Masquerade
とある王様の物語 Finale
「なん、だよ、その………」
少年は全てを失いました。
少年は友を失いました。
少年は財を失いました。
少年は親を失いました。
少年は恋を失いました。
そして到頭、少年は——
少年は、もう何も持っていません。
少年は、もうそこには居ません。
少年は、己を失いました。
「そんな筈が…………」
少年は、そこに確かに居ます。
さっきまで王様は、少年を蹴り転がし、踏み潰し、その鼓動と体温を認めていました。
生きて、そこに立っているのです。
でもその少年は、そこに何も無いかのよう。
少年はきっと、何もかもが恐くないのでしょう。
だからそのままを読み込んで、見えない所に仕舞い込まず、その手に持ち続けています。
そうすることで、よりそのままに近い、沢山のものが見えるようになるのです。
それらを頭でなく、全身で、魂で理解出来るようになるのです。
その中で少年は、何もしません。
全てを手に入れて、だけれどそれに干渉せず、ただ表面を優しく撫でるだけ。
万象を楽しみながらそれに溺れず、奇跡を目の当たりにしても当然のように過ぎていきます。
世界と一体化し、そこに流れる力学と同化しています。
幸せにすら確かな手応えが欲しくて、自分では無い誰かを不幸にしている感触が恋しくて、それで暴力と拷問の限りを尽くす。手足伝いに、他者から奪う快楽に病みつく。
そんな王様とは、正反対。
少年が、王様を見ます。
その瞳は、鏡のようにくっきりと輝きます。
そこにあるものを、そのまま映しているのです。
曲げも変えもせず、ありのままを。
それに映った王様は、なんだか惨めに見えました。
何も持っていない、可哀想な子どものようでした。
少年がそこに在るだけで、王様の生き方は否定されました。
存在するなら、王様が持っている。
王様が持っていない、則ち存在しない。
そう思っていました。けれどそうではなかったのです。
みんなが当たり前に持っているらしいものを、
有るのを感じているらしい何かを、
王様が持っていなかっただけ。
王様では手が届かなかっただけ。
王様は、誰よりも貧しかったのです。
誰よりも、乏しかったのです。
それを知った王様は、欲しがりました。
「まって………!」
でも、追い縋った時にはもう、
少年は何処にも居ませんでした。
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