対 錆虫
町中で蜘蛛の姿をした、汚れた赤銅色の大きな生き物が一体、家々の中を物色しては壊して回っている。このころ僕の町ではこのような蜘蛛型の錆虫が現れては人々を襲っていた。次々と家から出て逃げ惑う人々。その中に一人、当時の僕よりさらに幼かっただろう女の子がいて、つい転んでしまった。女の子は恐怖でなかなか起き上がれない。
すると錆虫が女の子に気づいた。このように狂暴化した錆虫は、もはや目に入るものをなんでも好物の錆とみなし、食いつくそうとする。それは狂暴化した虫の目の色が赤銅色となり、見えるもの全てを錆と認識してしまうからだ。
「うわーん!」
泣き叫ぶ女の子。寸前まで迫った錆の大蜘蛛。蜘蛛は前足を大きく振り上げた。
バキン!
その刹那である。
蜘蛛が振り上げた前足はゆっくりと節から切れていった。
蜘蛛が攻撃を受けた方向を見ると、そこにはライラが立っていた。すると一気に蜘蛛に間合いを詰め、飛び蹴りを食らわせる。怯んだ蜘蛛に隙を与えず、次々に蜘蛛を囲むように殴りつけていく。しかし女の子に不意に当たってしまうのではないかとヒヤヒヤするほどに熾烈を極めている。女の子はもはや声もだせず、動くこともできない。すると蜘蛛が体制を変えようとして女の子に近づこうとした。危ない!女の子に攻撃が当たってしまう!
そのまた刹那。
瞬きの間に一人の男が女の子を抱きかかえ、戦闘から離れた位置に避難させていた。
「おいライラァ!あぶねえだろ!少しは周り見てからかかれってこれで言ったのは何回目だ!?嬢ちゃんあっちいってな」
ジャンさんだ。女の子はゆっくりうなずいて町のみんなが逃げていったところに向かった。
後ろから僕も息を切らしながら到着する。
「少年!そこから絶対に動くなよ!」
ジャンさんはそう叫ぶと両手で鞘と柄をつかみ、目の前に突き出す。
「抜刀!」
そして勢いよく引き抜いた。すると鞘から水しぶきが。剣先から透明な液体が滴り
落ちている。そして一気に蜘蛛に近づく!……が。
「ぬっ……おい!ライラ!ちょっ……危ないから!……お前一回落ち着け!どいて!俺がいけない!いけないから!」
あまりにライラの勢いが強すぎてジャンさんは近づけていなかった。ジャンさんの声を聴いてライラの動きが止まる。
「縺阪e縺�¢繝シ縺�€ ゅ�縺�←繝シ縺槭€ �(きゅうけーい。はいどーぞ)」
「ったく、ほんとにマイペースだな……っしゃあ!」
威勢よく、そして力強く踏み込み、斬撃を頭部からたたきつける!蜘蛛はきぃーっ!と泣き、一気に弱まる。
「もう一発!」
今度は横から殴るように刺す!狙ったのは複眼。蜘蛛の体がぐらつく。
「っよいしょっと!さあて次はどこやったら落ちるかねえ。……たらふく食った分反省しとけよ!」
腹部に向かって一刀。これで完全に蜘蛛の動きは止まった。恐らく完全に死んだのだろう。
それにしてもライラの素早い攻撃に対して、ジャンさんの攻撃は力強かった。確実に殺そうとしていて少し怖かったけど……
「すごい…あいつを倒すなんて……!」
つい一言漏らし、ジャンさんの元に行こうとした。ジャンさんは余裕そうに蜘蛛に対して背中を向けている。
ところが。
「っ!?ジャンさん後ろ!」
あの大蜘蛛が起き上がり、口を大きく開け襲い掛かった。ジャンさんは気づいていない。食べられてしまうと思い、目をつむってしまう。
……しばらく音がなかった。僕は何が起きたか、恐る恐る目を開けて確かめた。
なんということだろう、ジャンさんは無事だしまだ余裕ぶっている。そして蜘蛛は口を開けたまま止まっている。
なんとライラの銀色の髪が、一気に逆立ち、蜘蛛の口から喉を貫いていた。
ジャキンッと突き刺すような音を出してライラは頭ごと引っ張るように無数の針を抜いて、今度こそ大蜘蛛は倒れ伏した。
「……はい!じゃあ食べやすいように解体だ。これでしばらくは持つだろ」
「縺�∴繝シ縺�シ�(いえーい!)」
ジャンさんは食事の挨拶のように手を合わせ、ナイフで蜘蛛をパーツごとに分解していった。ライラは蜘蛛の血や唾液でべっとりした鉄製の髪の毛をふわふわと靡かせながら何度も飛び上がり喜んでいた。
キーン♪キーン♪キーン♪
さっきの音より格段に大きい音が、人が消えた町中に響いた。
ズキン。
———————あれ、まただ。嵐のときと同じような感覚がする。
……でもさっきより弱いし、これくらいのことはいつもあるから大丈夫——————
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