第10話 リーサとお出かけ
そんなわけで、俺とリーサは二人で近くのショッピングモールに来ている。 リーサが少しよそよそしく感じるのは、やはりペルさんの『洋服木っ端微塵の術』のせいだ。 あの後真っ赤な顔で睨まれたのは言うまでもない。
それでもリーサは機嫌が良く、ショッピングモールの雰囲気に興味深々。 実年齢は知らないが、童顔の彼女を連れて歩くとなんだか年の離れた妹の保護者になった気分だ。
「
「そうなんだ? 冥界って雰囲気とか想像つかないけど 」
「人々の笑顔が多いのは穏やかで平和な証です。 冥界はもっと殺伐としていて、宮殿はとても華やかですが玉座がある所なので雰囲気はピリピリしてます。 まぁ天界や人間界から堕ちた者の裁きの世界ですから仕方ないんですけどね 」
そういうものなのか。 何も感じない俺が平和ボケしているんだろうな。
「ところでリーサの服の趣味ってどんなの? 好きな服を選んで欲しいんだけど 」
一人っ子で彼女も出来たことがない俺にとって、女の子のコーディネートはハードルが高い。
「特にありませんよ。
ニコニコ顔のリーサだったが、それが一番困る回答だったりするんだけどな。
散々悩んだ挙げ句、Tシャツ何枚かとジーンズやミニスカート等数点を買う。 自分のコーディネートセンスの無さに泣けてきた。
「ありがとうございます旦那様、大事にしますね 」
それでも彼女は喜んでくれて、大きな紙袋を大事そうに抱えてニコニコしてくれる。
「っ!! 」
突然彼女から笑顔が消えて俺は腕を引っ張られた。 彼女の力は思ったよりも強く、情けないことによろけてしまう。 その瞬間、ちょっと柄の悪そうな若い男とすれ違った。 肩がぶつかりそうになった所を彼女が助けてくれたのだ。
「あっれー? 今ぶつかったよなにーちゃん 」
若い男は振り向いてニタニタ笑っている。 耳や唇にいくつもピアスを飾り、金髪のロン毛でゴツい体。 前を見ると似たような男が数人、ニタニタ笑いながら立ち止まっていた。
(わかりやすっ!! )
チーマーと言ってあげればいいんだろうか。 あまりにもイメージ通り過ぎてちょっと引いた。 ともかく、面倒臭い連中に捕まってしまったのは確かだ。
「えっと…… 」
今までなら囲まれて恐怖しているのだろうが、大して怖いと思わないのはハーデスのおかげか。
「ぶつかっていませんよ。 わざと肩を旦那様に当てようとして…… 何様のつもりです? 」
先に口を開いたのはリーサだった。 訳のわからない連中に突然絡まれてご立腹…… というより、俺に危害を加えようとした事に腹を立てている。
「旦那様だってよ! ハハハっ!! いいご身分だなにーちゃん、幼女飼い慣らして遊んでんのかー? 」
明らかな挑発に彼女の目の色が変わる。 少女の姿をしているが、彼女は冥界の住人。 戦闘は不向きと言っていたが、それはあくまで冥界での話なのだろう。 この大男を前にビビりもせず、堂々とした態度…… 嫌な予感しかしない。
「リーサ、ほどほどに…… ね? 」
彼女の肩に手を置いて耳元で忠告する。 『心得てます』と彼女は答えたが、目は殺意剥き出しだった。
「まぁいいか。 あーあ、肩曲がっちまったわ。 治療代置いてけよ 」
ぶつかってもいない肩を押さえて痛がる典型的なカツアゲのパターン。 未だにこんな奴がいるんだなと思うとちょっと笑えてくる。 いや、笑ってる場合じゃないよな。
「いや、あのっ! ホントに怪我する前にやめておいた方がいいよ? 」
「はぁ? 何言ってんだお前 」
ピアスの男が凄むと数人の男達はゲラゲラ笑い出した。 俺の一言が気に食わなかったのか、ピアスの男は胸ぐらを掴もうと手を伸ばしてきた。 その時だった。
バチン!
リーサの左手が男の腕を勢い良く弾く。 不意に腕を払われて、男はよろけただけでなく転んで両膝をついた。 あら、意外にか弱いお兄さん…… その様子に数人の男達は更にゲラゲラ笑っていた。
「薄汚い手で旦那様に触らないで 」
彼女は見下すように冷たい目線を倒れた男に向ける。 男の顔がみるみるうちに赤くなっていったのは言うまでもない。
「このクソガキ! 」
ドガン!!
男が立ち上がろうと前屈みになった途端、リーサは男の横面に回し蹴りを決めた。 男は道路脇の花壇に頭から突っ込み、お尻を突き出すような格好でピクピクしている。
「旦那様がほどほどにと仰るので、これくらいで勘弁してあげます 」
嫌な予感的中!
「リーサ! やり過ぎ! 」
ほどほどでこんな状態なんだから、これ以上は死人が出るかもしれない!
「旦那様をバカにしたんですよ!? これくらい当然です! 」
囲んでいた男達はピタッと笑うのを止めて唖然としていたが、仲間がやられたのが面白くなかったのか怒声を上げて殴りかかってきた。
「ふぅ…… 」
彼女は面倒臭そうにため息をひとつ。 次の瞬間には襲い掛かってきた男達を、次々と道路脇まで吹っ飛ばしてしまっていた。
「あー…… 」
あっという間に花壇に男達の盆栽が出来上がった。
気が付けば俺達の周りには野次馬が集まり、中にはスマホを耳に当てている者もいる。 騒ぎを聞きつけて警察が来ても面倒だ。
「リーサ、行くよ 」
俺は咄嗟に彼女の手を引いて逃げるようにその場を後にしたのだった。
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