第14話 同級生
玄関のドアを開けると、そこには
「矢崎? 」
名前を呼ぶと彼女はホッと笑顔になった。 が、すぐに眉を寄せて俺を見上げてくる。
「諏訪君、大丈夫? 」
「えっ? 」
少しオドオドした態度。 何が大丈夫なん?
「うん大丈夫? だけど…… 久しぶり、どうしたの急に? 」
「さっき柄の悪そうな人達に絡まれていたみたいだから 」
どうやら買い物帰りのあの一件をどこからか見ていたらしい。
「見てたんだ、ちゃんと逃げれたから平気だよ 」
「良かった…… 人だかりが出来てたから覗いてみたら、君が女の子を守ろうとしてるんだもん。 びっくりしちゃった 」
ああ…… 逆だけどね。 でもリーサのような少女が、大の男を吹っ飛ばすなんて普通考えないよな。
「いや、なんか恥ずかしーー 」
「怪我とかしてない? 君、今一人暮らしなんでしょ? 私に出来ることあったら言ってね 」
高校時代も面倒見のいい女子だったっけ。
「そういえば保健委員だったよね 」
「覚えててくれたんだ…… 高校の時は敬遠されてたみたいだから、ちょっと嬉しい 」
「敬遠なんてしてないよ! 矢崎は皆から人気あったし、俺はほら…… 陰キャの部類だったから 」
「そんな事ないよ! 」
懐かしくて少し会話が弾む。 こんな風にあの頃も話せたら、高校生活ももっと楽しかったんだろうな……
「そういえば、よく一人暮らしなんて知ってるね。 阿部とかその周辺にしか言ってないと思うんだけど 」
「私も阿部君と同じ大学の経済学部だから。 それでね…… 」
矢崎はショルダーバッグの中からスマートフォンを取り出して俺に見せた。 よく見ると俺のと同じスマートフォン。 慌ててポケットを探して、自分のスマートフォンがないことに気付いた。
「気付かなかった…… わざわざ届けにきてくれたの? 」
「うん、プロフィール見たら諏訪君だったから。 それともう一つ用事があるんだ…… あのねーー 」
「客人か? ヒロユキ 」
矢崎が要件を言いかけたその時、俺の後ろからペルさんが声を掛けてきた。
「…… えっ? 」
矢崎は俺越しにペルさんの姿を見て固まっている。
「そんなところで立ち話をしないで、招けばよかろう。 客人に失礼だぞ? 」
「そうだね、矢崎は時間ある? お茶くらいどうかな? 」
矢崎はしばらく呆けていたが、ハッと我に返って俺とペルさんの顔を交互に見ていた。
「あ、いや…… えっと。 うん…… いや、はい、お邪魔します…… 」
なんだか心ここにあらずだな…… もしかして迷惑だったかも。
リビングのソファでリーサが用意してくれたお茶を飲みながら話をしたが、矢崎は終始上の空だった。 彼女にペルさん達のことを話したのが悪かったのか、何を聞いても空返事しか返ってこない。 結局、もう一つの用事の内容を知ることは出来ず、フラフラと帰る彼女を見送ることしか出来なかった。
「まあ無理もなかろう。 私がお前に召喚された女神というだけでも、到底信じられない話だ。 この非現実的なことをすんなり受け入れているお前が変わり者なのだろう 」
ペルさんは相変わらずコーヒーを楽しみながらフフッと微笑む。
「まあ…… 自分で話しておいてなんだけど、信じろって言う方が無理かも 」
俺だって当事者じゃなかったら、さっきの会話を信じるわけがない。 神? 魔獣? 妄想にも程がある。
「…… お前が望むのなら、あの者の今日の記憶を消すこともできるがどうする? 」
ペルさんは静かに俺の返答を待っていた。 俺の友人関係を守ろうとしてくれてるのだ。
「いやいいよ。 俺が変わり者扱いされようが、ペルさんが俺の奥さんなのは確かなんだし 」
そう、誰がなんと言おうとペルセポネはここに存在し、俺の嫁だ。
「そうか、私の旦那様は変わり者なのだな…… まあそうでなければ私とは付き合いきれんかもしれないが 」
フフフとペルさんはコーヒーカップを片手に優しく笑っていた。 少し照れたような、いつもとはちょっと違った笑顔。 俺はこの笑顔が見られるなら何もいらない。 そう思い始めていた。
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