ舌を強引にねじ込まれ口腔をねぶられた。
「んー!んー!」
男の口臭と血走った目を見て嫌悪と恐怖のあまりに小便をちびった。
「あんた!何してんのよ!蒼から離れろ!」
意識を取り戻した母親の叫び声が聞こえる。
腰の抜けていた母親はベッドから転げ落ちると這って男の足元までたどり着いた。
「なにか誤解してないか?お前が先に失神したから代わりに相手してくれると誘ってきたんだぞ。親思いのいい子だな蒼ちゃんは。」
「違うよお母さん!助けて!」
蒼は必死で助けを求める。
母親はタンスにしがみ付き立ち上がると熊の置物を手に取り蒼目掛けて振り下ろした。
ガツッ!と鈍い音がして蒼の額から血が流れだす。
男は驚いて自分の服を拾い上げると部屋から逃げ出して行った。
「お母さん・・・どうして?」
蒼は襖に寄りかかり呆然として母親に語りかける。
母親は熊の置物を再び振り上げて喋りはじめた。
「あんたもあんたの父親と同じで私から好きな男を奪うんだね!なんで?どうして?!」
狂気と悲しみが混じる目を見た蒼は絶句した。
「私はね好きになった男と一緒になりたいの。なんであんたを産んだのかな?
それが全部の間違いだった。
私はね、あんたの父親が大嫌いなんだよ!好きな男がいたのに!知ってたくせに!
酔わせて正気を失わせて無理やりして避妊もしなかった!
あんたが出来たと知った時、一緒に死のうと思った!
ねえ、今からお母さんと死のう?もう疲れたのよ一緒に死のう?」
蒼は恐怖と絶望と悲しみで心がぐちゃぐちゃになった。
(私は生まれてはいけなかった子。だから死ななければならない。)
「いいよお母さん一緒に死のうよ、私を殺して。」
生きる気力を失った蒼は母親に向けて両手を差し伸べた。
「お母さん、私を殺して。」
「お母さん、私を殺して。」
「お母さん、私を殺して。」
蒼が3度目を言い終えた後、母親は置物を落とし抱き着き泣き出した。
「あんたの目が父親にそっくりの目が大嫌い!でも大好きなの蒼ぃ!
愛してるのぉ!蒼ぃ!」
母親の泣きわめく声の向こうにパトカーのサイレンが聞こえてくる。
その後、警察に保護された蒼は母方の祖父母に引き取られた。
「お母さんはねしばらく入院する事になったのよ。
蒼ちゃん、遠慮しないで何でも私達に相談してね。
お母さんが帰ってくるまで私達がしっかり面倒みるからね。」
祖母は蒼を抱きしめ泣きながら語りかける。
優しい祖父母に守られながら少しづつ心の傷は癒されていった。
母親は虐待の判決をされたが、精神薄弱状態での凶行と情状酌量の余地ありとして酌量減軽をされ病院での治療判決を下された。
半年後退院する母親を迎えに蒼と祖父母は病院を訪れる。
母親は驚いた後、泣きながら蒼を抱きしめ詫びた。
「蒼メガネを掛けたのね。とっても似合うわ。」
度の入っていない少し青色の入ったメガネ。
母親と目が合うと目をつぶってにっこりと笑う。
再び母親との生活が始まった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「あの時は半年以上蒼と会えなくて、もうダメかなと思ったよ。」
小学6年での出来事を思い出し、しみじみと萌葱が話す。
全員がうんうんと頷き、当時を思い出した。
「そう言えばあの時ファーストキスを奪われたって自慢気に話してたよね。」
珊瑚がニヤリと笑い蒼を見た。
夜花子「蒼のファーストキスの相手って渋ツラ筋肉ダルマだっけ?」
茜「あれ?オレはイケメン細マッチョって聞いたけどな!」
珊瑚「違うよ!デブオタクだよ!」
萌葱「あたしはチー牛陰キャって聞いたけど?どうゆうこと?!」
それぞれが別人の話をしたことで疑惑の目が蒼に集まる。
萌葱は蒼にスリーパーホールドを決めて問いただした。
「ええっと忘れちゃった?ほらこの傷のせい!」
蒼は前髪を上げると横に伸びる額の傷を指差す。
萌葱はスリーパーホールドを解くと蒼の頭を抱きしめた。
「今日稽古に行くよね?」
「勿論だぜ!1日でも早く強くならねえとだ!」
萌葱の問い掛けに茜が力こぶを作って即答した。
午前中に学校が終わり一度帰宅して公園で待ち合わせる。
給食の無い日は大抵翌日の昼までひもじい思いをするのだが、運よく客からの差し入れがあったと萌葱がホールケーキを持ってきた。
「貰ったものに何が入っているかしれたもんじゃないからって、大抵は店で捨ててくるんだけどこのお客さんは信用できる人だから持って帰ったんだって。」
貰った母親は糖質制限をしていて手を着けない。
故にこの手の差し入れは萌葱達の胃袋に収まる。
フルーツがたっぷり載ったケーキを手づかみで千切りながら5人で食べた。
「桔梗がいたら大喜びだったろうな。」
指についた生クリームをペロペロと舐めながら珊瑚が呟く。
皆はケーキを前にした桔梗の姿を想像して物悲しくなった。
河川敷に差し掛かると例の中学男子と同じ学校の制服生徒が多数うろついているのが見える。
どうやら萌葱達を探している会話が聞こえてくる。
5人は急いで河川敷から離れ市街地に戻った。
「遠回りになるけどアソコから行こう。」
萌葱の提案で陸橋メンテ用の作業通路を目指す。
フェンスの穴を潜り抜け橋脚のハシゴをよじ登り、ハッチを押し開けると薄暗い通路が前方に延びている。
小学生の頃、探検と称してこの通路を通り対岸迄渡り戻ってくる遊びをしていたが、ある日大きな鳥に威嚇され止めていた。
「鳥さんと遭遇しませんように!」
幸いにも鳥との遭遇はなく無事対岸まで渡り切り、お爺さん宅に着いた時には16時を回っていた。
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