ライラ
身長は当時の僕と大体同じくらいの女の子だった。まず特徴的なのは、銀色の長い髪の毛。それが家の窓から入った太陽の光に当たってキラキラしていた。
口から足までは何年も使っているような布切れで覆いつくしていた。いかにも旅の途中のような姿だった。
「あーっとー……」
ジャンさんが立ち上がってその子に近寄った。その子の背丈に合わせてジャンさんはしゃがんで、小さな声で何か話し合っているようだった。一体何を話しているんだろう。
あの子とジャンさんが話している間、ほんの小さくではあるけど、さっきのキーンという音が聞こえてきた。あの子から発せられているのだろうか。
するとジャンさんがこっちに戻ってきて、
「いやーすいません、ちょっと急用が。あ、炒飯少しは残ってるんで、どうぞお好きに」
と言ってその子を連れて母が貸しているらしい空き部屋に向かった。そのとき不意にその子がこっちを向いた。
またドキッとした。うん、もう見惚れてたな、この時の僕は。でも恋心というものをまだわかっていなかった僕が真っ先に考えたのは、炒飯食べたいのかな?ってことだった。
食後の片づけの時。母が自分の皿を洗っている時。
「お母さん、残りの、貰っていい?」
「いいよー、先生しばらくここに滞在するらしいし、なんならご飯も作ってくれるって!お父さん仕事から戻ってきたら驚くわあ」
僕は残りの炒飯をよそってもらってすぐにジャンさんたちがいる空き部屋に向かった。そしてドアの前。勝手に入るのは申し訳ないかなと思っていたのか、ドアに耳を押し当てて部屋の音を聞いてみた。今だと本当に失礼なことしてるなとは思うが、ここは一つ、子どもだったことに免じて許してほしい。部屋からはジャンさんの声と、女の子の声なのか、会話が聞こえてきた。
「…ちょい待てって。えーと…ん。虫切らしてる。出るかなこの辺り。聞かないとわからんな」
「……!………?」
ジャンさんの声はうっすらと聞こえるけど女の子が何を話しているかわからない。というか何か、声の調子が変だ。なんというか、電子音声、なのだろうか。
「…わかったから。待っとけって……痛い痛い!ホントそれやめてくんない!?」
おとなしい子なのかなと思ってたけど、やんちゃなのかな。
するとジャンさんの足音が徐々に大きくなって、僕はドアから離れた。するとジャンさんが出てくる。僕はドアに隠れる形になっていたのでジャンさんに見つからなかった。そしてこっそり部屋を覗く。
空き部屋だったから前に見たときは埃が被っていたけど、母が掃除したのだろうか、わりかし綺麗にはなっている。それでも物が大量にあって片付いていないわけだったけれど。見慣れないものが数多くあったがおそらくジャンさんが持ってきていたものだろう。ジャンさんの旅道具がたくさん入っていそうなリュックサックの上に、あの子がちょこんと腰かけていた。
「……ねえ」
僕はこっそりと話しかけた。するとあの子が気づいて目がこっちを向いた。
「ジャンさんがおなかすいてないって言ってたけど、これ…食べたかったりする?冷めてるけど」
女の子がリュックから降りてささっと近づいてくる。
「あっ…僕ショウタっていうんだけど、君は?」
「繝ゥ繧、繝ゥ(ライラ)」
「……え?」
「縺�d縺�縺九i繝ゥ繧、繝ゥ(いやだからライラ)」
「あっ……えっ……ん……?」
全くわからない。どこの言語だろうか。
「あ、えと……食べる?」
「繝ゥ繧、繝ゥ縺昴l鬟溘∋繧後↑縺�s縺�縺代←(ライラそれ食べれないんだけど)」
「えーっと……」
話しているとキーン、キーンと鳴るからやっぱりあの音はこの子のだったんだなとは思ったけど、何を言っているのかさっぱりわからない。こっちの言葉はわかるのだろうか。
すると僕は何を思ったか、スプーンで炒飯をすくい、前に差し出した。
「……食べる?」
「縺��繧凪ヲ窶ヲ隕九↑縺阪c繧上°繧薙↑縺�°縺ェ��(うーん……見なきゃわかんないかな?)」
すると女の子は口元の布をおろした。僕はまたまたドキッとした。すっごく小顔。美人さん。
女の子は食べようとしたのか口を開けた。これはいわゆるあーんってやつです。はい。ちなみに僕は今になっても女性とそういうお付き合いをすることはないわけなんだけど、あーんは経験済みなのでした。ごめんなさい同志たちよ怒らないで。
僕はそのままゆっくりとスプーンを口に近づけた。
すると。
ガシャン
「ん?」
何かが口の中から生えてきた。なんだろうこれは。少し変な間が生まれた。しかしよく見てみると、何か…黒い筒に見える。本とか隣街の街頭テレビでみたことがある。これは……機関銃だ。
「うぇえっ!?」
びっくりして腰を抜かした。本やテレビで見ていた危険なものが、寸前にあった。本当に一瞬黄泉の国が見えた。
「縺サ繧後⊇繧後←縺�□諤悶>縺�繧搾ス�(ほれほれどうだ怖いだろ~)」
「ひいぃ!?」
女の子はにっこりして僕の顔にぐっと近づいた。キーンという音もテンポよく、キン♪キン♪キン♪と鳴っている。ぐう、怖い怖い!僕の恋心は一瞬にして恐怖心に進化してしまいました。
そこに、
「ライラ…何やってんだお前え!?」
ジャンさんが顔色を変えて戻ってきたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます