嘉手納飛行場占拠・立て籠もり事件

 沖縄県嘉手納米軍基地。

 

 約20㎢に亘る敷地を持ち、東アジア最大規模の空軍基地とも言われている。

 100機程の軍用機が常駐し、嘉手納町の8割以上を占めているこの基地は、近隣への騒音被害で度々問題になるくらいには活発な軍事施設である。


 空の抑止力たるその場所では、しかし痛いくらいの沈黙が支配者となっていた。

 笑顔の軍服達が、何も口にせず立っている。皆が皆、職務を果たそうと動いていた最中、突如ピタリと動かなくなった。そしてその時と同じ立ち位置に、簡素な笑いを模り不動。

 日頃の騒ぎ振りを知る住民達は、その異変を肌で感じる

 

 こともなく、


 彼らもまた生活の中途で、半端に打ち切られたままだった。

 やはり単純な笑みを浮かべて。


 

 大気を切りながら耳を劈く轟音は無く、

 柔らかに凪ぐ気候が漂う。


 

 彼らはやがて、整列し始めた。

 広く平らな滑走路に、等間隔に並んでいた。

 太陽に向かって笑いかけ、天使が堕ちるのを待つかのように。


 もうじきに、来るだろう。

 歓迎しよう。

 ああそうとも、歓迎しよう。


 害しに来るぞ。

 支配しに来るぞ。


 

 暴虐の王様が、


 やって来る。

 






 音。

 パラパラと。

 この場所では珍しくもないそれ。

 ここからは聞こえないような、遠くか細い空震くうしん

 だが彼らの耳には、はっきりと。

 何故って、それを待っていたから。

 審判は近く、決着が迫る。


 選ばれるのはどちらであるのか。


「「ようこそ御出でくださいました、皇直哉様」」


 人々人ひとひとひとの、その中核。

 それが在った。

 或いは居た。


 染み穢れ無き、まばゆき大布。

 囲んで掲げる、眷属共。

 そのうち二つが声明を詠む。

 戦端を開く鐘を打つ。


「始めましょう」

「始めましょう」



「「我らの4分33秒」」



 その為に彼には、超えて貰う。

 指を跳ね除け手足を落とし、あれやこれやを切り伏せて、

 決戦場まで踏破するのだ。


 障害物で道を作って、自分は寝床にくるまりながら、彼らは王の来訪を待つ。


 それに権威を授けた者に、問いを重ねて真を見る。


 「是」か「否」かのみを返す者へ、ただただ質すのを繰り返す。


 答えを知る事が、彼らの使命なのだから。

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