第9話 メイド少女
「洗濯物、お部屋に置いておきますね 」
「ありがとう、助かるよ 」
リビングのドアから顔を出したリーサは綺麗に畳んだ俺の服を抱えて、鼻歌を口ずさみながらリズミカルに階段を上っていく。
ハーデスを追い返してから一週間。 結局リーサは冥界へは戻らず、『お姉さまの側が私の場所ですから』とウチに居着いてしまった。 人間界で生活できるのか不安はあったが、こちらの生活習慣をあっという間に覚えて、今ではしっかり家事をこなしてくれている。 申し訳なくて家事を手伝おうとすると、『旦那様なんですから!』と追い返される始末。
「ペルさん、コーヒーいる? 」
「うん? ああ 」
キッチンに入ると、耳がいいのか気配を察知したのかリーサがパタパタと階段を駆け下りてくる。
「わたしがやりますー! 」
彼女はすっかり我が家のメイドで、俺とペルさんの身の世話は全てやりたいと張り切っている。 家事の全てをやってもらって楽だけど、手持ち無沙汰なのも落ち着かないものだ。
「フフ…… 好きにさせておくといい。 お前もいずれ慣れる 」
本を片手にペルさんは笑顔だ。
「なんか申し訳なくてさ 」
「嫌ならやめさせればいい。 だがリーサは結構頑固だぞ? 」
セイレーンが頑固なのか、リーサ個人が頑固なのか……
「フフ…… お前らしいな 」
俺の様子に笑ったペルさんは、相変わらずギリシャ神話に没頭中だ。 本だけでは飽き足らず、今は神話を題材にしたDVDをレンタルしてテレビモニターにかじりついている。 泣いたり微笑んだり…… 表情の変化はあまりしないが彼女を見ていると面白い。
「旦那様、今日はお出かけしますか? 」
ソファに座ってペルさんの様子にニヤニヤしていると、リーサが淹れ立てのコーヒーを持ってきてくれた。
「いや特に用事はないけれど、どうしたの? 」
「いえ、こちらで生活する上でこの格好ではさすがにマズイかなと思いまして。 お暇があれば着る物を見繕って頂けないかなと…… お姉さまのような力は私にはないですから 」
例の服が木端微塵になって別の服に生まれ変わるあの力だ。 水色のビキニに白いノースリーブのジャケットの、おへそ丸出しの服装は確かに人間界には合わない。
「わかったよ。 じゃあ今から出掛けようか 」
ペルさんは服装をあまり気にしない。 人間界に合わせようと気を遣ってくれるリーサに感謝だ。
「ペルさんはーー 」
「今いいところだ。 お前達で行ってくるがいい 」
テレビに食いついたまま、ペルさんは少し不機嫌な顔で指をパチンと鳴らした。
パン!
弾けたのはリーサの服。 すぐに水色のティーシャツと白のパンツスカートに再生されたけど、発展途上の彼女の裸を見てしまったのは俺が悪いわけではないよな……
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