第11話 新たな神
家に戻るなり、リーサはペルさんに一部始終を身振り手振りで愚痴っていた。
「よくその程度で我慢できたものだな 」
ペルさんはコロコロ変わるリーサの表情と愚痴りように、『そうかそうか』と頷きながらクスクス笑っていた。
「だってお姉さま! 旦那様が手加減してあげなさいと仰るからーー 」
「いやいや、死人が出るかと思ったし! 」
「二度とそんな真似が出来ないように、いっそのことお前の顔を広めてしてしまえば良かったのではないか? 」
ペルさんはお土産のクッキーに手を伸ばし、テーブルに頬杖を突いてニヤニヤだ。
「怖いこと言わないでよ。 そんなことしたらこっちの世界じゃタダじゃ済まなくなっちゃう 」
同じように頬杖を突いてリーサは頬を膨らませていた。
「存在自体を消してしまえばいいんです。 クソガキに『クソガキ』と言われて頭にきちゃいました 」
「私なら付近一帯吹き飛ばしていたかもしれんな 」
本気なのか冗談なのかわかんないよペルさん。
― そんなことしたら、また貴女を閉じ込めなくちゃならないじゃない ―
部屋中に聞いたことのない女性の声が響いたかと思うと、突然壁の一部に光り輝く魔方陣が描かれ始めた。
今度は誰だ? 何度も見た登場シーンに呆れながら見ていると、白いノースリーブのドレスを着た金髪ポニーテールの女性が姿を現した。 強気そうな凛々しい顔立ち…… ペルさんに劣らない雰囲気というか、上品な身のこなしはきっと上位の神か天使なのだろう。
「どうしたんだアル? お前程の者がここに顔を出すなんて 」
アル? アル…… アルテミスか? その容姿と有名どころの名前に納得。
「どうしたもこうしたもないわ、貴女を連れ戻しに来たのよ 」
アルテミスはため息をついて長い髪を揺らす。 俺をチラッと見る目は冷たい。
「人間界で再婚したと天界でも噂になってるけど、本当なの? 」
「本当だ。 彼の望みでもあるし、今では私も惚れている。 しばらく
ペルさんは腕組みをしてダイニングチェアに寄りかかり、アルテミスに向かって微笑む。
「バカ言わないで。 人間が神の夫だなんて前代未聞なのよ? 貴方のことをゼウス様も心配しているわ 」
そう言うとアルテミスはペルさんとリーサの前を素通りし、躊躇なく俺の横に腰を降ろした。
「こんにちは、ペルちゃんの旦那さん。 彼女を独占している気分はどうかしら? 」
優しい口調だが決して歓迎はされていない。 ここは穏便にお引き取り願わねば!
「こ、こんにちは…… えーと、アルテミスさん 」
一瞬眉を上げて驚いた顔を見せたが、 アルテミスはすぐに柔らかい微笑みを作ってみせる。
「私を見ても驚いたりはしないのね。 ハーデス様を相手にしただけのことはあるようね 」
まあ…… ペルさんのド派手な登場に始まり、リーサにハーデスと続いたから、アルテミス相手に動揺はあまりない。 美人さんでいい匂いするからドキドキはしてるけど。
「単刀直入に言うわ。 彼女と別れてくれないかしら? 天界でもこの状況は不安で仕方ないのよ 」
お…… いきなり別れてくれとか、姑みたいなことを言う人だ。 何が不安なのか知らないけど、だからといってハイそうですかと別れる気は俺には更々ない。
「嫌ですよ。 彼女は俺の嫁さんです、俺が守ります 」
アルテミスは俺を見たまま固まっていた。 チラッとペルさんに目線を向けると、ダイニングテーブルに座り足をプラプラと遊ばせて行く末を見守っている。
「人間が神を守るなんて…… 何を言ってるの? 」
アルテミスの口調が少しキツくなった。 お互いの顔を見たまま膠着する俺達に、ペルさんが横から口を挟んできた。
「ならば試しに勝負してみるがいい。 言っておくが、私の旦那様は強いぞ? 」
「ちょっ!? ペルさん! 」
おいおい…… また神様と勝負とか冗談じゃないし、強いとか言ってハードル上げないで!
「そのようね。 聞けばハーデス様を頭脳戦で倒したとか…… いいわ。 貴女の旦那様、借りるわね 」
アルテミスは俺の目の前でパチンと指を鳴らす。 ビックリして瞬きすると、そこは風緑一面の草原に変わっていたのだった。
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