第19話 やめてー!!
家に帰るなり、真っ先に出迎えたのはリーサだった。
「旦那様! 御無事ですか! 」
玄関のドアを開けた途端、キンキン耳に響く声で駆け寄ってきて血の気の引いた顔で俺を見上げている。
「だ、大丈夫大丈夫。 アテナさんが全部やってくれたから 」
「大丈夫じゃないです! お顔に切り傷いっぱいあるじゃないですか! 」
帰りにペルさん達にお土産を買って帰ろうと立ち寄った店で、レジの店員が怪訝な表情をしていたのはそのせいか。
「まぁ大したことな…… おわっ! 」
靴を脱ぐなりリーサに腕を引っ張られ、向かった先は脱衣所だ。
「ちょ…… リーサ! 何するんーー うわひゃ! いやーやめてー!! 」
あっという間にパンツまで脱がされ、すっぽんぽんでバスルームに放り込まれた。 大事な所を手で隠して唖然としていると、同じくすっぽんぽんになったリーサがバスルームに入って来る。
「りり、リーサ! 」
「男らしくじっとしていてください! 」
リーサは自分の小指を咥えると、すぐにその小指を湯船に浸けた。 尖った八重歯で指に穴を開けたらしく、血が滲んでお湯に溶け出している。 リーサはそれを確認すると俺の胸に体を押し付けてきた。
(おいおいおい!! )
小さな胸の膨らみの感触が直にわかる。 俺に少女趣味はないが、精神衛生上これはヤバいって!!
「あの…… リーサさん? 」
「私の体液を媒体にして治癒の効力を高めます。 動かないでくださいね 」
そう言うとリーサは、透き通った綺麗な声でアヴェ・マリアを歌始めた。 お湯がしみて痛かった顔の痛みがすぐに収まってくる。
― ホントに無茶しすぎです。 胸にこんなアザを作ってまでキュクロプスと戦うなんて ―
頭の中に直接響くリーサの声。 自分の胸元を見ると、確かに内出血の痕があった。 気付かなかったが、あの大男に胸ぐらを掴まれた時のだろう。
「あれ? なんで知ってるの? 」
― アテナ様がお見えになってます。 旦那様が怪我をされていると聞いて私、気が気ではなくて…… ―
先にこっちに来てたのか。 まぁ鎧姿で街中を歩くわけにもいかないよな。
「ごめん、心配かけたね 」
― 旦那様が無事ならそれでいいんですが、無茶するとお姉さまが心配しますよ? ―
その前に、付き人と裸で風呂なんて所を見られたら怒ら…… いや、激怒するんじゃないか?
「ぺ、ペルさんは? 」
― アルテミス様と一緒にアテナ様とお話をされてます。 ちょっと真面目なお話のようですよ ―
だよな。 アテナが元通りに直してくれたから騒動にならなかったけど、サイクロ…… キュプロクスが現れたなんて前代未聞の大ニュースだ。 その原因は俺なんだし、もしかしたら離婚なんてことも…… あまり考えたくない。
ー 支えていますから、少しお休みになって下さい ー
「うん…… そうする 」
緊張が解けたのか、目を閉じると一気に眠気が襲ってくる。 俺はそのままお湯の気持ち良さに意識を手放した。
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