第7話 勇者後の初面接に挑む

猫から教わった通り、手続きを行った部屋から出て右隣の部屋に入った。

そこは受付が一つだけある小さな部屋だった。


ユタカは、受付にいる竜人の女性に声をかけた。

「あの、就職を希望していまして、こちらがその窓口だと教わったので参りました」

「はい、こちらが就職口です。就職をご希望ですね」

そう言うと、竜人は手元の紙をペラペラとめくる。


「キサラギユタカさんですね?」

「はい、そうです」

どうやら、自分が何者かは伝わっているらしい。

「ネコマル課長から伺っておりますよ。それでは、こちらにおいでください」


竜人に案内され、ユタカは奥にある個室に通された。

小さなテーブルを挟んで、向い合せに椅子が置かれていた。


「こちらにお掛けになってお待ち下さい。すぐに担当が参りますので」

言われた通りに座って待っていると、1分もしないうちに、コンコンとドアをノックする音とともに担当者が入ってきた。


「失礼します」

入ってきたのは受付にいた彼女で、そのままユタカの前の椅子に座り、手に持った資料を机の上においた。


「まず最初に、私は財務局のイーリンと言います」

そういって、頭を下げた。ユタカも同じように頭を下げた。


「こちらに就職をご希望ですね?」

「キサラギユタカと申します。こちらで、働かせていただきたいと思い、伺いました」

「はい、伺っておりますよ。では、条件等々を説明します」

イーリンは、手元の資料を指差しながら、雇用条件や給与について説明を行った。


「まぁ給与といっても、キサラギさんはお金には困ってないと思いますが」

「そう、ですかね、、ははは、、、」

苦笑いしながら、ユタカは一番気になっていることを尋ねた。


「ところで、どんな仕事なのでしょうか?私、証券とかには詳しくなくて、、」

「ユタカさんには、検査官をお願いすることになると思います」

「検査官?」


「そうです。この取引所には、参加者といって様々な世界が参加しています。そして、自分たちの世界を維持できるように、この取引所を通して資金や資源のやりくりをしています」


「世界の裏側で、そんなことが行われていたんですね」

「はい。そして、それらの世界が取引所に参加する”資格”があるかどうか、調査しています。その調査を担当するのが検査官です」


「なるほど。難しそうなのですが、私にできますでしょうか?」

「心配していただかなくても大丈夫ですよ。人から話を聞いたり世界の様子を見て回ったりして、その内容を報告する、というだけですから」

確かに、それならできるかもしれないなとユタカは思った。


「逆に、キサラギさんのことを少し教えてください」

「はい、何でも聞いてください」


「ご自身が召喚された世界の魔王を倒された、と聞いています。大変だったようですね」

「まぁ、私の力不足もあってか、正直苦労しました」

「手強い相手だったのですか?」

「そうですね、弱点らしい弱点も無かったので、最後は消耗戦でした」

「戦いは物理メインですか?それとも魔法の類ですか?」

「それでいうと、どちらもできると思います」

「すごいですね」

イーリンは手元の資料に何かを書き込んだ。


「チームの戦略を立てる、などはされてましたか?」

「いえ、お恥ずかしい話ですが、基本的に一人旅でした」

ユタカは基本的にと答えたが、実際はずっと一人旅だった。

「なるほどなるほど」

またイーリンは手元に何かを書き留める。


「数学は得意ですか?」

「えっ?数学、ですか、、」

「そうです。地球に居た頃の話で良いですよ」

「・・・正直苦手でしたね」

「ふむふむ」

イーリンはそれを聞いても何も書き留めなかった。

就職面接だけあって、かなり踏み込んだ質問だなとユタカは思った。


それから健康面などの質問が続き、イーリンからの質問はおわった。


「質問は以上です。実は、行き先の世界が安定していない場合もあって、”多少のタフさ”が求められるのですが、問題なさそうですので是非お願いしたいと思います」

「・・・ということは」

「はい、合格です。ぜひこちらで、働いていただけますか?」


「はい!こちらこそ、よろしくおねがいします!」

ユタカは勢いよく頭を下げた。かつて入社面接に合格したときよりも嬉しく感じていた。

不安が無いわけではないが、考えていても仕方がない。

勇者業をしていたせいか、目の前にあるチャンスを逃さず掴み取ることにためらいはなかった。


それから、ユタカはもう一つ気になることを尋ねた。

「こちらで働く場合、住むところを紹介してもらえますか?元の世界に戻らないといけないでしょうか?」

「あぁ、それならご心配なく。ここに居るメンバーは、みんな”こちら”にある社宅住まいですよ」


「社宅があるんですか?」

「えぇ。種族も生活様式もみんな違いますので、それぞれに合わせた住居を用意しています。キサラギさんには人間用のマンションが用意されますよ」

「ありがたいです」

「同じ棟に住むのは世界こそ様々ですが、みなさんキサラギさんと同じ種族の方々ですので、すぐに打ち解けると思います」

本当に至れり尽くせりだなと、ユタカは感心した。


「ただ、、」

イーリンは言いづらそうにしていた。

「何か、問題があるのでしょうか?」

「実は、すぐに対応しないといけない案件がありまして、キサラギさんにはさっそく、そちらの対応をお願いしたいと考えています」

「それで、何かマズいことが?」


「検査中は、出向先の世界に寝泊まりすることになるのです。今日お仕事が決まったばかりですのに、いきなりで申し訳ありません」

「なんだ、そんなことだったんですね。全然大丈夫です。なにせ、勇者時代は地べたで寝泊まりも、しょっちゅうでしたし」

ユタカは冗談めかして言ったが、本当のことだった。

「さすがに、宿は手配しますよ。あと、検査中にユタカさんのこちらの住まいを用意しますので、楽しみにしていてくださいね」

「ありがとうございます!」


そして、ああ、それから、とイーリンは言った。

「実は、私も検査官なんです。せっかくですので、このあと一緒にいきましょうか。先遣隊に合流しましょう」

「手荷物とか必要ですか?」

何も持ってないが念のため、と思い聞いた。

「必要なものは全てこちらで用意します。そのまま来ていただいて問題ないですよ」


そう言ってから、イーリンはユタカの格好を見た。

「・・・服装は、こちらで用意しますね」

残念なことに、ファッションチェックは不合格のようだった。

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