家にて

「ん……うーん……」

「ショウタ!?大丈夫!?ちょっと今水を……あ、あと先生を呼んで来なきゃ!待っててね!」

 意識が戻ってゆっくり目を開けると真っ先に聞こえてきたのは母が慌ただしくドダドダと走る音だった。砂嵐の中で倒れて数時間、僕は助けられて自分の家で看病されていたらしい。まあ看病するといってもベッドの上で眠らされていたとかそういうのはなくて、本当に、床に適当な布を敷かれて、布団代わりにしなびた布を被せられていただけなんだけど。

 僕の故郷は本当に貧しかった。いや、当時は世界全体が荒廃していた、というべきか。

 あのころの世界の話をしよう。今だと考えられないほどの様相だったから、このあたりで一応、ね。

 一言で表せば、常時崩壊寸前。食料もまともに手に入らず、環境も最悪。各地で

砂漠化が進んで、雨も降らない。どうやら、千年以上前から起こっていた公害がどんどん地球を蝕んでいって、あれよこれよと対策を遅らせているうちに気づいたらこんな有様になっていたらしい。昔の人には言いたいことが何個もある。

 そのせいで僕たちの体に機械をつけなければならなくなったからだ。というのも、あの時代の人たちは生まれた瞬間から大抵どこかの部分が壊死したりとか使い物にならなかったりしていたから、その代わりになる機械をつけないといけなかった。特別な機械で、成長に応じて変形する優れものだ。でも如何せん、定期的なメンテナンスが必要になる。特に赤錆を落とさないと本当にだめになってしまう。でも完全なメンテにもお金がかかるし、僕らのような貧乏人にできるのは薬、つまりはグリスとかクエン酸を買って塗ることくらいだった。酷いところだと機械も足りなくなって抗争が起きるなんてこともあったらしい。幸い僕の故郷は人口も多くないから困っていたのは食料とお金くらいだったけど。

 場面を戻そう。しばらくしてから僕を助けてくれた、母が先生と呼んでいた人が現れた。

「おーう少年、元気そうでなにより」

 その人はとてもフランクに話しかけてきた。見た目はずいぶんとボロボロになった、袖の切れたシャツと汚そうなジーパン。先生と呼ぶから綺麗な医者かと思ったらそんなわけでもない。むしろ浮浪者、という感じだ。雑に切った髪に、ゆったりとした目つき。少しだけ生えた顎ひげを手でさすっている。

「ってほどでもねえか。ま、でも運には恵まれてるぜお前。助かっただけでも良しとしようや」

 気のいいおじさん、という印象。するとはっとしたようにその人は立ち上がった。

「そうだいきなり知らないお兄さんに話しかけられたら困るわな。うん、こほん。改めまして。旅をしながら医者もやっております。砂川ジャンでございます。よろしこ」

 背をピンと伸ばして堂々と自己紹介した。お兄さんというかおじさんの見た目をしているが、後から聞くとまだ25くらいらしかった(自称だけど)。

 まあつまり、この人が僕を助けてくれた、今でも忘れられない命の恩人というわけです。

「ふう、とりま足のところは少しガタついてたから俺持ってるやつで錆落として、あとグリスつけといたよ。倒れたのは単に嵐に当てられただけだな。まあ強かったからな。あれ慣れてないとみんなやられるわ」

 ジャンさんが僕の鉄の右足をさする。僕は右足が生まれつき動かせず、そこを機械にしていた。

「他に気になるところあるか?あと機械にしてるのは右足だけってお前の母さんが言ってたけど間違いないか?」

「…はい、特に何も…はい」

 今思えば、あそこで気になるところがあるって言っておけばよかったなあ。いや、あのころはそれが普通だったから、気にするとか以前の話だったわけなんだけど。

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