第8話 強者
翌朝、雀の鳴き声で目が覚めた。 ケルベロスに跨がってあちらに行ったペルさんを待っていたが、そのままソファで眠ってしまったらしい。
「お目覚めか? 旦那様 」
ソファの後ろを振り返ると、そこにはエプロン姿のペルさんが立っていた。 両手には食器を載せたお盆…… 何か料理を作ってくれたらしい。 今回はフライパンを燃やさなかったんだね。
「おはようペルさん。 帰ってたんだね 」
「リーサから聞いたが、ずっと帰りを待っていてくれたらしいな 」
彼女は俺の前にお盆を置いてくれる。 お盆の上には白米と味噌汁と焼魚。 魚は見たことのないグロテスクなものだが、ちゃんとした和食が並んでいる事に驚いた。
「どうしたのこれ…… ペルさんが作ったの? 」
昨日のリーサの力よりこっちの方がビックリだ。
「日本という国はこれが朝食の定番だとリーサに教えてもらってな。 手伝って貰いながら作ってみたのだが…… 」
「お姉さまから、ハーデス様に立ち向かったご褒美だそうですよ? 旦那様 」
対面キッチンの奥からリーサが顔を出した。
「その…… 旦那様って呼び方はどうかと思うんだけど 」
「彼女は私の従者だ。 夫であるお前の従者と言っても間違いではないだろう? 彼女が呼び方に困っていたのでな、お気に召さなかったか? 」
そう言ってペルさんは俺の隣に座りピトッと肩を寄せてくる。
「それよりも食べてみてくれ。 味はリーサのお墨付きだ 」
俺の指の間に箸を押し込み、ペルさんは目を輝かせながら俺の感想を待っている。 朝はあまり食欲がないのだが、とりあえず味噌汁を一口。
「うまっ! 」
味噌と鰹の風味がちゃんと生きていてしっかり味噌汁だ。 続いて白米を一口…… うん、米の甘味を感じる。 ウチの炊飯器ってこんな旨く炊けたっけ? 旨くて箸が止まらず、次に苦手な焼き魚に手をつける。 冥界で獲れる魚だと言うが、皮の焦げ目が香ばしく身はサバのような感じでこれまた塩加減がいい。 あっという間に完食してしまった。
「美味しそうに食べてくれると作った甲斐があるものだな…… フフッ 」
ペルさんはとても満足気な笑顔だ。 少し照れているのか、その表情がまた可愛い。
「美味しかったよ、ありがとうペルさん。 よく和食なんて作れたね? 」
「彼女のお陰だ。 戦闘には向かないが、身の回りの事なら何でもこなしてくれる 」
「ありがとうリーサ 」
お礼を言うと、リーサは顔を赤くしてキッチンの影に隠れてしまった。
「それにしても、お前は男だな 」
「えっ? 」
「
(怖くてチビってましたが )
とは言えず。 頬を赤く染めて嬉しそうに話すペルさんは、美しいというより可愛く見えた。
「私も感動しました! 無謀と思ってましたがあのハーデス様相手に恐れもせず、策まで練っていたんですから! 流石お姉さまの旦那様です! 」
(唯一運で勝てそうな勝負に持ち込んだだけです )
とは言えず。
「そうか…… 力を持たないがゆえ、力に頼らず頭脳で勝負する人間こそが強者なのかもな 」
いえいえ…… あの冥王に鼻パンし、正座させて説教するペルさんこそが最強なんじゃないでしょうか。
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