第20話 出現の謎
風呂の気持ち良さとリーサの歌声の心地良さに少し眠ってしまい、結構な時間風呂に入ってしまった。 リーサのおかげで傷もすっかり癒え、風呂から上がった俺はバスタオルを片手にリビングに入る。 三人の女神は少し神妙な面持ちで向かい合うようにソファとダイニングチェアに座っていた。 超が付くほどの美人が、三人も目の前にいるのは圧巻だ。
「怪我の具合はどうだ? 」
ペルさんは会話の途中で俺に微笑んでくれる。 『大丈夫』と笑い返すと、『少し話が聞きたい』とアテナの横のソファを指差した。 俺は頷いてアテナの横におとなしく座る。
「先程はありがとうございました 」
「お礼を言うのは私の方だ。 君のおかげで誰も命を落とさずに事態を収拾できたのだから。 流石に失われた命までは、私も戻すことは出来ないんだ 」
神様でも何でもできるってわけではないんだな。
「その話を聞かせてくれ。 ヒロユキ、キュクロプスは何か言っていたか? 」
「うん、俺を殺せばハーデスより強くなれるって。 ペルさんを自分のものにするとか、アマリリスの匂いがどうのとか…… 」
「こちらにどうやって来たのかは言ってなかった? 」
アルテミスはいつになく真剣な表情をしている。 どうやらあまりよろしくない状況らしく、俺が首を横に振ると三人は軽くため息をついていた。
「今転送ゲートの履歴を確認させているが、奴に識別タグが見当たらなかったから正規のルートでこちらに来た線は薄いだろう 」
アテナはそう言って目の前のクッキーを一つつまむ。 『おお!』と感嘆の声を上げてすぐにもう一つをつまんでいた。
「自身で転送ゲートを使えるのはお姉さま方のような神以上に限られるんです。 それ以下は神殿や宮殿で管理している転送ゲートを通らなければならないんですが、その時にこの辺りに識別タグが刻まれるんです 」
俺の分のコーヒーを持ってきてくれたリーサが、自分の胸を指差して教えてくれる。 そういえばリーサの左胸には象形文字のようなアザがあったっけ……
「どうした? 赤い顔をして 」
風呂の時のリーサの感触を思い出してしまった。 ペルさんに『なんでもないよ』と答えると、フフフと意地悪そうに笑っている。 まさか心を読む力まである訳じゃないよな?
「私達の中で、誰かが裏にいるって考えも否定出来ないってことね。 神を疑わなければならないなんて、好きじゃないわ 」
アルテミスもまたクッキーを一つ口に放り込む。 女神達は
「私も同感だ。 だが、いずれにせよ早急に解決せねばならないだろう。 私も冥界の方に探りをいれてみよう 」
ペルさんはソファから立上がり、両手を上げて大きく伸びをした。
「ヒロユキ、すまないが少し留守にする。 キュクロプスに勇敢に立ち回ったことをアテナに聞いてな、すぐにでもお前を労ってやりたいのだが…… 」
「ううん、俺は大したことしてないよ。 すぐに戻ってくるんでしょ? 気を付けて行ってきて 」
ペルさんはニコッと微笑んで頷いた。 なんか仕事に送り出す主婦の気分だ。
「私もゼウス様に報告に戻ることにする。 すまないが今度、改めてお礼に伺おう 」
柔らかい笑顔で『すまない』と言うアテナに、『いつでも来て下さい』と笑顔で返した。 知恵と戦の女神はとても律儀な人…… いや神様だ。
「アル、少しの間ヒロユキを頼む。 またどこぞで無茶をするかもわからんからな 」
ペルさんはニヤニヤしながら足元に描いた紫色に光る魔方陣に消えていった。 続いてアテナも金色の魔方陣に消えていく。
「信用ないなぁ 」
「ペルちゃんなりの冗談よ。 アテナちゃんがあなたは勇敢に戦っていたと言うものだから、その姿を見たかったととても悔しがっていたわ 」
アルテミスは笑いながらコーヒーカップに口をつける。 何も出来ずただ逃げ回っていただけだったんだが、そう言われるとなんだか気恥ずかしい。
「でもキュクロプスを目の前にしても動じないなんて、あなた本当に大したものね。 感心するどころか、本当に人間なのか疑ってしまうわ 」
「あいつそんなに凶暴なの? 」
「キュクロプス族、ミノタウロス族は野蛮です 」
自分のカップを両手で大事そうに持ちながら、頬を膨らませたリーサが俺の横にチョコンと座った。
「丁度良い機会だから、あちらの世界について少し話しましょうか 」
アルテミスは長い足を組み直すと、ソファの肘掛けに寄りかかってバタークッキーをつまむのだった。
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