食事

「ホントにすみません助けていただいた上にご飯まで…」

「いや全然大丈夫ですって。俺料理得意っすから。それに最近全然食えてないんでしょ?いっぱい食べて力つけなきゃダメっすよー」

 自前で持っていたらしいぼこぼこな中華鍋の上で、色づいたお米と具材が波打っている。

 旅していたこともあってか、色々なスキルを身に着けていたらしい。僕を治した技術も旅の中で身に着けたんだとか。うちには食べ物を加熱するような道具もない。いや、あったとしても動かせなかった。僕の故郷は廃工場が多い町だった。僕らはその中の一つを改装して使わせてもらっていた。しかししばらく使われていた痕跡もなく、そこの機械もほとんどが古びていて使い物にならなかった。

 そこでジャンさんはどうやって火を使っているかというと、今で言えばなんとも原始的と言われそうな方法だ。燃えやすそうなものを集めて石を打って火をつけている。まあこれだけなら僕ら家族も何度かやってはいたんだけど、どうしても時間がかかるし、火もなかなか大きくならない。しかしジャンさんのは違う。石をたった一度こすっただけで火をつけ、さらに連続する手際のよさで火を一気に激しくさせたのだ。

「すごい…!どうやってるんですか、それ!」

 ついつい気になって料理しているすぐそばで聞いてしまった。

「おいおい火強いからあんま近寄んなよ!この火はな、そもそも石がちげえんだ。さっき使ったのは火石っつってな、旅の中で拾ったんだ。んで…」

安定して鍋を振るわせながら自慢するように説明する姿は傍から見ればかなり危なっかしく見えるが、僕はジャンさんの話に夢中で結局火から離れることは無く、ジャンさんもついつい楽しくなって料理の完成までずっとその状態が続いた。

 そしていよいよ完成!ジャンさんお手製のアツアツ炒飯だ。ジャンさん愛用の胡椒も振りかけて香ばしい匂いが漂っている。人生で初めて炒飯を食べた。というかこんなに美味しいものも食べたことなかったし、こんなにたくさん食べることもなかった。それ以来好きな食べ物はと聞かれたら僕は真っ先に炒飯と答える。今でもいろんなお店を巡ったりするけどやっぱりあの瞬間の感動を超える炒飯には出会えない。自分でも作ろうとして記憶を元にジャンさんと同じ素材、中華鍋もわざとぼこぼこにしたりはするけど、やっぱりあの時のものが一番おいしい。初回限定の感動だったのかもしれない。

「はは!そうかそんなにうまいか!……ほらほらそんなにがっつくなよ照れるって」

 スプーンに一杯、口に入れるとその瞬間広がるパラパラのお米と卵、ニンジン、玉ねぎ、そしてそこに胡椒も加えて完成された絶妙なハーモニー。すぐおいしい。すごくおいしい。。

「本当美味しいですジャンさん!僕こんな……あむっ!」

「こらショウタ!食べながら喋らないの!…でも本当に美味しいです。こんな豪勢なものをいただいてしまって」

「いえいえ、そんなに喜んでくれたんなら俺も料理のし甲斐があるってもんですって!」

「んっ……ごくん、ジャンさん、他にもこんな美味しいもの作れるんですか?」

「おーめちゃくちゃいけるぜ。だてにいろんなところ回ってきたからな。ラーメン、フレンチ、ハンバーグ…とにかくめっちゃある」

 指を一本ずつ折りながら楽しそうに話すジャンさん。僕はジャンさんの旅のことも気になって仕方なかった。

「ジャンさん!後で旅のことたくさん教えてください!」

「おお、いいぜ。どんとこい!」

 すると母が尋ねた。

「そういえば、先生。連れてきてたあの子にはあげないんですか?」

「あの子?……あー、えーっとね、あいつあんまり食わないっていうか、いや食えないっていうか、なんていうか」

 あの子とは誰だろう。そう思うとどこかで聞いたような音が耳に入ってきた。

キーン…キーン…キーン…

 その音のする方を振り返った。

 ドキッとした。さっきまでのジャンさんへの興味が一気に塗り替えられた。多分これが、幼かった僕の初めていだいた恋心だったんだと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る