ジャンたちの部屋

「えぇ……ええ……!?」

 目の前でとんでもないことが起きている。

「うまいかーライラー」

「縺�∪繝シ縺�€ ら函縺崎ソ斐k繝シ(うまーい。生き返るー)」

 ジャンさんは虚無顔だ。まあ、こんな顔になるのも仕方がない。僕の、目の前で、ライラの後頭部がぱかっと開いて、さっきの錆虫を細かくしたものを全て流し込んでいたのだ。

「これだけ食ったら一か月は行けるな」

 ガシャンと音を立ててライラの後頭部が閉じられた。

「貅€ 閻ケ繝シ縲ら悛縺��縲ょッ昴k繝シ(満腹ー。眠いー。寝るー)」

 キイィィィィィィィィィィィィン………

 ゆーっくりと長く音が響いて、ゆーっくりと音が消えていくころにはライラは寝入ってしまった。ジャンさんはライラの布を口を覆うように巻いて横にする。

「またあれ出されちゃやべえしな……」

とジャンさんが呟く。よく見たら汚れていたはずの髪の毛も一新して綺麗になっている。床を見ると針が何本も落ちていて、ジャンさんはそれら全てを慎重に拾っていた。……生え変わったのだろうか?

「さって、何から話すかなー、あ、これどうなってるかわかる?」

 さっきの短刀を嬉しそうにとりだした。これの解説をしたくてたまらないらしい。

「こいつはな、俺お手製の錆虫特攻の剣だ。鞘の中にあらかじめ錆虫特攻のすごく強いクエン酸を仕込んで、剣にエンチャントする!自慢の一品」

 すごく子供のようにわくわくしながら話している。

「って違うか。うん、あいつの話の続きか。そこで一回途切れたし」

 そういってジャンさんはライラとの出会いの話を始めた。

 十年ほど前。ジャンさんは今も変わらず旅人……ではなく、遺跡調査を生業をしていた。

 行く先ですることはやっぱりそういう気質なのか、人助けを好んでやっていたらしいが、あくまでもメインは遺跡調査だった。

 ジャンさんはそこで誰も奥に到達したことのない、界隈では有名な遺跡に挑んだ。内装は青白い光が美しく、さらに原理が全く分からない仕掛けであふれていたらしい。しかし当時のジャンさんは本当に知的好奇心が強く、様々な知識を駆使して仕掛けを解き、ついに最深部に到達したらしい。

「今になっちゃ、昔ほど冒険家!って感じじゃなくなったけどな」

とジャンさんが言う。いや、楽しそうに旅の話をするジャンさんは十分に冒険家な気がするけど。

 最深部の石盤には、古代の文字でこう書かれていたらしい。

『これは、私が作った全ての元凶にして、全てを救うもの。ここにたどり着いた者は、これを導いてほしい』

 そして目の前に、青白い光に包まれたライラが眠った状態でゆっくりと降りてきたそうだ。

 ジャンさんはライラをなんとか捕まえて、そして石盤の続きを読んだ。

『非常に醜い姿のはずだ。これはこの城を出た途端に目覚め、城は崩壊する。これの名はライラ。どうか……これに幸せを』

 醜い姿というのに気になった。すごくきれいなのに。どうして醜いといったんだろう。気になってそれをジャンさんに聞いた。

「それは……まあ続きあるんだけど……うーん、人の闇に触れるなあ……でもまだ若いしなあ」

 妙に言いよどむ。ここまでされちゃ気になって仕方がない。

「わかった。うん、話す!ただちょっと大人の階段を上るぞ」

 ジャンさんはさらに続きを話した。

『p.s.やっぱりこのままの見た目はきもすぎるので、見た目改造しときました。いや別に自分そういうのじゃないんですけど?一応ね?』

 ん?いきなり口調がフランクになったぞ?

『元の機能はそのままだけど思いっきりかわいくしてみました^^殺傷能力の高い針は潤しいくらいにつやつやでさらさらな銀のロングに!これだけでもうね!やばいよこれ自分で言っちゃうけど!スケールも元のでかさがなんか非常によろしくないのでコンパクトに!……やっば自分で作っといてあれだけどこれイケナイ気分。背徳感マシマシ罪悪感カタメ。銃はどうすっかなーってなって腕につけようかって思ったけどあえてベロにしてみましたー^^未知の開拓!刺さるやつには刺さる!……多分!ここまでかわいくしたから中身もかわいくしたいよね。とりま自分のことは自分の名前で呼ばせよう。無邪気でピュアッピュアにしとくかあ!いや、少し S なのもいいのでは…?あとで変えとこう。それはそれとしてこの子の動力源は錆虫です。錆虫意外と舐めたもんじゃないね。いやペロペロしてないけど。すげえパワーを発揮するのでいざという時は銃でぶっぱなしてくださいな!んじゃ!私は彼女を残して去る。頼むぞ、探究者よ』

「いやジャンさんこれ結構自分で言ってるんじゃ」

「いや違う!俺の言葉じゃねえ!ホントにそう書いてたんだよ!」

 必死に訂正するジャンさん。じゃあ……違うのかな……

 今になってわかるけどライラを設計した人は本当に変態だと思います。ええ。

「まあこれが俺とライラの出会いだったというわけです……」

 目を合わせてくれない。やっぱり話したことに後悔しているんだろうか。僕でもなんで話したのと今なら聞きたくなる。

「……よくわかんないけどそうやって会って十年も旅してるんですね」

「ライラ作ったやつにああいわれた以上、世話は見ないといけないしな。俺が死んだらどうなるか心配だよ」

 頬をつきながらライラの寝顔を眺めるジャンさん。……やっぱり普通の女の子として見ればすごくかわいい。なんかすごく悔しいけど。

「そういえば、ジャンさんってすごく気のいい人ですよね」

「え?まじ?へへ」

「なんでそんなに優しいんですか?僕、ジャンさんみたいに誰にでもよくできる人あったことないです」

 僕の家族は優しいほうだとは思うけれど、それでも助け合いを引率してできるほどじゃなかった。いつだって自分たちのことで精一杯だった。

「うーん……なんだろうな……そういうようにできてるんかな」

「できてるって?」

「生まれた瞬間からこうなんかなって。多分、俺の機械がそうさせてるのかもしれないな」

 そういえば、ジャンさんの体には機械が見当たらない。どこなんだろう。

「ジャンさんの機械ってどこにあるんですか?」

 正直、失礼な質問だったかな、と今だと考える。

「俺のはな、ここだ」

 ジャンさんは指でこんこんと、自分の頭を叩いた。

「え…それって」

「おう、脳みそ。俺は生まれて弱かったのは、ここだったらしい。ひでえ話だよ、ほんと」

 ふうっとため息をつく。

「俺も疑問に思う。なんでこんなに俺は人当たりがいいのか、いろんなことを知りたいってなってたのか。誰も教えちゃくれなかったが、この脳が、あらかじめそうさせるように設定してるからかもしれねえ。それがいいことなのかダメなことなのか…はあんまわからんけどな」

 聞いてはいけない問題だったのかもしれない。そう、脳が……僕はジャンさんに憧れの念をいだいていたけど、それが正しいことなのかわからなくなって、少し、寂しくなった。

「でもさ、少年。俺はお前のことすげえと思うよ」

「え?」

「ガキの頃の俺にそっくりだ。俺みたいに脳をいじらなくても、すげえいろんなことに興味を持ってる。いろんなこと知るの、好きだろ」

「……はい、すごく」

「その気持ち、いつまでも持っとけよ。わざわざ脳を機械にしなくたって、お前は昔の俺みたいに好奇心を持ってる。将来は学者さんコースじゃねえか?」

 なんだか思ってもみなかった未来に背中を押された気がした。この一言がなかったら、多分今の僕はいないんじゃないかな。

「よし寝るか!お前もこんな時間まで起きてたら頭わるくなるぞ~?」

「えっ……!早く寝なきゃ!」

 僕は急いで自分の部屋に戻ろうとした。

「ジャンさん!明日ももっと教えてください!」

「おう」

 そうしてその日は眠った。

「……ふう。……旅、ねえ」

ガサッ

「はは、昔の俺が書きまくった旅のガイド……これあげるかな」

……ズーッ、ズーッ……

「ッ!痛……ふう」

すーっ……すー……

「……繧ク繝」繝ウ縲��ュ縺ョ骭�€ ��縺上↑縺」縺ヲ繧�(ジャン、頭の錆、酷くなってる)」



—————あれ、なんか、もっと、苦しい。すごく……痛い———————


「……タイミングは最悪だが、仕方ない。これから生まれるやつを倒せるやつはいないはずだ」

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