石垣島新設基地弾道ミサイル誤発射事件(下)
whizzwhizz!次なる
「くどい!」
「「そう何度も!」」
心理的な混乱に乗じても、精々数本刺さるが限界。レギオンは巨体を
「当たらな——」
「お前が、邪魔、だったからな」
彼らがどいた場所に、落とし物。
戦場から英雄を一掃した、一律なる泥沼の化身。
「頂いた」
アサルトライフル。
未だ現役、M4カービン。
それを拾い上げた。
「これは避けきれるのか?」
BLATATATATATATATATATA!!
連射!自動射!盾裏からの銃撃だ!
狙いは両翼を担った銃火器兵!
最初の数発からは逃げきれた。次の一発が当たると悟ったのか、電磁フィールドによってダメージ軽減を狙い、見事致命傷は免れた。
その後の十数発でズタズタになったが。
回路など、その体では、通らない。
強化された人間と雖も、全てを避けきることはできない。頭を拳銃で撃たれただけなら平気でも、あちこちに穴が
そして、この場面でついに、
「そうだろうな」
直哉は、答え合わせを見る。
「血液が、源だな」
人体を乗っ取る為に、体中を置換する。何を使うか?当然、血流である。既に整備された交通網であり、勝手に運んでくれる物流システム。それによって、レギオンは全身に転移する。
だから、血脈を止めてしまえば、レギオン細胞、及びそれが持ち込むエネルギーの供給不良が起きて、
レギオンは、そのボディとの
「予め、診断しておく」
盾を構え直し、直哉は告げてやる。
「お前の死因は、失血性ショックだ」
「オレサマをぉぉぉおおお」
左から電流を付与された“腕”による平手打ち!
「なァめええええるぅぅうぅううぅうなああああああ!!」
SMASH!屈みつつ右手を外側に打ち振るいやり過ごす王!BzzzZZzzzzzZzzzztTttt!二つの雷電が交叉する!そこまでは先程と同じ構図!しかし異なるのはSPLAT!「!?からだ、が!」レギオンの一部が生命を垂れ流しながらポトリと切れ落ちる!
ぶうううおおおおんん!
続く二撃目!上部からのそれをバックステップで避けつつspLAT!右腕を切り上げることでこれも寸断!
「下手に俺に触れると、そうやって怪我をするぞ?」
「アブナイ男気取りかあああ!?ああ!?あ!?」
「物理的な事実だ」
ドドドドドドドドガガガ!
銃砲がまたも火を噴き
それでも塔と歩兵の二種の攻撃があれば、いずれ付いて行けずに
ごおおおおおおおおお!
エンジン全開!減速無しで走り去る轢き逃げ車両!直哉に集中していた左翼の銃列が一斉損壊!
「どうしたバケモン!私を殺してみろよ!」
数刻前にも王を助けたその駒。運転席に座るのは、
「「おまえ?あの時のぉおおお?」」
直哉が使っていた、情報収集役を潰して回った時。
首を
生きていたのか。
そして、
あんな事があって、また挑みに来たのか。
「ゴミみたいに破り捨ててみろよ!」
あの日、レギオンは掌握できた個体を、残さず兵力として徴集した。
つまり呼ばれなかった彼女は、運良く魔の手から逃れられたということ。
で、あるのに、彼女は直哉の命ずるままに、沖縄に、それも狙われる可能性の高い、軍事施設の近くに、
現在の厳戒態勢と、厳重封鎖。それらを突破してきたとは考え難い以上、単純にそういう答えへと定まる。
「あの時みたいにさあ!」
何故なのか。
小心者である彼女がどうして、拾った命を再び捨てるのか。
レギオンには分からない。
ドオオオオオン!
SLASH!
「あ、び、びびび、あああび、あび」
奴らの一部が彼への
ドン!
S!lash!
ドドドオオオ
SSsssssssss!
オオンオンオン!
S L A S H!
奴らを構成しているのは、全てが人体。どこを切断すれば致死量の出血となるのか、そんなことも簡単に分かる。何故ならよく学んだから、日々の訓練の仮想敵だから。
皇直哉にとって、「殺していい人間」以上に、戦いやすい相手はいない。
最悪分からなくなっても、全ての心臓を潰せばいいだけだ。
雑作も無いとはこの事である。
「「「「「ォォォぉぉぉ おおおおお あわ!?あああ アアアア アアアアアアアアァァァァァ!?」」」」」
BZZZZTTTT!!
Slash!SPLASH!
すれ違い様に拳の甲についた
電流は相殺し合い、力任せの打撃と、狙い穿たれた斬閃との一騎討ち!
勝者はまたしても後者!
王者、皇直哉。
孤軍奮闘。否、万夫不当。
一騎当千。もとい、獅子奮迅。
この質量差、この物量差で、
まさかの、優勢。
「「死ね死ね死ね死ね死ねしねしねしねシネシネシネシネシネシネシネシネ」」
あつかましく説教をするだけの余裕が無い。
大仰な演説を続けられるだけの気楽さが無い。
古来より最強の力である「数」と、誰もに王を殺さ
世界変革など、最も遠い。
彼らでは、法にはなれない。
「どこまでも、
たった今思い付いた諧謔を、直哉は言うだけ言い捨てる。
「エゴもなくサイコロに従っていると、自分ではそう思い込み、本望では欲求と欲望の権化」
人外にも、聖体にも、なれはしない。
「お前は単なる
「あっっッッッば、あああああアアアアアアアアアア!!!!」
忘我自失の激怒の中で、それでも計算や思考は続いている。
動作方法に更なる変化。
それは塔から
表面には人の足が、何本も何本も外向きに出され、くねくねと虚空を歩くように稼働。
ウゾウゾと、スロースタート。キャタピラのような動きで、全体が転がりながら、直哉へと、徐々に、速く、加速。
bBbzzzzzzzzztttztzttztzzzzzz!!
「「「「「「「「ウォヲオオオオオオオオオ!!」」」」」」」」
一辺6m程度。立方体状のイソギンチャクとでも言うべき外見のそれは、
直哉は後ろに跳ぶが隔たりはすぐに縮まる!進路上から直角方向に走るも旋回するまでもなく転換し猛追!
前後上下左右どこであっても足がついている以上、“前”という概念は存在しない。どっちに行くにも彼らの自由、ということ。
「トゥイィィィィッチ!」
「わー!ここでかあ!」
王の号令に、やけっぱちの捨て鉢で応える女。
死に場所を決めつけられ、けれど彼女に悲愴感は無い。
ただ、会いに行くだけだから。
「よっっしゃあああああ!」
V、ROOOM!ZOOOOOOOOOMM!
加速!
過速!
いい加減ガタが来はじめていた装甲車が小細工もブレーキも無く走る!
プレスキューブへと挑みかかる!
「頂いた報酬分は仕事で返すよ!ナード!」
レギオンの方にも、彼女を踏まぬよう、細心の注意を払う意味無し。
圧し止め圧し掛かり高電圧で焼き殺そうと——
「そっちに団体様ご案内!寂しくないね!」
カッ、と、急激な過熱。
ぼ、ご、オオオオオオオんン!
火柱が立方体を串刺す!
「おお、流石はテルミット。いい威力、いい鎔断力だ」
炸薬や焼夷弾に、超高熱化学反応もセット。ほぼ真下からの爆焔に、
「こ、殺した!ころした!おまえ!ころした!」
「自分で死にたい奴の面倒まで見きれるか。俺に出来るのは、望みを叶えてやる事くらいだ」
腰から筒状の兵器を抜き、投擲!
booooom!
Siiiiiiiizzle!!
追加の焼夷燃料!
炎上させ延焼させ
寄り合い密着しているからこそ火の手が楽々届いてしまう!
更に酸素濃度が低くなり一酸化炭素が生成されエネルギー補給としての呼吸を難化、レギオンの動作性は低下していく!
「あばばばばばばああ!」
「「あー、あー、あー、あああ~~」」
「博士!たすけて!あついよ!はかせええええ!」
急いで表面組織を、人体ごと切り離していく火達磨悪魔。
それは彼らが縮んでいくことを意味する。
「「「またあついよ!まだあついよ!」」」
せっせと集めたパーツ達を、
散々っぱら拾って回った肢体達を、
自発的に破棄させる。
賽の河原の積み石を、幼子自身に蹴り倒させる。
「来ないで!」
裸同然の彼らへ、直哉は無遠慮に向かっていく。
「こないでよ!」
言葉があったところで、彼は聞き入れない。珍種であるというだけで、皇直哉を思い通りにしようなどと、我儘が通ると甘えているのか?
いつまで経っても、物を知らぬ幼児である。
「それでも一端の未確認生物だろう?もっとマシな戦いはできないのか?」
「「「「ぁあああぁぁんんんんん」」」」
「「ぁああああっぁぁぁぁぁ」」
「そうかそうか。痛かったか」
帯電した何体かが飛び掛かってくるも、背中に把持されていたトマホークを手にZAPZAPZAP左右に数連掃いて
「はかせ、ぼく、わたちは、うまれちゃダメだったの………?」
「耳障りだ。寝てろ、ガキが」
未だにガス欠らしい巨体は、ヒクヒクと毛程だけ抗するのみ。
皇直哉はご存知の通り、復調を待ってやるほどの余暇を持たない。
叩いて叩いて叩いて叩いて、割って裂いて右手を刺し入れ、中からベタつく基幹部を摘出した。
それが思考ユニットだと、一目で分かる。
脳だ。
複数の脳が繋ぎ合わされ、一つの大きな器官と化していた。
——我々が見た中で最も精密な機構とは、人体である。
「どこぞのスーパーコンピューターを乗っ取るよりも、2000億もの神経細胞が既に搭載されている、生体電子計算機を再利用する方が、早く、安く、気取られ難い、か」
“脳喰らい”の目的は、レギオンのスペック向上だった。
神様とやらが権能を下ろすに相応しい、その偶像を構築したかった。
世界中から膨大な情報を集積し、それを並列処理し、また発信する。それを実行するメインサーバー役を担ったのが、この気分の悪くなる肉細工なのだろう。
「イヤダ、いや、イヤいやイヤイヤ、お、おぎゃ、おぎゃあ、おんギャぁ………」
抜け殻が何かブツブツと
「ソウイウノ、ヨクナイヨ」
「黙っていろ、口を開くな」
高く振り上げた足の裏を、
「そんなの、よくない——」
Squish
気後れなく下ろし
潰し砕いた。
「俺に、楽園はいらない」
自己を中心とする覇の暴君に、王道楽土など邪魔なだけ。
「ただ、俺だけが“今”、満ち足りていればいい」
彼と、彼ら。
その溝が埋まらなかったから、レギオンは視野狭窄の上、
——————————————————————————————————————
同時刻。
地中海沿岸レバント。旧シリア領内。
かつて「ダマスカス」という名で呼ばれた“汚染域”。その内側からの、所属不明の集団の攻撃より、一週間。それらによって警備隊が殲滅されたことで、原因の究明と対策の確立を急務とした調査部隊が、禁域の内部にまで派遣されていた。
防護服と銃火器で身を固めた彼らは、二の足弱腰竦み足、しかし鍛錬された兵員として恥じる事の無い進行速度で、禁忌の奥の奥までその歩を届かせた。
「おい、あれを……!」
決死隊は、そこで異様な建造物を見た。
場所は大学跡地。瓦礫や残骸が積まれて出来た、神殿にも墓石にも見える、法則も様式も無い建造物。左右も上下も非対称で、小児が考えずに組んだ積み木のよう。或いは、剪定されていない樹木のよう。
その根本に、ベッドが一つ。
降りしきる泥と灰を避ける為に、申し訳程度の天幕が張られ、周囲は丁重に散らかされている。
散積するは、フィルムテープやレコード盤。この惨禍の中にあって、刻まれた記憶を
白黒の景色の中に幾つも配された、ガイガーカウンターの針が振れる音色。
ガー!ガー!ガガッガッガッガ、ガーガガー!ガリガリガリ!
ガー!ガー!ガガッガッガッガ、ガーガガー!ガリガリガリ!
動く物はそれだけだった。
その祭壇に安置された、
念の為、脈を測るが、
誰が見ても、死んでいた。
「なんだ、ここは……?」
調査隊は付近を探索するも、目ぼしい収穫は上がらなかった。
この場所は異様に思えたが、それだけだ。
解決に導く大きな手懸りが、残っているわけでもなかった。
ただ、
尋常の生物が絶えたこの場所で、
その老人がたった今、息を引き取ったばかりかのように、
小奇麗に形を保っていたことだけが、
説明のつかない“不思議”だった。
この事件の真相は、
その後も明かされる事は無い。
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