第2話改 爺さんの教えと桔梗のひみつ
お爺さんは昔とある大きな道場の師範であったが身内とのいざこざがあり、出奔した現在は河川敷でホームレスをしながら、自由気ままに人生を謳歌していた。
「気ままなのは良いが金が無くてな、いつも腹ペコだ。」
「そうか!オレ達と同じだな!」
茜はお爺さんに懐いたようで何かと腰に抱き着いてスキンシップを求めている。
お爺さんは特に気にするでもなく好きにさせていた。
潜水橋を渡った対岸にあるお爺さんの自宅(ブルーシートハウス)前で修行が行われことが決まる。
時間は13時から16時までの3時間の予定だが、もっと長い時間を要求するも食料調達時間の確保を理由に断られた。
お爺さん同伴で市街地に入るとそこでお別れをする。
茜は何かと渋ったがお爺さんの「また明日」とハグで機嫌を直した。
「蒼、あいつら明日来ると思う?」
「どうかな・・・お爺さんにビビッてたから来ないかもね。」
街灯に照らされる夜道、珊瑚は蒼の腕に抱き着きキョロキョロしている。
「なんだ珊瑚!怖いのか!?」
「当たり前でしょ!レイプされそうになったんだよ!茜は怖くないの?!」
「怖かった!すげえ怖かった!
けど、あんなクソ野郎どもに好き勝手された事がめちゃくちゃ悔しい!」
怒りと悔恨で地団駄を踏む足元に涙の雫がぽたぽたと落ちた。
「私も凄く悔しいし弱い自分が許せない!
だからこのままでは終わらない!
アイツらに地獄を見せてやりましょう茜!絶対よ!」
萌葱は茜を抱きしめると共に涙をこぼした。
夜花子は桔梗の手を引きながら涙を流し鼻をずるずると啜っている。
ただ一人、桔梗だけが泣いているみんなを見て不思議そうにしていた。
「じゃあね、また明日!ばいばい!」
団地に着くとそれぞれが自分の住む棟に帰っていった。
5階までの階段をゆっくりと上がっていく桔梗の足取りは重い。
足音を立てないように静かに静かに足を動かしながら「帰りたくないなぁ」と呟く。
ドアノブをそっと回すとカギが開いていることが分かり一気に気が重くなる。
鉄の扉が音をたてないよう閉め、忍び足で自分の部屋に入ろうとした時に声をかけられた。
「桔梗ちゃんお帰りぃ~待ってたよ~」
二十代のチャラ男がリビングから出てくると桔梗を後から抱きしめ乳房を揉みしだいた。
「け、健司さん、ただいまでち。」
男は桔梗の怯えた様子を感じとり更に強く乳房を揉みしだいた。
健司は母親の恋人であり同棲相手である。
無職だが家事をこなす専業主夫であり、母親の稼ぎでギャンブルを楽しむ「ヒモ」であった。
「ママはお仕事行ったよ、もう2人きりだからね。今日もいっぱい愛し合おうね。
さあ、ご飯を食べてお風呂に入っておいで、9時になったら部屋に行くから準備しておくんだよ。」
桔梗は小さく頷くと言われたままに従った。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
桔梗と健司の関係は数年前に遡る。
無職である事以外は良い父親役であった健司を桔梗は大好きだった。
家事をしてご飯を作って勉強も教えてくれた。
お風呂もいつも一緒に入っていた。
その関係も桔梗が初潮を迎えた日に変わってしまった。
3月の終わりに初潮を迎えた桔梗は母親よりも先に健司に報告をすると、とても喜んで母親のナプキンを持ち出し使い方を教えた。
「桔梗ちゃんは僕が好きかい?」
「うん、大好きでち!」
「じゃあ僕のお嫁さんになってくれるかい?」
「えー健司さんママのダンナさんでちよ。」
「違うよママとはただのお友達なんだ。」
「お友達でちか!じゃああたちお嫁さんになれるでち?」
「勿論だよ!僕は桔梗ちゃんをお嫁さんにしたいんだ!」
「わかったでち!あたちお嫁さんになるでち!」
「じゃあこれから僕達の結婚式をしようね。
桔梗ちゃんとこれからすることはママにも友達にも秘密だよ。
言ったら僕は桔梗ちゃんとお別れすることになるからね。
絶対に誰にも言わない二人だけの秘密を約束できるかな?」
「約束するでち!絶対に言わないでち!二人だけの秘密でち!」
健司はにやりと笑うと桔梗を抱き上げ彼女の部屋に向かった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
あたちは健司さんのお嫁さんになったでち。
「ひみつ」はとても痛かったけど我慢したでち。
お股から血がいっぱい出たけど、ママには生理と言って健司さんが話したでち。
ママは「おめでとう」と言って喜んでくれたでち。
それからは夜にママがお仕事に行くと、健司さんと「ひみつ」をしたでち。
健司さんが「夫を喜ばす」方法をいっぱい教えてくれたでち。
一生懸命覚えたでち。
健司さんの赤ちゃんが欲しかったけど、まだ早いと言われて「ひにん」したでち。
「あんぜんび」は「ひにん」せずに「ひみつ」をしたでち。
あたちは「ひにん」しない方が気持ちよくて好きでち。
でも、ママに「ひみつ」がばれたでち。
ママは「ひにん」を見つけて健司さんとケンカしたでち。
そしたらママに「ドロボウねこ」って怒られて殴られたでち。
いっぱい殴られて次の日も次の日もまた次の日も学校をお休みしたでち。
萌葱ちゃん達がお見舞いに来てくれて私を見てびっくりしたでち。
すごく心配してくれたけど、本当のことは言わないでウソを言ったでち。
本当のことを言ったら、ママが悪く言われると思って怖くなったでち。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
桔梗と健司の関係は解消されたかに見えたが、それは健司が母親とのお努めを優先している期間だけだった。
夏休みエアコンの無い桔梗の部屋は蒸し風呂のようで、時に下着姿で一日を過ごす。
そんな時は誰かに監視されているような気がしていた。
その日は六花と市営プールで思い切り遊び、帰ると誰もいない解放感から裸になり疲れでそのまま寝てしまう。
下腹の異物感で目を覚ますと健司の顔を間近に見て思わず悲鳴を上げた。
「健司さんやめて!ママにまた殴られるでち!」
桔梗は母親に折檻された恐怖を思い出し泣きながら止めるように懇願した。
「大丈夫だよ桔梗ちゃん。
もうゴムは使わないから。これからは毎日「生」で愛し合おうよ。
ちゃんと外に出すから安心して。」
「ダメでち!赤ちゃんできるでち!」
桔梗は夏休み前に習った保健体育の授業で性の知識を学んだ。
赤ちゃんを作ることは簡単でも育てる事は難しいと知った。
「いいですか!外だしは避妊にはなりません!カウパー液でも妊娠します!性交時には必ずコンドームを着用するように!」
先生の真剣な表情を思い出し妊娠の恐怖に怯える。
「赤ちゃん出来たらママにばれるでち!また殴られるのイヤでち!」
桔梗は逃れようと抵抗し暴れた。
途端、健司の顔が豹変して桔梗の首を絞める。
呼吸を止められ息ができない桔梗の顔色が赤く染まる。
「いいぞ!凄い締め付けだ!ババアとは比べ物にならねえ!
やっぱ親子だな!首絞める途端に具合が良くなるぜ!」
興奮した健司は更に首をきつく締め、腰を叩きつけた。
窒息状態の桔梗の頭の中が真っ白になっていく。
健司の蔑んだ言葉が遠くで聞こえる。
舌を突き出し必死で空気を求めそのまま気を失った。
明け方カラスの鳴き声で目が覚めると夏掛けが被せられている。
意識がはっきりして昨晩のことを思い出す。
股間に指を入れると白濁した液が絡み着き必死で掻き出す。
恐怖と絶望で声を押し殺して咽び泣いた。
この日以降健司の無責任かつ無慈悲な強制猥褻行為が続き、桔梗の心は次第に壊れていく。
やがて殺意が芽生えていきその日が来ることを心待ちするようになっていた。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
運命の分岐の翌日、六花は指定された時間丁度にお爺さん宅を訪れる。
お爺さんは道着を着て現れ六花の歓声を浴びた。
「気を扱うには長い修行が必要だ。
基本は呼吸にあり、これを習得しないことには始まらない。
呼吸によりチャクラを回し気を体に巡らせる。
大切なのは想像力でありイメージトレーニングだ。」
六花は呼吸法を学びチャクラを回すトレーニングを始めた。
30分ほどイメージトレーニングを行った後、水を張ったバケツに気で波紋を作る練習を行うが誰も成功しなかった。
「では、簡単な身の守り方を教えようか。」
がっかりと気落ちする六花の気分転換に体術の練習を始める。
腕を取られた時、胸元を掴まれた時、羽交い絞めをされた時、押し倒された時の対応をそれぞれ体験してから二人一組で反復練習を開始した。
最初のうちは下手なダンスにしか見えなかった組手が、短時間で着実に上達していく様子を見て驚きのあまり目を丸くした。
「お主ら凄いな!驚いた本当に初めてか!」
「あたちら天才かもしれないでち!Kー1目指すでち!」
「なんかさ動き方を思い出すみたいな変な感じだよね!いたた!ギブギブ!」
特に目覚ましい上達を見せる桔梗が、今迄見せたことの無い素早い動きで珊瑚の関節を決めた。
アッという間に終了時間となり、お褒めの言葉と共に頭を撫でて貰うことで六花のヤル気が更にヒートアップしていた。
最後に拳の作り方を教わり修行初日は終了した。
「最初は痛いかもしれんが指をよくストレッチして慣らすんだ。」
六花は「はい」と元気よく返事をすると、「ありがとうございました」と礼をして河川敷を後にした。
桔梗が何時ものようにそっと家に帰ると、まだ母親が出勤準備中で健司は現れない。
桔梗は急いで入浴し母親の前で夕食を済ませると部屋に戻りベッドに潜り込んだ。
夏休み最終日の朝、目覚めて体に異常が無い事を確認するとリビングを覗く。
テーブル上には朝食として用意された菓子パンが置かれている。
どうやら健司はパチンコに行ったようで人の気配は無かった。
そろそろ母親が帰宅する時間になる。
桔梗は菓子パンを巾着に詰めて家を出た。
公園に行くと六花の面々が桔梗を待ちわびている。
いつもの東屋で持ち寄った食料を分かち合いおしゃべりをはじめた。
修行の時間になりお爺さん宅を訪れる。
修行をはじめる前に今日で夏休みが終了することを告げ、平日の修行時間について相談を持ち掛けた。
「そうか夏休みか!儂は毎日が夏休みだから考えておらんかった!」
日によって下校時間が変わる事と終了時間を伸ばして欲しいと要求すると、1時以降なら何時でも構わない、終了時間は5時にすることで折り合いを付けた。
「あと、その、やっぱり月謝が必要でしょうか?」
午前中のおしゃべりの中で習い事にはお金を払うのではと話題になり、お爺さんの意見を聞くことに決まった。
「貰えるにこしたことは無いがお主ら金を用意できぬであろう?」
ここは正直に「はい」と答えた。
「ならば出世払いで構わんよ。」
それを聞いた六花はホッと胸を撫でおろした。
修行は昨日と同じ内容でお爺さんは「毎日積み重ねが肝心」と諭した。
気で波紋を作ることはまだ達成しなかったが、組手は2日目と思えない位に上達し既に素人の域を越えていた。
帰り際に褒めてもらい頭を撫でられ気を良くした六花は、何故こんなに褒めてくれるかを尋ねてみた。
「儂の教育モットーは褒め散らかして伸ばすだ。」
今迄人に褒めて事のなかった六花は感銘を受け、その言葉を胸に刻んだ。
「お爺さん人を殴るコツを教えてくださいでち。」
桔梗の質問に六花はギョッとしお爺さんは笑った。
「なんだ殴りたい相手がおるのか?」
桔梗が力強く頷くのを見て腰を降ろし同じ目線で語りかけた。
「迷いを捨てることだ。殴った後の先に何が起きるか考えないこと。無心になれ。」
桔梗のみならず全員が頷いた。
桔梗が家に帰ると早速健司が現れ11時と言いリビングに戻っていく。
母親のパンプスがありリビングに姿が見えないことからまだ就寝中らしい。
桔梗は風呂に入り夕食を済ませ11時になるのを自室で待った。
母親が出勤した後11時きっかりに健司が訪れる。
桔梗は椅子に座りひたすらチャクラを回すイメトレに集中していた。
健司は桔梗を背中から抱きしめ乳房を乱暴に揉みしだく。
(羽交い締めにされた時には相手の鼻っ面に自分の後頭部を叩きつけて鼻を潰せ。)
爺さんの教え通りに髪の匂いを嗅ごうとする健司の鼻っ面に思い切り後頭部を叩きつけた。
「ぐがぁああ!」
痛みでもんどり打って倒れる健司の肩に両膝を叩きつけて肩の関節を外す。
「ぎゃあああ!」
痛みで悲鳴を上げる健司にマウントポジションを取り拳を作る。
「ヤメロ!」
桔梗は戸惑うことなく右の拳を前歯に叩きつけるとあっけなく折れ拳が裂け血が滴る。
「痛いでち!でも、気持ちいいでちぃぃぃ!」
SEXの何倍もの快感を与えてくれる感覚に目の輝きを失い体をブルッと震わせる。
健司が怯え許し乞うがかまわず左の拳を血塗れの口に叩きつけた。
「あたちの痛みを苦しみを思いちれ!」
血の滴る両の拳で健司の顔面を滅多打ちにすると血が飛び散り部屋中が血痕で汚れる。
殴り続け疲れ果てた桔梗はベッドの上に仰向けになる。
健司を見ると時折体をビクリとさせるが立ち上がる気配は無い。
肉が裂け血が滴る拳を見上げる。
血が自分の顔に落ちるのも気にならない。
口元の血を舌で舐めとる。
「へへ、しょっぱいでち。」
感慨に耽っていると玄関から物音が聞こえた。
「今日、暇すぎて早じまいしちゃった、誰かいないの?健司!桔梗!」
リビングで母親が呼ぶ声が聞こえる。
「まさか!あんた達、性懲りもなくヤッてるの!」
母親が桔梗の部屋に駆けこんできて照明をつける。
血塗れで倒れる健司とあちこちに血が飛び散った部屋を見て、腰を抜かしその場に座り込んだ。
「ママ、お帰りなさいでち。」
疲労で動くこともままならず天井を向いたまま言い放った。
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