第16話 待ち合わせ

 矢崎との待ち合わせは、全国展開をしているコーヒーの美味しいカフェ。 待ち合わせの十分前に到着して矢崎に連絡を入れてみると、彼女は既にカフェの中にいると言う。 すぐに店内に入り中を見渡すと、彼女も俺をすぐ見つけたようで窓際の席で手を振っていた。


(正直、ここのコーヒーよりリーサのコーヒーの方が美味いんだよな…… )


 カウンターでコーヒーではなくコーラを注文して、急いで彼女の元に行く。


「ごめん、待たせちゃったかな? 」


「ううん、私いつもここで勉強してるから。 来てくれてありがと 」


 彼女の向かいの席に座ってとりあえずコーラを一口。 


(うん? なんかこの前と雰囲気がちょっと違うような…… )


「ん? 」


「いや…… 髪切った? 」


「うん! 気付いてくれたんだ、嬉しい…… 」


 なんとなくで言ってみたけど、当たっててよかった……


「んで話っていうのは? 」


 彼女もコーヒーを一口。


「あの…… ペルセポネさんて凄い綺麗な人だよね。 あ、人じゃなくて神様か 」


 俺とは目を合わさず、コーヒーカップを回してなんだか落ち着かない様子。 さて、どこから説明していいものか…… 


「無理に信じてもらおうとは思ってないけど 」


「そ、そうじゃなくてね、受験勉強頑張ってたのにいきなり結婚なんてどうしちゃったのかなぁ…… って思って 」


 矢崎の目が泳いでいる…… 何を気にしているんだ?


「ま、まあ人それぞれ出会いってあるよね! 何言ってるんだろ私…… 」


 彼女は俯いて黙り込んでしまった。 会話が続かず、俺もどうしていいものかわからずに窓の外を眺める。


「大学生活は順調? 」


 しまった…… 浪人中の俺がしていい質問じゃないことに言ってから気付く。


「うん、そこそこ…… かな。 でも講義についていくのは大変だし、その…… つまらないっていうか 」


 思ってたのと違った、ってことでいいのかな?  この前とは違って間が持たず、こういう雰囲気は苦手だ。


「諏訪君は…… もう大学は諦めちゃったの? 」


「諦めてないよ。 でも来年の受験で最後にするつもりなんだ。 もう二十歳になるし、親にも迷惑かけられないから 」


 久しぶりにクラスメイトに会えたのになんか暗い話になってきた…… 帰ろうかな。


「勉強とか大丈夫? 現役大学生が教えに行っても…… って、新婚さんには迷惑だよね! 何言ってるんだろ…… 」


「あ…… はは…… 教えてくれるのは助かるけど、なんとか頑張るよ 」


 あの後アルテミスも増えたって知ったら驚くよなきっと。


「なーー 何か力になれることあったら言ってね! 出来ることなら何でも協力するから! 」


「ありがとう。 その時は頼むよ 」


 矢崎は顔を上げてニッコリ笑う。 この人、大学生になってより可愛くなったと思う。 でもペルさんには及ばない…… というか、比べるのは俺の感覚がおかしくなってるのかもしれない。


 多分大学でも、その持ち前の優しさで人気があるんだろう。 彼氏がいないのなら、いい人が見つかればと願う。


「…… あのね諏訪君 」


 矢崎が俺の名前を呼んだ。 だがその続きがなかなか出て来ない。 重苦しい雰囲気に耐えられず、俺は椅子から腰を上げた。


「…… ペルさんが待ってるから帰るよ 」


「あのっ! わたしーー 」


 意を決したのか矢崎が俺を見上げたその時、陽が陰ったかのように窓の外が暗くなった。 何事かと窓の外を見ると、そこには逆光の中に仁王立ちしている大男の姿があったのだった。

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