その夜
「へえーそんなことが!いやありがとうございます本当に。息子がお世話になって」
「いやいやいいんですって!こういうの旅してたらしょっちゅうありますから!」
仕事先から僕の父が帰ってきて、今日あった出来事を話していた。父もすっかりジャンさんと仲良くなっていた。
錆虫を倒した後、ジャンさんは町の人たち全員にすごく感謝されていた。中にはお礼にと、数少ないはずの食料を持ってきた人もいたが、ジャンさんは間に合っているからと断った。むしろ、
「あれ、おじいちゃん、腕錆びてますね。ちょっと診ますねこれ」
といった具合に、次々にいろんな人の機械を見ては治していったのだ。人口が少ないといってもこれほどたくさんの人を診ることができる気前の良さと甚大な体力。そして持っていた薬の多さには本当に驚かされる。結果として町のほとんどの人を診つくし、家に戻るのは日が暮れるころになってしまった。その間ライラは退屈そうにしていて、僕は……話しかけようとしたけど、さっきのでびびってしまってできなかった。
その日の夜も料理はジャンさんがふるまってくれた。寒いからと、シチューを作ってくれたのだ。やっぱり美味しい。食べてる間もジャンさんはいろんな話をしてくれた。過去に行ったという遺跡の話、強くて手こずった錆虫の話を。
こうして話しているうちに僕は気になった。どうしてこの人はこんなになんでもやってくれるんだろう。世の中の人はむしろ、機械や食べ物を奪い合っているのに。いや、それは貧しいから起きることで、ジャンさんみたいに食べ物も薬もたくさん持っている人は何事にも余裕をもって取り掛かることができるのかもしれない。
後でまた、ジャンさんに話を聞きに行こう。
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