第20話「大戦」

辺りはすっかり夜。

パクチーの入口から10分程の場所にある

レインボーカラーのハウス。

中では情報屋のセロリが

全裸で四つん這いになり

肛門に軟膏を塗っていた。


「痛ててて……いぼ痔は辛いよ…」


ガチャ!


ミアが勢いよく玄関の

扉を開けて入ってくる。


「セロリさ~ん!ただいま戻りました!」


「!!!」


ミアとセロリは互いに驚く。


「ちょ!?何で全裸なの!?」


「いやぁぁぁぁぁぁ!!

見んといて!!見んといて!!」


それから3分後。


「いや~、よくぞ無事に帰ってきたね!」


「ははは、色々ありましたけどね

はいこれ、頼まれてたヤツです」


そう言ってミアは

ブラッディルビーを渡す。


「ワーオ!ホンマもんや!

ありがとう!!」


「へへへ、それ売ったら

相当な額になりますよ」


「売る?とんでもない

そんな事しないよ」


「へ?じゃあ何に?」


「亡くなった彼氏の墓に埋めたいんだ

生前これをすごく欲しがってたからね」


(なるほど、そういう理由か)


「あ、そうだ…ルビーのお礼に

お姉さんの情報を教えないとね」


その後、二人は席に着く。


「…まず言わせてくれ

君が最初ここに来た時にも話したけど

俺は君のお姉さんの居場所までは知らない」


「ええ、構いません」


「…そうかい…じゃあ…話を始めるよ…」


「はい」


「君のお姉さん…ミラ・ハーパーは

現在"ある組織"に所属をしている…」


「ある組織…?」


「ああ、"フリーデン"という組織だ」


「"フリーデン"……!?」


「ああ、敏腕スレイヤー、魔術師を

集めたゲリラ集団だ。

何でも近い内に

"アストルム帝国"に奇襲を仕掛けて

皇帝を殺そうとしているらしい」


「えっ……!?」



ミア達が今現在いる大陸を

"グラディウス"と言う。

"グラディウス"には大きく分けて

2つの領土が存在する。


1つ目、"フェリス"

12ヶ国で構成されている領土。

(昔は23ヶ国あった。)

この領土内には人間の他に

エルフ、ドワーフ、竜人、獣人、

吸血鬼と言った

所謂"亜人"と呼ばれる種族が

多く存在している。 

ちなみに余談であるが

ミア達が現在いる"パクチー"は

この領土内にある

"ンアー"という国に属する。


そして2つ目、"アストルム帝国"

皇帝"ユリウス"が統治している

"グラディウス"の北にある軍事大国。

現在大陸の半分以上を支配している。

また、皇帝は代々亜人嫌いなため

この領土内には亜人は一人も存在しない。

なので亜人がこの領土内に間違って

踏み込んだ場合、良くてリンチ。

最悪の場合は殺される。





「き…奇襲って…

どうしてそんな……」


「…ミアちゃん…2年前に

アストルムの皇帝…"シリウス"が

亡くなったのは知っているかい?」


「え!?」


2年前……ちょうどミラが

失踪した時期だ。


「"シリウス"が死に…

今は息子の"ユリウス"が

"アストルム"を統治しているんだ」


「そ、それで……?」


「ユリウスは歪んだ奴でね…

俺が仕入れた情報だと

奴はまた…"大戦"を起こそうとしている」


「え!?」



アストルムとフェリスは長年に渡り

互いの領土を巡って争いをしてきた。

そして7年前には"鮮血聖戦"と呼ばれる

グラディウス大陸史上最大の大戦が起きた。

大戦は2年間にも及び

これによって双方は罪の無い兵士や

民間人を大量に失う事となった。

そしてある時、アストルム側は

これ以上の争いは無意味だと悟り

フェリス側に終戦及び平和条約を

持ちかける。

そしてフェリス側は

それを受け入れて2年間に及ぶ大戦は

終わりを迎える事となった。



「ど、どうしてまた大戦なんか……!?

というか条約を結んだっていうのに…!!

破るつもりなんですか!?」


「本人としては条約書にサインした

父のシリウスが死んだから

無効になったって考えなんだろう

そして、大戦をしたい理由はこうさ……

まず1つ目、大嫌いな亜人を滅ぼしたい

次に2つ目、大陸全域を支配して

我が物としたい……

最後に3つ目、争いが好きだから」


「そんな…また……大勢の血が……

ん…?…そうか…!それでミラは…!

その…"フリーデン"という

組織の人達は…!

フェリスを守るために…

大勢の人達を守るために…

アストルムに奇襲を…!」


「おそらくね…けど、簡単にいくとは

到底思えない」


「え?」


「君も知ってるだろう?

アストルムには"ディオス"が存在

している事を」


「"ディオス"……」


ディオス…12名の精鋭魔術師で構成されている

皇帝直属の護衛部隊だ。

もし正面からマトモに戦ったら

ミラとその仲間達は

命を失うかもしれないだろう。


ミアはしばらく沈黙した後に

セロリに言った。


「セロリさん……私…アストルムに行く」


「え!?何を言って……」


「行って、皇帝と話して

大戦なんて起こさないように説得する!

そうすれば全て万事解決でしょ!

ミラも危険なマネをしなくて済むし!」


「いや…いやいや!そんな簡単に

話が通じる相手じゃ…!」


「セロリさん!色々教えてくれてありがとう!

またいつかどこかで会いましょう!

それじゃあ!」


そう言ってミアは勢いよく

セロリ宅を飛び出して行った。


「汝、バナ神様……

どうか彼女を御守りください……!」


セロリは彼女の無事を祈った。




闇に包まれた夜、ある森の中。


(大戦なんて絶対起こさせない!

大勢の人達を死なせたりなんてしない!

ミラを死なせたりなんて絶対しない!)


そう心の中で叫びつつ

帝国を目指して必死に走るミア。

そしてそんなミアの

成功を祈るかの様に

満月の光が彼女を照らしていた。

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